第10話 襲撃ー対魔人戦2

side:ダリウス


「はぁぁぁ、ラス…トォ」

メイスを横にフルスイングすると最後に立っていたオークの顔にクリーンヒットした。オークは膝から崩れ落ちて倒れていった。


「あ”あ”ー、しんどい」

メイスを突き立て杖替わりにすることで何とか立ったままでいられた。

ゼィゼィと肩で息をしており、魔獣たちの攻撃や味方の魔法の余波を受けたりと、身体中に無数の切り傷や火傷痕が出来ている。


このままいっそ地面に座り込んでしまいたいと思えるほど疲労困憊だ。

だが、魔人達と戦闘中の今、そんなことはできない。

俺は3人の魔人を視界から外さないようににらみつけていた。


パチパチパチパチ


「んー、エクセレント。満身創痍ながら警戒を緩めず、つねに危機を意識している。実に我好みだよそこの少年。」

変態が嬉しそうに俺を指さして褒めてくる。

だが、変態に褒められてもうれしいどころか迷惑極まりない。


「いや実に見事。弱い魔獣達とは言えかなりの数いた我の配下を撃破するとは思っていなかった。」

マッドサイエンティストは配下がやられたと言うのにうんうんと嬉しそうに頷いている。


「うむ、特にダイも言っていたそこの少年は素晴らしい活躍だったぞ。一人で全体の3割の魔獣を倒すとは予想していなかったぞ。

 流石はこの中で一番の魔力持ち。武器の扱いはまだまだだが、魔力の多さを活かして魔獣を屠っていく姿は一騎当千の強さ。敵ながら見事なり。

 お主、名は何という?」


突然、魔人アナハイムから振られた質問に一瞬硬直する。

俺は顔は動かさずに目だけでチラリと周囲を見渡す。


魔獣との戦いは俺達にとってかなりキツイものだった。

致命傷を負ったのは5人。彼等は治療する間もなくこと切れていた。

生き残っている人も皆どこかしこに傷を作っており、疲労が蓄積しているのが分かる。

親父やレインも立っているのがやっとといった状態だ。

魔獣との戦いで皆ボロボロ、このまま戦闘になったら全滅するのは目に見えてる。


なら少しでも回復する時間が必要だ。

それに、切り札の準備もしておかなきゃいけない。


「俺か?俺の名前はダリウス。このイーレ村の村長の息子だ。


「ではダリウスよ。このアナハイムの名においてお主を真の強者であると認めよう。

 喜べ、ダリウス。これでお主は我ら魔人と戦う権利を得たのだぞ。」


ふ・ざ・け・ん・な。


なんか勝手に強者認定した挙句、戦う権利を得たーだ。

俺はお前らなんかと戦いたくねーよ。

なんで戦う権利貰って喜ぶと思ったんだ。バトルジャンキーと一緒にすんな。


「他にも何人か眼鏡に適う者がいるようだ。ちょっと失礼。」

アナハイムはそう言うと、ハッと声を出した。


その瞬間、心臓がきゅっと掴まれたような錯覚に陥り息が止まる。

すぐにその雰囲気は収まり、息ができるようになった。


「まぁもっとも、まだ戦えそうな人間はあまりいないようだが。」

アナハイムの言葉で周りを再度見渡す。


俺以外には親父とレイン、マイクの4人だけが立っていた。

他は皆気絶していた。


「何をしたんじゃ?」

親父がたまらず声を荒げた。


「ああ、魔力当たりと言う技術だ。

 我の魔力を波長にしてお主らにブツけただけのこと。

 たわいもない児戯のような技だが、ある程度魔力を受け止めるキャパシティが無い者にはあのように魔力酔いに近い症状に陥り気絶する。

 我らが強者か判断するにはいい指標だろう?」


魔力当たりという技で一定のレベルに達してない村人達を気絶させたか。


ただでさえ、戦いによってボロボロのところに人数的なアドバンテージまで取り上げられたか。


こうなったらうまいこと魔人と交渉して活路を見出すしかない。

ただ、その交渉役ができる人間がいるかと言われると、…。


くそだるい展開だな、まったく。俺がやるしかないか。


「魔人、たしかアナハイムとか言ったか?

 確か俺はあんたらと戦う権利があるんだったよな?」


「ああ、そうだ。我ら魔人はダリウスを強者と認めたからな。」


「じゃあ、アナハイムさんよ。

 あんたら魔人3人のうちの誰か一人と俺で1対1で勝負しないか?」


そう言って、俺はふんぞり返るように胸を張った。

それは不安を表に出さないよう精一杯の虚勢。

だがハッタリでも何でも余裕があるように見せなければならない。


アナハイムは驚きの表情を浮かべていたがくっくっくっと笑い始めた。


「よかろう。その申し出受けようじゃないか。」

アナハイムは一歩前に出て言った。


「その前に、一言言わせてもらう。

 強者を欲すると言っておきながら、あんたら随分と小者じゃねーか。」

俺は語気を荒げて言った。


「「「何?」」」

魔人3人の発する圧が高まった。聞きづてならないと言わんばかりだ。


肌がひりつくのが分かる。まったく肝が冷える。

魔人1人でも敵対したくないのに、それが3人とか相手にしたくない。

このプレッシャーから逃れるためにさっさと謝ってしまいたい衝動に駆られるが、同時に下手に出るのは悪手だと本能が告げている。


魔人は強者を求めている。では、強者はどういった存在か?

