第67話 17歳 土と火の精霊に愛された民の地

 私が世界樹に不時着するまでが空中遊泳だとしたら、世界樹の枝から飛ばされるのはホームランボールであるだろう。私がボールで、世界樹の枝がバットだ。


 私の着地の衝撃を全て受け止めた枝がもの凄い勢いでスイングされ、私の体はまた大空へと吹っ飛ばされていく。


 突然の枝の揺れ返しで変な姿勢で飛ばされてしまった。


 あっという間に、私の体は青々とした世界樹の森の境界を越えた。場外ホームランが球場の外に消えて行くのと似ている。


 放物線の軌道を描いていた私の体は下降へと向かう。徐々に高度が下がってきた。そろそろ着陸の準備をしないといけない。


体勢を整えないと、受け身を取ることすらできない。


 森ならば着地前に同じように木に掴まれば落下の衝撃をやわらげることができのだけれど、もう世界樹の森を越えてしまった。


 私の体が飛んでいる方向は、山脈である。上手に受け身を取らないと山と衝突してしまう……。


 地面と私のまっすぐに伸ばした両手が接触した瞬間。その瞬間に私はまるでダンゴムシのように丸くなる。両足を両手でキツく抱えて、両膝とおでこを密着させる。

 

 自分の体を玉にして、コロコロと転がって着地の衝撃を受け流す。


 運動エネルギーが尽きるまでは、私は転がるのに身を任せるしかない。


「里に猛スピードで近づいてくるぞ! 警報を鳴らせ!」という声が聞こえた。


「なんだあんな魔物見たことないぞ!」


「あれはアルマジロだ!」

 

 カン、カン、カン


 金属の鐘が慌ただしく鳴り響き始める。一体何が起こっているのか、私は転がり続けているので顔を上げることができない。


「女、子どもは避けろ! 気をつけろ! 家屋に突っ込むぞ!!!」


 そんな声を聞いた瞬間、私の体は衝撃を受けた。何かにぶつかったらしい。


 痛いなぁ……後頭部を打ったので右手でそれを撫でる。そしてさすがにくるくるとでんぐり返しを連続でしたようなものだから目が回った。


「ん? お前、エステルか?」


 私の名前が呼ばれた気がした。私が顔を上げると、そこにいたのは、山小人ドワーフ……ではない。そう呼ぶと怒るのだ。見覚えがある顔だ。


「えっと……土と火の精霊に愛された民のアクシオス?」


 懐かしい。たしか、5、6年前に会ったぶりだ。髭なんて生やしちゃって大分大人っぽくなった。まだ私と同じ17歳なのに。


「やっぱりエステルか……。久しぶりだな。だけど、一人で『土と火の精霊に愛された民』を襲撃してくるとは、中々度胸があるな」


「え?」


 よく見ると、アクシオスは大きな木槌を構えている。って、後ろにいる『土と火の精霊に愛された民』も、各々武器を持っている。殺気に溢れている。


「空に流星が二度見えた……やっぱり、不吉なことが起こる予兆だったのじゃ」


「きっとこいつは里に不幸を撒き散らすわい……言い伝えの通りじゃ……」


「殺すか?」


「いや……『Δάφνηの民』は強い。怒らせると里が本当に滅ぶ……」


「だが、見たところ子娘じゃ。こちらは多勢じゃぞ?」


 何やら、後ろで『土と火の精霊に愛された民』の長老格の人達がこそこそ話をしている。全部、聞こえてしまうのだけどね。

 それに、空に流星が二度見えたって、きっと私が大気圏突入している様子のことだろう。きっと、地上からは流れ星のように見えたのだろう……。


 どうやら私は、運悪く『土と火の精霊に愛された民』の里に不時着してしまったようだ。それも、家を大破させて……。


 『土と火の精霊に愛された民』の殺気はどんどん高まっていくばかりだ……。たぶん、里を襲撃してきたと勘違いされているのだろう。


 『土と火の精霊に愛された民』がどんどん集まってくる気配を感じる。う〜ん、危険を感じてしまう。どうしよう……。 

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