第61話 17歳 独身共闘戦線結成

「そういう訳で、私とアベルは将来を誓い合った仲なのよ」


「へぇ〜そうなんですか。このお菓子、美味しいですね」


 私は、なんとなくの流れで、オルパさんとお茶をする流れになってしまった。


 オルパさんの話を要約すると、キムハムとナオミの娘オルパさんと、セルグとタマルの息子アベルさんは幼なじみで、共に『上層』出身であるらしい。


「まぁ、そういうわけだから、出しゃばらないで欲しいわね。今、咲いている六花は3つ。私と、アベルと、そして、あなたの六花ということね。でも、私の六花は、アベルに。アベルの六花は、私へと贈られる予定なの。分かったかしら?」


 Τιγριςが守っている六花は、3つが咲いていた。薔薇のような花だ。


「ちゃんと17歳になった独身の人の数だけ咲いているなんて、凄いですね」と私はお茶とお菓子を食べながら言う。


 六花は一人一個しか取れないようだ。自分のではない六花は堅くなって摘もうとしても摘めないらしい。きっと、My弓矢の枝と同じ仕組みなのだろう。


 簡単な数学の問題です。引き算です。

 3本の六花があります。一つ目がアベルさんのです。六花は三つあるので、あと二つ残っています。そして二つ目がオルパさんのです。まだ六花はまだ二つ残っているので、大丈夫です。二人は愛し合っています。二人は、六花を手に入れたら六花を渡し交換し、結婚をするそうです。そして、最後に残った六花が私のです。

 つまり、ちゃんと私の分の六花はあるということです。よかった〜。あんな強そうなΤιγριςと戦って自分の六花が無かったなんて悲惨だもんね! 


「当然よ。ちなみに、私たちが着ているこの服だけど……なんだか暑いわね」とオルパさんは言って、鷹の羽の扇で胸元を扇ぐ。


 いや——こんな豊満な胸のエルフ、いたんだ〜と私が感心してしまう。『暑い、暑い』と言いながら、ワンピースの胸元を開け、扇であおいでいるのだけど、谷間が丸見えだ。


「さっき、Τιγριςが炎系の精霊術を連発していたので、その影響下と思いますよ。あっ、このお菓子のお代わりありますか?」


 オルパさんの容姿は、前世の書店で見かけるような、ライトノベルの表紙とかに出て来そうなエルフで、とても扇情的な格好である。銀髪縦ロールというのも、それっぽい気がする。


「そのお菓子、『上層』の最高級のなのよ! もうちょっとありがたみを持って食べなさい!」


「す、すみません。だけど、『上層』の最高級なので、とても美味しくて……」


「まぁ、そうね……『下層』の者たちが食べる機会がない『上層』の最高級のだからしょうがないわね。遠慮無く食べなさい。それで……私たちの着ているこの服だけど、六花を交換し終えると、六花が融けて、この黄色い服を白色に戻るのよ」


 六花を交換すると、黄色いワンピースという独身アピールが終了するのか。振り袖の袖を切るようなものなのだろう。


 それにしても、なんだかこの、オルパさんは『上層』とかを強調すると、とたんにチョロくなる気がする。

 

「へぇ〜そんな仕組みなんですか。あの、お茶のお代わりもらっても良いですか? 本当にこの、『上層』の最高級のお茶、美味しいですね」


「もう全部飲んだの? 『上層』出身の私が、特別に『下層』のあなたに色々と教えてあげていたのに! 本当に『下層』のものは浅ましいわね!」

 

「すみません、本当に『上層』のお茶、美味しくて……」


 だって、甘くて美味しいんだもん……。レシピも教えて欲しいなぁ。


「まったく油断も隙もありはしないんだから。しょうがないわね」とオルパさんはお代わり分のお菓子をタンスから取り出し、お茶も煎れてくれる。


 テーブルセットやお茶セットだけでなく、このタンスも持ち込んだのだろう。というか、よく見ると、世界樹の枝の影には、ベッドとか台所が設置されている。3年間もΤιγριςと戦うのを待っていると、生活用品が色々と充実してくるのだろう。


「本当に『上層』の最高級のお茶が美味しくて……」


「当然よ! なんたって『上層』の最高級のなのだから。どんどん飲みなさいな。お茶のお代わりも特別に煎れてあげたわ。それにしても、こんなに浅ましいのなら、心配になってきたわ。ちょっとあなたよく聞きなさい。私のアベルに横恋慕とかしないでね。アベルは私に夢中なの!」