相手が強いからと言って、へりくだり迎合するような輩はそう強者とは呼ばない。


つまり、対等もしくは不遜な態度で接する方が奴ら好みに決まっている。

だから俺はさらに煽る。


「理解できなかったか?なら言い直してやるよ。てめーらは臆病者だ。」


「やめろ、ダリウス。」

親父が必死の形相で俺を止めようとする。

悪いけど、止める気はない。半端は奴らが一番嫌う。


「吠えるではないか。ダリウスとやら」

魔人アナハイムは今にも襲いかかってこようとしている配下の魔人2人の行動を制し、一段低い声で答えた。


「へっ。事実だからな。

 魔獣を使って強者の選定をしただと?笑わせんな。

 雑魚で俺達の戦力を削って自分達が負けるリスクを減らしたいだけだろうが。

 強者と戦いたいなら先頭切って戦いに来るぐらいのことしてみろや。」


「フハハ。いいねいいね。言うじゃないか。その思想、実にフェイバリットだ。

 隊長、あの小僧は我と戦わせてくれ。」

変態がアナハイムに進言する。


「いや、あの無礼者とやるのは我が妥当というものです。

 なぜなら我が僕である魔獣を討伐したのですから、主である我が仇を討つ必要がりましょう。」

マッドサイエンティストも進言する。


「我はこの部隊のリーダー。責を負うのは長の務めだ。

 我ら魔人を臆病者だと言ってのける愚か者にきっちりケジメを付けねばならぬ立場よ。であれば、我自らがあの小僧に鉄槌を下さねばな。」

魔人アナハイムは獰猛な笑みを浮かべた。


「あー、隊長。単純に戦いたかっただけでしょう?」

「やれやれ、流石にそれはナンセンスというもの。」

部下2人が文句を言うが、魔人アナハイムは権力で強引に黙らせた。


「おい、あんたら。こっちの話は無視かよ?」


「安心しろ、今決まったところだ。隊長である我が相手をしよう。」


「いや、そう言うことじゃねーんだが。

 やっぱり俺はどうもこういう脳筋野郎は苦手みたいだ。

 話はできるのに話が通じないとかストレスでしかない。」

ダリウスはそう言ってぼりぼりを頭をかいた。



「さて、そろそろ回復できたか?

 さぁ我との闘争を始めよう。」

アナハイムはニヤニヤ笑っている。


チッ、俺がわざと話をした意図をしっかり見抜いてやがる。

まぁ少々露骨だったからな。


えーっと、確かエドが言ってたな。魔人というのはーーー。

俺は魔人の特徴を思い浮かべながら、メイスを握り直した。


「ふぅー、よし覚悟を決めろよ、ダリウス。」

そう自分に言い聞かせてアナハイムを向く。


「始める前に確認いいか?」


「ああ、良いぞ。我らを煽ってまで1対1で対戦するよう誘導したのだ。もう少しだけ付き合ってやる。」


あー、やっぱりバレてるわ。

やっぱ面倒だな。


ゲンナリした気分を誤魔化すため、コホンと咳を一つ。仕切り直しだ。


「では、この戦いは俺ダリウスと魔人アナハイムとの対決だ。今この場にいる誰も助太刀してはならない。」


「良かろう。ゾン、ダイお前達は手出し不要だ。」


「「了解」」


「それと、勝敗はどちらかが負けを認めるか気絶、死亡した場合とする。ただし、敗北宣言は口頭だけでなくジェスチャー等の宣言も有効とする。

こうしないと喉を潰されて宣言出来ないなんてことにもなるからな。」


「ふふ、承知した。それで、小細工はこれくらいで構わないのか?」


俺は無言で首肯する。

ヤロウ、何が出てくるかワクワクしてやがる。

今に見ていろ。目にもの見せてやる。


「ならこちらから1つ。

 開始直後の敗北宣言は無効にしてもらう。最低でも5分は闘争してもらう。」


「わかった。じゃあ始めようか。」

俺は今から経験したことのない魔人という未知の敵を相手にする。

だが不思議と恐怖はない。

むしろ高揚感すらある。


「なんだ、お前もイケるクチじゃないか。

 口許が笑ってるぞ。バトルジャンキー」

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