第57話 17歳、お母さんからの、六花攻略レクチャー
「風の精霊よ、流星の如く燃え尽きぬよう、我を守り給え! ΔαννεθΒωτιου」
現在、私は母親から新しい精霊術を教えてもらっていた。
六花を取りに行くにあたって、万が一の際に身を守るための精霊術であるらしい。
六花は、世界樹のかなり高いところに咲いている花だ。そして、その六花をΤιγριςが番人として守っている。そのΤιγριςとは戦わなければならないらしい。
そして、戦っている最中に世界樹から落ちてしまったら……そのまま重力に任せて落下してしまう。
世界樹の近くでは、『Δάφνηの加護』が存在しているから、世界樹に沿って落下してたら、落ちて怪我するだけ済む。また、伸びている枝に掴まったりできる。
だけど、あまりに世界樹から離れてしまった場合、加護が届かなくなる。そして、加護から外れた状況で落下していくと、落下に伴って体が燃えて、融けてしまって、さすがにエルフと言えど、助からないそうだ。
その時に役立つのが、先ほどからお母さんに教えてもらっている精霊術、ΔαννεθΒωτιουだ。
例の如く、精霊術は、日本語の漢字の音読であると考えると、
ちなみに、前口上とでも言うべき、『風の精霊よ、流星の如く燃え尽きぬよう、我を守り給え』は、お母さんが厨二病なだけで、精霊術とは全く関係がない。母が雰囲気を出すために言っているだけだ。
「
うぉ。 私の周りの空気が一気に冷たくなった。もっと早く教えて欲しかった。暑い夏に使えば、クーラーのように周りを冷やせて快適だったのに……。
「さすがはエステルね。飲み込みが早いわ!」とお母さんから褒められる。
「ねぇ、六花って、具体的にどの位の場所にあるの?」
「『天層』よ。そうだ、もう17歳だし、エステルに『ゆりかご』のことも教えておかなきゃね。六花を取れて、結婚したら、『ゆりかご』で子供を作るのだから」
「『ゆりかご』?」
「Δάφνηの民はみんなそこで産まれるのよ」と母は、お茶を入れながら極めて真面目に語り始める。結婚できる年齢になったので、性教育ということなのだろう。
どうやらエルフは、結婚をしたら、二人で『ゆりかご』へと旅にでるのが、風習であるらしい。ハネムーンというやつであろう。
そして、その『ゆりかご』には、二つの繭のようなものがあり、その繭の中にそれぞれ入る。そして、しばらく繭の中で寝て、起きるとその繭から出れて、外に出るとあらびっくり! 小さな繭があるではありませんか。そして、その繭を実家へと持って帰って、世界樹の葉をたっぷりと敷いたベッドに置いておくと、やがて繭を突き破って赤ちゃんが出てくるらしい。
——まるで、鶏のようだな〜——
それが、私の感想である。
エルフの男女にも性器があるようなので、普通に夫婦の営みによって子供ができると思っていたら、違うようだ。
じゃあ、逆に性器は何に使うの? って感じだ。
それにしても、まさかエルフにこんな出生の秘密があるとは……。というか、子供には秘密で、大人の間では公然のことなのかも知れないけれど、生態が人間とぜんぜん違う……。キアランと結婚したら子供ができるのだろうか? なんて考えていた自分が馬鹿みたいだ。これでは、外見は人間に近いだけの、まったくの別生物だ……。繭から出てくるって、哺乳類であるのかも怪しくなってきた……。ある意味、衝撃の性教育……。
「ちょっと、エステル、聞いているの?」
「ちゃ、ちゃんと聞いてます」
ちょっと刺激が強すぎただけである。世界樹の葉のお茶を飲みながら話を聞いていたのだけど、あまりの衝撃にお茶の味がしなくなってしまった。
「『ゆりかご』に行くのは、結婚してからよ。誘われてもついて行っちゃだめよ」
母が真剣な顔をして言う。
