第13話 襲撃ーもう1つの戦い2
side:悪魔パルバフェット
「ほほう」
悪魔パルバフェットは感嘆していた。
人間のそれもまだ子どもの魔力量と魔力制御がこれほどまでに優れているとは思わなかったからだ。
「少年、その年にしてはかなり強そうだが、君が相手になるというのかね?」
「… そうだ。」
少年はコクリと頷いた。少し緊張気味だが、その表情に恐れは見えない。
むしろ覚悟を決めた表情をしている。
恐らく目の前の少年はこの集団の中で一番強い。そして本人もそのことに気づいている。だから、皆を守ると言う使命を果たすべく私の前に立っている。
少年の自己犠牲の精神は愚かしいと思う反面、個人的に好感を持っている。
だが、残念なことに私は悪魔なのだ。
悪魔は契約に縛られている。
これは不変の定義でありかえることが出来ない。そういうものなのだ。
改めて少年をみやる。
ふむ、なかなかに上手に身体強化魔術を行使するものだ。魔力制御に長けているのだろう。そういう輩は人間といえども侮れない。
我ら悪魔に比べ非常に少ない魔力量を魔力制御と運用方法しだいで渡り合ってきたのだから、その研鑽と努力は認めるところだ。
それだけに惜しいと思う。
このまま成長すれば頭角を現す存在になり得ただろうに。
だからと言って私が何かすることはあり得ない。
「勇気を振り絞り立ち上がった勇敢な少年よ。名は何という?」
「僕の名前はエドワード。
だけど、覚えておかなくていいよ。
後々悪魔に付き纏われても迷惑なだけだからね。」
私はその言葉に笑いが込み上げて来た。
目の前の少年–––エドワードといったか–––は興味を持たれても迷惑だと言ってのけた。
我々悪魔と敵対して生き残れるかどうかという心配は一切していない。
井の中の蛙、大海を知らず
彼は圧倒的な才能と実力を持ち、それに見合うだけの努力も重ねて来たのだろう。
だが、それは所詮田舎の村という世界を知らない閉じられた箱庭の中での価値観でしかない。
さらには言えば、彼は脆弱で短命の人間種だということ。
種としての強さの限界があり、それは魔人等の上位種との隔絶した差がある。
当然、我ら悪魔から見ても人間種は弱者であり、彼のような個体差はあるだろうが有象無象に過ぎない差だ。
だが、世間知らずの子どもは世の中の道理を理解することが出来ない。
「はぁ、骨の折れる仕事になりそうですね。
私は平和主義者なので野蛮な殺し合いをしたいわけでは無いのですが…。」
「なら引いてくれないかな?
こちらとしては穏便に済ませることができればそれがベストなんだけど。」
エドワードの要望は最もだが、残念ながら私にその選択肢は選べない。
パルバフェットは首を横に振った。
「残念ながらそれは無理な相談と言うものですね。
心情的には前途有望な少年を手にかけたくはないですが、これは契約で決まっていてね。
申し訳ないが、このような運命に見舞われた不運を恨んでください。」
「へぇ、やっぱり契約なんだね。」
エドワードは言質を取ったと言わんばかりにニヤリと笑った。
(なんだ?鳥肌が止まらない)
私は何とも形容しがたい感情に襲われ、エドワードに対する警戒レベルを一段上げた。
「エドワードと言ったね。君は何を知っているのかな?」
私は努めて感情を顔に出さないよう仮初の笑みを貼り付けたままエドワードに語りかける。
おっといけない、思わず魔力が漏れ出てしまったようで、エドワードが一瞬ピクリと反応していた。
「悪魔について多少勉強したんだ。
例えば、悪魔は契約召喚されないとこちら側に現界できないとか、術者と契約すると契約内容に応じて行動や思考に制限がかかる。とかね。」
楽しそうに語るエドワード。一方、私は言い知れぬ不安に襲われた。
(私が年端もいかぬ少年に恐れを抱いているだと?馬鹿な。
だが、彼はどこまで我ら悪魔の秘密を知っている?)
