第64話 17歳 鳥鍋を食べて、寝る

 お茶休憩を挟んだ後に行われた、Τιγριςとの2回戦。


 Τιγριςには奇襲が二度目の奇襲は通じないようで、正面切っての総力戦となる。


「今よ、アベル! 回り込んで! エステル援護を!」


「「了解」」


 オルパさんの指示は的確だ。さすが、47歳。私の2倍以上の時間をエルフとして生きていただけある。経験が違う。


 だけど、Τιγριςが一枚上手だった。


 精霊術であろう炎の壁が、六花へと急ぐアベルさんに立ち塞がる。


 カバーに入ろうとした私とオルパさんには落雷が落ちる。 


 私たち三人とΤιγριςの戦いは、包囲戦というより、旗取り合戦のようになっていた。


 世界樹を背にされて、六花を守る体制に入られたら、私たちは手が出せない。


 Τιγριςを六花から引き離さなければならない。


 六花が咲いている場所を、私たちとΤιγριςが奪い合う戦いだ。Τιγριςを上手く六花から引き離し、私たちの誰かが六花の傍にいけたら、今度は、六花を採取するのをΤιγριςが妨害してくるだろう。


 だけど、私たちは六花のところへと辿り着けない。


 Τιγριςを六花から引き離そうとしても、挑発に乗ってこない。世界樹を背にしながら守りの体勢を崩さない。


 Τιγριςを六花から引き離す作戦……は失敗した。


 また、三角錐が出来てしまった。これ以上続けても、矢の無駄遣いだ。意味がない。2度目のチャレンジも、私たちが詰まれた。3人でかかっても、六花を取れない。


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 「お互いに夜目がきくって、大変ですね〜」


 満天の星空。地上から二万キロの高度。私たちの星が太陽を隠し、星がよく見える。地上からの光が見れないのは、前世の地球のように電気が発達していないからだろう。動画で見たことがあるが、地球の夜は、先進国の国土、特に都市部は明るく、途上国は暗い。

 私が住んでいるこの星は、電灯で夜も明るい都市がないのであろう。


 月は明るい。太陽の光を反射しているからだ。って、そういえば月はあるのか。地球と一緒だ。衛星を一つ持っているということなのだろう。


 明るいといえば、アベルさんとΤιγριςは、夜も戦っている。ときおり、雷光や炎、爆音などがある。私が寝ているときは、静かに戦って欲しい。すでに、世界樹の葉を敷き詰めた寝床は世界樹の枝に作成済みだ。


「本当ね。ここ胸肉でしょ? 柔らかいわ」


 オルパさんと私は、鳥鍋を食べながら明日の作戦会議をしている。ちなみに、鳥は、私がまた世界樹を少し降って、狩ってきた鳥だ。


「手羽元も美味しいですよ〜。重力の影響が少ない分、筋肉が柔らかいんでしょうね」


 たしか、地上からの高度300キロで、重力が9%程度減る感じだった。高度2万キロ近い場所に生息している鳥だ。重力が少ない分、筋肉が柔らかい筋のようなのだろう。むしろ、世界樹の幹を伝うように上がってくる上昇気流を上手に羽根で捕まえることが、この高度で生きる鳥には重要なのかもしれない。


「あっ! 〆に麦飯を用意しています」


 鳥の骨も煮込んで味が染み出ている。最高の〆になるだろう。


「うれしいわ! それにしても、『下層』出身だけれど、あなた結構器用よね。この鳥を狩るのって、森で狩るのとは違うでしょ?」


「慣れればどうってことないですよ。最初は、ロープが巻き付いている分、矢が重くなって狙いが定まりませんでしたけど、なんというか……矢を射るというか、矢を押し出す感じで強く引き絞れば、いけました!」


 矢を射るというより、銛を発射する感じで射るのが、ロープの付いた矢を射るののコツだった。


 高度の高いところでの狩りは、地上へと射た鳥が落ちていかないようにするのが重要なのだ。

 だから、矢にロープを付けて、と、いっても世界樹の蔓をロープに使っているだけど、射て落ちた獲物をロープで引き上げるのだ。


 当然、やじりの返しも大きくしていて、一度矢が肉に食い込んだら簡単には抜けないようにとなっている。私のエルフとして、鏃の加工などはお手の物なのだ!!


「それに蔓は、軽くて丈夫ですし、Τιγριςでも引きちぎったり焼き切ったりするのに苦労するでしょうね!」


「そうね! さすがはΔάφνηの蔓よね! たくさんΤιγριςに打ち込んで、ロープの先を世界樹の枝に巻き付ければ……いえ、何でもないわ。とりあえず、夕食をいただきましょう」


「あっ! その手が! って……そうですね、とりあえずΤιγριςはアベルさんに任せて、夕食を食べましょう!」


 鍋が沸騰してきた。麦も大分煮えてきたようだ。私とオルパさんは、鍋底になにも残さないほど、食べ尽くして満腹となった。


「美味しかったわ……」


「美味しかったですね……毎日でも、あの鳥食べたいです」


「そうね……」


「そうですね……って、そういえば、オルパさん、ご飯を食べているときに何か言いかけていませんでしたっけ? もう私はお腹いっぱいで眠たいので寝ますけど……」


「あぁ……もうお腹いっぱいで思い出せないわ。なにか、上手にΤιγριςを動けなくして、六花を取れる方法を思い付いたのだけど……明日にしましょう」


「そうしましょう! では、お休みなさい」


 適度に運動して、美味しいご飯を食べる。なんて幸せなんだ。


 あとは、戦っているΤιγριςとアベルさんが、もっと静かに戦ってくれたら快適に眠れるのになぁ……。爆音や閃光がする、激しい精霊術は控えてほしいなぁ……ぐぅ〜〜〜すか。ぴーーーすかぁ…………。

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