第09話 襲撃ー対魔人戦1
side:ダリウス
「ほう。よく我の前に現れたな愚か者ども。歓迎してやるぞ。」
魔人アナハイムは凶悪な笑みを浮かべている。
気が充実しているというのか、ご機嫌で殺る気マンマンな感じがこちらにまで伝わってくる。
「その目、実にいい。弱者が強者に挑もうとするその精神。エクセレント!」
魔人アナハイムの配下の一人は身悶えている。
ヤベーな、あれは変態の類だぞ。
「我らに立てつこうとは、人族はやはり愚かなですね。
あまりに非合理的で理解に苦しみます。
ですが、その愚かさ嫌いではありません。」
いや、お前人間のこと好きなのか嫌いなのかどっちだよ。
魔人アナハイムのもう一人の魔人は眼鏡をクイックイッとしており、マッドサイエンティストな雰囲気が出ている。
俺達人間の中で、魔人はヤバイ奴だというのが常識となっている。
それは人よりも基礎能力が高く好戦的な種族であるからだと言われている。
だけど、実際に会うと違う意味でヤバイ奴だと思う。
こいつらの総じてキャラが濃すぎる。
「魔人よ。お主らの目的はなんだ?」
親父は俺達より一歩前に出てアナハイム達に質問した。
殺る気に満ち溢れた魔人達の雰囲気に呑まれることなく堂々と対峙した親父の姿に俺は心の中で感嘆する。
「目的?先ほども言っただろう。この村を襲うことよ。」
魔人アナハイムが答えた。
「そこではない。この村を襲ってどうするのかということだ。
ここは辺境のド田舎の村よ。そんな村を襲った所でそちらにメリットは無いだろう。」
「詳細は知らん。我らは任務として赴いているだけだからな。
だが、そうだな。我らは強者との戦いを欲している。
だから、お前たちのような愚か者共がこの場にいることを嬉しく思うぞ。」
なるほど、流石はバトルジャンキー。
魔人アナハイムにとって俺達と戦うこと自体が娯楽なのだろう。
「ならば、お主ら3人で良かろう?なぜ、後ろに魔獣を待機させている?」
親父は眉間にしわを寄せながら魔獣たちを指さす。
戦いを欲するなら魔獣などを引き連れてくる必要は無いはずだ。
「その質問には我が答えよう。」
そう言ったのはマッドサイエンティスト魔人(俺命名)だ。
眼鏡をくいっとする仕草が鼻につく。
「端的に言って、脅しと選別のためです。
こいつらは我の配下であり、我の命に従い行動しています。
そんな魔獣を100以上引き連れているとそれだけで圧になるでしょう?
人間は精神が弱いのかそれだけでパニックになり恐怖で震え上がるようですよ。」
「確かに。その数の魔獣は脅威以外の何者でもない。
だが、それでは誰もが逃げ出すだろう。
強者と戦うという目的にそぐわんと思うがの。」
マッドサイエンティスト魔人の説明に村長は皮肉を込めて返した。
だが向こうはフフフと笑っている。
「いや、そうでもありませんよ。
考えてもみてください。我らを見て逃げ出すような者は弱者に過ぎません。
戦うに値しない者のための時間などありません。
ですが、時折あなたたちのように我らに盾突く愚か者が現れます。
我ら誇り高い魔人は、たとえ戦闘能力が劣っていようとも奮い立つその精神性に敬意を表しています。
あなた達は我らと戦うに値する資格を有しているのです。」
ビビッて逃げる様な臆病者は去れ。彼我の戦力差を理解しながらも歯向かうだけの気概を持った者を望んでいるわけだ。だから愚か者を歓迎するということか。
全く、魔人という奴等は度し難いほどに戦闘狂だな。
「なるほど、魔人がバトルジャンキーというのは本当だったか。」
その呟きは誰のものだったか。
だが、その言葉は魔人にも伝わった。
「我らをそう呼ぶ輩もいますな。
我はその呼び名は嫌いではありませんよ。我らを正しく認識していて好感が持てるほどです。
さて、先ほども話したようにあなた方は我らと戦う資格を得ただけに過ぎません。
我ら魔人にとってはあなた方が相手するに足る強者かどうかは分かりません。
ところで、我らの後ろにいる魔獣たちは大人しく待機しているでしょう。
なぜだかわかりますか?