「なるほど、よく勉強をしている。」
ガッ
鈍い音が響き渡り、私は驚きのあまり固まった。
不安に駆られた私は予定を切り上げてエドワードをそうそうに
悪魔としての本能が彼という危険な存在をただちに排除したかったからだろう。
本能が理性を侵食していく。
敵と相まみえた時、それは既に戦いの始まり。
今まで会話を続けていたのは情報収集と相手の油断を誘うための罠。
悪魔の話を嬉々として語った後、彼の緊張感が薄れていることに気づいていた。
だから、私はここを好機ととらえ行動に出た。
悪魔の特徴の1つに形質変化と言うものがある。
形質変化は物体の形を変えることだ。悪魔はそれを自分の身体にも適用できる。
私は形質変化を使って15cmほどの鋭利で硬質な爪を作り、高速移動でエドワードの間合いを一気に詰めて心臓を一突き。
それを会話途中の油断しているであろうタイミングで不意を突いて刺突すれば終わりだと考えていた。
そのはずだったが、描いた青写真は現実にならなかった。
計画通りパルバフェットはエドワードの不意を突き、高速移動で一気にエドワードに近寄り。長い爪で心臓を突く。
だが、パルバフェットの爪はエドワードの身体に触れることなく、その手前1cmのところから進めなくなった。
まるで、空気がエドワードの周りを囲んで守ってくれていたみたいだ。
「油断も隙もあったもんじゃないね。
悪魔とは仲良くなれそうにないな。」
エドワードはため息をついている。
本当にため息をつきたいのは私の方なんですが。
「そうですか。私はがぜんあなたに興味を持ったところだったのですが残念です。
契約に従いここで死んでもらいます。」
エドワードが後ろを振り向きながらメイスを横なぎに振るう。
静寂の中、鈍い打撃音だけが響き渡った。
私はエドワードの振るったメイスを右腕で受け止める。
形質変化で腕を強固にしたことでダメージはあまり溜まっていない。
「…今のに対応しますか。そのつもりはなかったが侮っていたようですね。」
パルバフェットは後ろに下がり、エドワードと距離を取った。
***
side:エドワード
僕はポーカーフェイスを貫いているが冷や汗が止まらない。
パルバフェットの初撃は全く反応できなかった。
警戒のために厚く<魔力纏い>を発動させていたことが功を奏した。
<魔力纏い>は身体の周りを空気の膜が覆う業。
提供する魔力量に応じて<魔力纏い>の膜の強度が変化するので、僕は多くの魔力をつぎ込んでいた。
だから、パルバフェットの爪攻撃を防ぐことが出来たのだ。
二度目は、身体強化による能力底上げと気配察知のスキルを併用してようやくパルバフェットの一撃に対応できたものの、このままではジリ貧になることは必至。
時間稼ぎと動揺を誘うため、僕はブッこむことにした。
「ちょ、ちょっと待って。まだ話の途中です。急に攻撃してこないでください。」
僕の言葉にパルバフェットの殺気が少し収まった。
「あなた達悪魔の契約には抜け道がありますよね?」
その言葉にピクリと反応したパルバフェット。
よし、釣れた。
無言を通しているが、肩がぴくぴくと反応している。
このまま話を進めてもよさそうだ。
「悪魔の契約は自身が契約内容を把握することで縛られます。
ですが、その契約内容の解釈によって縛りの範囲が変更できます。
つまり、契約の解釈を変更すれば私たちは敵対する必要が無くなる訳です。
悪い話じゃないと思いますが?」
「………。」
パルバフェットは少しの間、無言だったがやがて口を開いた。
「面白い発想をするじゃないですか。
なるほど、考えたこともありませんでした。
しかし、折角のご提案ですが私にも矜持というか拘りのようなものがあるのですよ。
その中の1つを特別に教えてあげましょう。
我々悪魔は弱者の言葉に耳を傾ける気は無く、話を聞かせたいのならどういう形でも構いません。私を屈服させてみせなさい。」
そう言うとパルバフェットはニヤリを口角を上げた。
なんとなくさっきより雰囲気が変わったような気がする。なんか荒々しくなったような。
まぁそんなことよりこれからのことだ。
パルバフェットに話を聞いてもらうためには力を示す必要があるということになった。
武力回避しようとしたのに結局そうなった。
結局戦わなくてはならないのか。
仕方ない。うん、僕は頑張ったけど無理だった。
なら、
「掌握」
僕は呪文を唱え、パルバフェットに肉薄した。
そのままメイスをフルスイング。
「なっ」
パルバフェットの動きが一瞬固まった。
驚きの表情を見せるパルバフェット。
メイスによる攻撃がパルバフェットの脇腹に直撃し、彼はそのまま吹っ飛んでいった。
「すごいわね。鑑定の儀でも驚かされたけど今日のはそれ以上だわ。まさか悪魔をやっつけちゃうなんて。」
シスターマリアは驚きの表情を浮かべながら話しかけてきた。
あ、マズイ。嫌な予感がした。
相手の死亡を確認したわけでもないのに、第三者が勝手に勝利宣言をする。
すると、お約束では生きていた悪魔に反撃されて関係者が死亡するなんて流れ。
僕は本能的に危機を悟った。
ここはゲームの世界。本編から外れたサブ回想のイベントだがそれでもお約束は踏襲される可能性が高い。お約束だからな。
歩きながら近寄ってくるシスターマリアを抱えながら転げるように横に跳んだ。
その直後、僕とシスターマリアがいた場所に一条の光が通り過ぎていった。
「へぇ、やるじゃないか
そこには無傷の悪魔パルバフェットが立っていた。
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