 私は、Τιγριςと戦っているアベルさんを見上げる。


 あっ、惜しい。精霊術でアベルさんが作った、先端が鋭く尖った氷柱つららが三百ほど。それを一気にΤιγριςに向けて発射し、串刺しにするつもりだったようだが、躱され、弾かれ、炎で溶かされと、Τιγριςの方が一枚上手だったようだ。


「大丈夫だと思いますよ……」


 アベルさんは私の好みではないというか……ふっと私はキアランのことを思い出してしまった。はぁ……。キアランは元気にしているのだろうか……。アーサー……。はぁ、思い出すと落ち込んできた。


「ねぇ。急に萎れてどうしたのよ。形の整った長いお耳が台無しよ?」


 耳を褒められた! オルパさん、話が分かる人だ! 


そうなのだ。


『エステルの耳は本当に長くなったわね。お母さんとそっくり。美しく成長したなぁ』と家族から言われているのだ。


しかも、耳の先が細く尖って、綺麗な二等辺三角形となっている理想形の、自慢の耳なのだ!


「あら? 今度は急に元気になって……。『下層』の天気は変わりやすいって聞いていたけど、本当なようね。それにしても、なんだかこのあたりも急に空気が乾燥してきたわね」


「えっと、それはたぶん、アベルさんがさっき大量に氷柱を精霊術で作ったからだと思います。氷として使われた分、きっとこの辺りが乾燥したのかなぁって」


「あら? お茶を煎れている途中だったから見てなかったわ。アベルの雄姿を見逃して残念だわ。だけど、また見れるでしょうから大丈夫ね」


 まぁ、3年間も戦っていたら……いつも見守ってるって感じではなくなるのだろう。アベルさんとΤιγριςは世界樹の葉を囓りながら、不眠不休で夜の間も戦っているのだろう。オルパさんは夜は、奥に設置してある快適なベッドで寝ているのだろうけれど……。


「オルパさん、あの一つ聞いてもいいですか?」


「それが、『上層』出身の私に質問する態度かしら?」


「あっ。えっと、『上層』出身のオルパさん、一つ、教えてもらっていいでしょうか?」


「なんでも聞いて頂戴! 特別に教えてあげるわ」


「どうしてΤιγριςと一対一で戦っているんですか? 二人で協力したらかなり有利だと思いますけど……」  


「一匹のΤιγριςと複数で戦うなんて、そんな卑怯なことを『上層』出身のものはしたりしないわ。『下層』らしい浅ましい考えね!」


「でも、『上層』出身のオルパさんが手伝ったら、あっという間に六花を取れて、お二人は早く結婚できそうですけどね〜」


 もう一押しかな?


「それに、Τιγριςも、『上層』出身のオルパさんと戦うなんてことになったら、尻尾を巻いて逃げるかもしれませんね〜」


「あ、当たり前じゃない! なんたって『上層』出身の私が戦うのよ! それに、私とアベルが一緒に戦ったら、六花なんてあっという間に取れるわ!」とオルパさんは、ティーカップを置いて立ち上がり、弓矢を背負った。


 よしよし。作戦成功だ。この人、ちょろい。


 当初の予定通り、他の人達がΤιγριςと戦って引きつけてくれている間に、私はこっそりと隙を見て六花を取る。

 あんな危険な猛獣と戦ってなどいられない。


 アベルさんとΤιγριςでは、Τιγριςが若干押しているように見えるけど、オルパさんも参戦すれば、二人がΤιγριςを押し始めるだろう。そうすれば、Τιγριςは余裕が無くなり、私が六花を取る隙が生まれる。ふふふ。


「頑張ってください! 私はここでお茶を飲みながら応援しています!」


「あら? あなたも戦うのよ?」


「え? いえいえ、『下層』出身の私が参加してもお邪魔でしょうし。『上層』出身のお二人の戦いを、見学して、勉強させてもらいます!」


 あんな化物と戦うなんて、勘弁してよ……。 


「なにを言ってるのよ。見学するよりも、実戦した方が、勉強になるじゃない!」 


 うわぁ〜〜オルパさん、意外と脳筋だった〜。


「それに、あなたみたいな素敵な耳の娘が一緒に戦ってくれると、心強いわ!」


 耳を褒められた! 心強いって言われた!


「エステルさんも、一緒に戦ってくれるわよね?」


「はい! もちろんです! 頑張りましょう!」と私は元気よく答えた。

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