答えは我が命じたから。
この魔獣たちは皆、我の配下であり我の命令を忠実に守ってくれているのです。
そこでですね。我の配下たちを使ってあなた達を選別させたいんですよね。
強者かどうかを判断するための試金石としたいんですよ。」
マッドサイエンティスト魔人はアナハイムの方を見た。
「なるほど。何のために連れてきたのかと思っていたがそれなら納得だ。
早速だが魔獣たちと戦ってもらおうか。
その前にルールを決めておくか。
そうだな、そちら側の人員が死亡や戦闘不能などによって一定数減ること、
もしくはこちら側の魔獣が全滅した時点を持って終了とする。」
魔人アナハイムが勝手なことを言い出し、話の流れについていけていない俺達は皆呆気に取られていた。
だが、すぐさま現実に引き戻された。
「時間が惜しい。さっそく始めるぞ」
アナハイムはそう言ってマッドサイエンティスト魔人をせかす。
「少々お待ちください。
―――、大丈夫です。準備が整いましたのでいつでもいけますよ。」
マッドサイエンティスト魔人の言葉に頷いたアナハイムは開始を宣言する。
「我の配下たる魔獣たちよ、村人達を蹂躙しろ。」
マッドサイエンティスト魔人がそう言ってパチンと指を鳴らすと、待機していた魔獣たちが一斉に動き出した。
「全く、魔人共はせっかちだな。こちらも動くぞ。
第二陣はそのまま待機。第一陣は打って出るぞ。展開しろ。」
村長の掛け声とともに、こちらも動き出す。
俺たちは攻撃に特化した第一陣と守備に特化した第二陣にわけている。
相手が魔人と魔獣で数の上でも不利な条件。
少なからず負傷者が出るので治癒に特化したメンバーを後方に配置して傷ついた仲間の治療に充てる。
そうすることで戦線を少しでも維持しようと考えていた。
なので基本戦略は変えない。
だが、魔獣を従える者がいてこれから一斉に襲ってくるとは厳しい戦いになりそうだ。
「第一陣気合を入れろ。出し惜しみは無しだ。」
親父の号令で俺たちは魔法を発動させる。
「「「「身体強化」」」」
魔法の中でも広く使われているものの1つが身体強化。
自らの肉体を一時的に強化してくれる魔法であまり魔力量を必要としない魔法。
そのため、貴族の1/10程度しかない平民たちでも使える便利な魔法だ。
「さあ行くぜ。魔獣ども」
俺は独りごちて気分を高揚させた。
***
最初に襲ってきたのはゴブリンだった。
ゴブリンは攻撃力は低いものの知能が低いせいか特攻してくることが多い。
小さいので狙いにくいというのもあって多勢で来られると厄介な魔獣だ。
俺は突進してくるゴブリンをメイスで横薙ぎに殴る。
殴られたゴブリンは後ろにいたゴブリンを巻き込んで倒れた。
すかさず倒れたゴブリンたちをメイスで叩いて屠る。
すると横からナイフを持ったコボルトが現れた。
サイドステップでナイフを躱し、メイスで足をすくい上げて転ばせ潰す。
再びゴブリンが襲い掛かってくるが、倒したコボルトを投げつけて転倒させ潰す。
敵を崩し機動力を失わせた上でトドメを刺す。
同様のやり方でゴブリンやコボルトを倒していく。
比較的小柄なゴブリンやコボルトはそれで問題無かったが、オークの場合はそうはいかない。
肉厚で重量のある体躯、武器として持っているこん棒は攻撃力が高い。
幸いなのは俊敏性が低いのでその点を突けば対処できる。
「武器強化」
俺は魔法によってメイスの攻撃力を上げた。
「うらぁあぁ」
俺は雄叫びをあげながら振り下ろされたオークのこん棒をメイスで受け止める。
オークの体重の乗った攻撃はかなり重かった。