「『ゆりかご』は、天層と外層を分ける起点となっているのよ。その『ゆりかご』から、2万キロほど下に、六花が咲いている場所があるわ」
「2万キロほど下かぁ〜って、2万キロ?」
「えぇ」
二万キロほど下ということは、『ゆりかご』はもっと高い場所にあるということだろう。
「その……『ゆりかご』の高さって?」
「35786キロの場所にあると、最長老様から教えてもらったことがあるわ」
高度三万五千七百八十六キロ……。えっと、たしか地球と月までの距離が、約三十八万キロと前世で聞いたことがあった。それに、地球の直径が1万二千キロくらいだった気がするので……『ゆりかご』って、もう宇宙にあるんじゃないだろうか? どれだけ世界樹は大きいのだろう……。
母の説明は、『ゆりかご』から距離を逆算しているので、地上からどれくらい高いのかが分かりにくい。『ゆりかご』からの距離で説明されてもちょっと分かりにくい。
母の話を、地上からの高度で換算していくと、まず、634メートルほどの根っこが、世界樹には存在する。ちょっと前まで世界遺産に登録されていたスカイツリーがちょうど634メートルの高さであったから、さすがは世界樹である。根っこだけでもかなりの樹高だ。
そして、地上634メートルから高度20キロほどが、『下層』と呼ばれる。私たちの家もあるのが、この『下層』だ。だいたい、この『下層』に住んでいるエルフ達が、世界樹の森の番人をしている。
次に『中層』がある。高度20キロから50キロの場所。最長老様の家があるのが、この中層だ。
そして、『上層』は、高度50キロから800キロ。上層は、お母さんの実家があるところで、高度120キロ。私が自分のMy弓を見つけたのは、もう少し登ったところだった。
それにしても、高度50キロから800キロって、随分と広いなぁ『上層』……と思いきや、『天層』は、高度800キロから『ゆりかご』までらしい。もうスケールが大きすぎて良く分からないレベルであったりする。
「エステルは【開拓者】に憧れていたわね。そして、『外層』が、【開拓者】の領域なのよ」
【開拓者】に憧れていた時期が私にもありました……。
【開拓者】は、世界樹を下って行って、新しく住めるような場所探すらしい。世界樹を登ったのに、『ゆりかご』を越えると、世界樹を降りていくようになるらしい。万が一、『外層』で世界樹から落ちてしまったら、そのまま星になっちゃうんだって……。
はい! 【開拓者】に憧れるの辞めました! 私は世界樹の森の番人でいいです!
「Τιγριςは精霊術を使うし、飛ばされてΔάφνηから離れたら、慌てずにΔαννεθΒωτιουを使うのよ。あと、落ちたところが海とかだったら、頑張って泳ぐのよ!」
世界樹のかなり上の場所でΤιγριςなる化け物と戦う。そして、吹っ飛ばされたら、高度二万キロからの自由落下。
大気圏に突入するって話に聞こえてきた……。
それに、高度二万キロ……。一日、100キロのペースで登ったとしても、移動だけで200日かかる……。結婚して『ゆりかご』まで行くのに約1年が必要だ。Τιγριςと2年間の間戦う場合もある。途中で吹っ飛ばされて、大気圏突入して、生きていたとして、おそらく地上のどこに落ちるか分からないのだろう。世界樹まで帰ってくるのに何年かかるのか……。
うん……私は、いままで聞けなかったことをお母さんに質問する。
「ねぇ、お母さんって、いま幾つなの?」 ずっと恐くて聞けないでいたのだ……。
「そうね……百歳までは数えていたのだけど、そっから先は数えるのやめちゃったわ」
母は満面の笑みだ。人間の容姿で言ったら、二十歳前後という外見だけどね。
うん……エルフの時間感覚……寿命が数千年以上だから、やっぱりのんびりしてるだなぁ。
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