第62話 17歳 エルフの定石に従って

 私は世界樹の幹を登り、アベルさんとΤιγριςが戦っている空間の上の枝に身を隠している。


 下の枝では、オルパさんが潜んでいる。 私とオルパさんはそれぞれ配置についた。


 アベルさんとΤιγριςの戦いに参戦するにあたり、最初は奇襲をかけようと言うことに作戦会議で決まった。


 上の枝から私が、下の枝からオルパさんが、渾身の矢を放ち、あわよくばこれで決着を付けようという魂胆だ。


 森の中に無断で侵入してきたゴブリンの集団などを、相手に気付かれないように木々や葉に紛れながら囲み、合図で一気に、いっせいに割り当てられたゴブリンの急所に矢を打ち込み殲滅させる、という定番の方法でもある。

 だいたいこの方法で、ゴブリンなどであったら、自分たちが何をされたか気付かないまま土へと還っていく。


 数匹生き残っても、突然の攻撃に混乱して、抵抗らしい抵抗が出来ずに背中を向けて逃げていき、後頭部に矢を射られてバタリと倒れて終わる。


 木の葉の間から両目だけを出して、私は下方のオルパさんが潜んでいる場所を見る。オルパさんは、頭は隠しているけれど、色気漂う大きなお尻を上手く隠せていないけれど、大丈夫であろうか……。


 私とオルパさんの目が合う。私は右目だけを一瞬だけ閉じる。可愛い表現をすると、ウインクをしたということだけど、私はいつでも射ることのできる体勢になりました、という極めて実践的な合図であったりする。

 森の中で移動しているときは、手信号も使うけれど、弓矢を構えると手信号は使えなくなくので、目で合図をしあい、意思疎通を図るのだ。


 エルフの間で伝わる笑い話がある。

 森に侵入した人間が、エルフにウインクされて、好感を持たれていると勘違いして鼻の下を伸ばした。そんな人間の眉間に、矢を打ち込み、幸せな夢を永遠に見続けられるようにしてあげた……という笑い話だ。宴で何回か聞いたことがある笑い話なので、わりと鉄板ネタということなのだろう……。


 オルパさんもウインクを返してきた。オルパさんの準備も完了だ。次のオルパさんのウインクがあった後、10秒後に矢を射る手筈だ。


 私はまず、やじり散弾ΣανΔανの精霊術を込める。鏃が相手の肉に食い込んだ後、鏃が爆発して鏃の破片が体内を破壊するというものだ。


 狩猟をするときなどにはまず使う事のない精霊術だ。鏃の破片が体内に散らばってしまったら、皮が破けたり、肉に破片が混ざったりして、食用などに向かなくなってしまう。散弾ΣανΔανは、森での生活においては実用性に欠ける精霊術だけど、こういうときには役に立つ。


 そして、つまりシャフトの部分には、加速ΚαΣοκの精霊術を付与する。


 私は狙いを定める。


 狙うのは当然、腹部だ。理由は単純。まとが大きいから。獲物を狩る時は、苦しめないように急所を狙うけれど、急所は狙いにくい。


 今回は、Τιγριςに矢を当てることを優先する。消化器官に当てれば、散弾ΣανΔανの効果でかなりの深手を負わせることができるはずだ。


 Τιγριςは、世界樹の葉で回復するだろうが、回復に時間がかかるだろう。六花を摘む時間は十分に稼げるだろう。


 オルパさんのウインクを確認。Τιγριςが気付いた様子はない。いける!


 Τιγριςは、両目が前方に付いている。遠近感を重要視する肉食獣に近い視野をしている。草食動物のように、ほぼ360度の視野を持つということは考えにくい。 

 狩りで言うなら、肉食動物の方が狩りやすいのだ。


 私たちの配置的に、どちらかの矢が死角から打ち込まれるはずだ。どちらかの矢に気付いても、もう片方の矢には気付けない。


 5


 4


 3


 2


 1 


 発射!!!!! 

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