だが、身体強化と武器強化をしたことでこん棒による攻撃をはじき返し、隙が出来たところでメイスを振り下ろし脳天にクリティカルヒット。オークは一発退場となった。
まったく、倒しても倒してもいるじゃねーか、そう思ってうんざりしている時。
ガキィーン
金属のぶつかる音がして横を向くとそこにはナイフを持ったコボルトと剣で防いでいるマイクがいた。
「おっと、やらせねーよ。
おい、ダリウス。気を抜くんじゃねーぞ。
魔獣どもの中には狡猾な奴もいてこういう時を狙ってくるのもいるんだからな。
後、あまり力み過ぎるなよ。視野狭くなってんぞ。
俯瞰して全体を見なきゃこういう混戦の時は殺られるぜ。」
俺の死角から迫ってきていたコボルトの攻撃を防いだマイクから檄が飛んだ。その後マイクは蹴りで崩してコボルトにトドメを刺していた。
「助かった。分かってるつもりだったんだが、俺もまだまだかよ。
はぁ、くっそだりぃな。」
思わず愚痴ってしまう。雑魚とはいえこれほど大量の魔獣と敵対したのは初めてだ。
襲ってくる魔獣たちはゴブリンにコボルト、オークにオーガまでいる。
負けるとは微塵も思わないが、面倒くさいことこの上ない。
周囲を見ると、流石に今まで魔獣退治をしてきた面々だ。
動きが俺なんかより洗練されてる。そのうえ、連携も上手いときた。
ゆっくり観察していたいが、敵はどんどん襲ってくるのでそんな余裕はない。
こういう時にエドワードがいたら楽なのにと、あいつに押し付けてやるのに。
この場にエドワードが居ないのが悔やまれる。
複数の魔獣が混在しているのに、魔獣同士で潰し合いにならないのは魔人の僕であるからか。魔獣同士での潰し合いは期待できそうにない。
唯一救いなのは、魔獣は連携が取れるほど知性はないと言う点だ。
ゴブリンの攻撃を躱し、左手で殴りつける。ゴブリンは顔が潰れて数メートル先に吹っ飛んでいった。
横からやってきたオークにメイスをフルスイングする。当たり所が悪かったのか、顔と身体がお別れしていた。
しかし、それで一息つくわけにはいかない。まだまだ魔獣はいるのだ。
360度どこから攻撃が来るか分からないというのかなり神経を使うな。
致命傷となる怪我はないものの、少しずつ切り傷などが増えていった。
「ぎゃああ」
声のする方を見ると、第一陣のメンバーであるカリストの左手の手が無くなっていた。
それを皮切りに撃退チームの第一陣の中から重傷者が出はじめた。
「今行くわ。」
そう言ってレインはエドワード仕込みの身体強化を使った移動術でまるで瞬間移動のごとく駆けていき、治療に当たっていく。
レインはカリストの左手拾うとカリストの左手首と引っ付け、治癒魔法を発動。
すると、瞬く間に左手は癒着し元通りになってる。
レインは次々に負傷者を治療していった。
レインだけではない、第二陣の中から治癒魔法に長けた者がそれぞれ負傷者を治療しながら魔獣を屠っていっていた。
魔人たちは魔獣たち相手しているイーレ村の人々をみて笑みを深めた。
「素晴らしい。我は感動に打ち震えている。
これだけの益荒男たちと死合える喜びに、運命の神に感謝している。」
「いやいや、我らは魔人ですよ。感謝するなら魔王様にでは?」
「ソンの言う通りだ。ダイも感謝するなら魔王様にしておけ。
それにしてもこんな辺鄙な場所でこれほどまでの強者がいるとはな。
命令を受けたときは期待していなかったが、久々に滾ってきたぞ。」
村人たちの思いがけない善戦は否応なく魔人たちの琴線を刺激した。
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