第56話 17歳 六花祭に参加できる資格を得ました
早速、17歳の誕生日プレゼントとしてもらった黄色いワンピースに着替えて、家族の前でお披露目をする。
「良く似合っているわ!」
「私の若い頃にそっくりねぇ」と、お母さんのお母さんのお母さんのお母さんが言うが、その見た目はまだ20代である。
「エステルはすぐに嫁に行ってしまうかもしれないわね。それにしても、懐かしいわ。あの頃の20年間。恋に恋していたわ」
お母さんのお母さんのお父さんのお母さんのお父さんのお母さんのお父さんのお母さんが目を細めながら、天井を見つめている。
昔を思い出しているのだろうか。
いやいや……年齢は500歳近いのだろうけど、外見は人間で言えば20歳半ばという感じだ。その発言、違和感あるよ……。
美魔女なんていうレベルじゃないよ。しかも、20年恋に恋していたとか、長っ!
って、嫁?
「元気な子だから、六花を取りにいくのも問題ないじゃろう」
「でも、そそっかしいところがあるから、Tιγριςと喧嘩にならないか心配だわ……」
「意外と賢いところもあるのよ。自分のお気に入りの果物の種を森に蒔いたりしているわ。むやみに縄張りに入って食い殺されたりはしないわよ」
あれ? 私のフルーツ独り占め計画がばれていた?
無花果、マンゴー、枇杷、野莓、ベリー、ナツメ、柘榴……。それに最近、バナナとパパイアが加わったところだ。
将来的にはなんとか柑橘系も加えたいのだけど、どうも野生の蜜柑っぽい果物は私が知っているような甘さではないのだ。酸っぱさが強くて、調味料として、また砂糖と煮込んでジャムにしたりするのには良いのだけど、そのまま食べても美味しい柑橘系の種類を見つけられていない。
というか、ばれてたのか。たまにはお土産に持って帰ろう……。
って……食い殺されるって何?! 会話が不穏になってきた!
「Tιγριςって?」と私は尋ねる。
ティグリス? ユーフラテス川? いやいや……そんなはずがない。
「六花を守っている大きい猫よ」
いや……それ、ぜったいライオンとか虎と呼ばれる動物だよね……。
「同じΔάφνηに住む生き物として、共存しているのよ。もうエステルは一人前に狩りができるから大人として私たちは認めるわ。だけど、身内贔屓がないように、最終的に成人したかどうかを判断してくれるのがΤιγριςよ」
なるほど……お父さんと先ほどまで狩りをしていたのは、狩人として一人前かどうかを試す試験だったのか……先に言ってよ……。
「認めてくれるまで2年間くらい戦わなくてはならないしね。逃げても追っかけてくるし」
いや、それおかしいでしょ。って……まさか? すっごく嫌な予感がする。
「もしかして、そのTιγριςっていう動物も?」
「そうよ。Δάφνηに愛されているわ」
なるほど……。世界樹の葉による回復が可能な動物ということなのだろう。
そして、世界樹の木で戦うことになったら、世界樹の葉が生い茂っているだけに、お互い不死身に近い。ずっと喧嘩しているというか、終わりが見えないでしょ、その戦い……。
「エステルは誰に六花を渡すことになるのかしら……。それに、きっと沢山の六花を貰うことになるわよ。なんたって、私の娘ですもの!」
「母さんは、男全員から六花を貰っていたからなぁ……」とパウロさんがしみじみと言う。
「六花って、もしかして好きな人に渡すの?」
もしかして、六花祭というのは、バレンタイン的なイベントなのだろうか?
「結婚したい人に渡すんだ」
いや……それ、重い……。というかお母さん、男の人全員からその六花というのを貰っていたって、大丈夫だったのだろうか。
「お父さんはどうだったの?」と私は聞いてみる。
「お父さんは……母さんからもらったからそれでいいんだ……」
あっ、1個だけの人だ。ゼロじゃなくてよかったね。というか、義理チョコって制度がない分、辛いね。
でも、じゃあ、お母さんに六花をプレゼントした他の人はどうなったのだろうか?
「お母さんは見る目があるでしょ? どうも私達の時代って、新しい居住地が見つかってみんな興奮していて、上流至高が強かったのよ。新しい居住区を開拓しようって。だから、ライバルが少なくて私はラッキーだったわ」
お母さんがさり気なくお父さんのフォローを始めた。
そういえば、忘れていたけど、エルフの人達って、世界樹の上に住んでいる人達ほど、上流という意識があるんだった。お母さんの実家は、雲を越えた遙か高い場所にある。
最長老様の住んでいる枝よりも上の枝だ。もしかして、お母さんは良家のお嬢様だったのだろうか……。
「まぁ、エステルがこの人は! と思う人がいたら、一度家に連れてきなさい。父さんがその人と一緒に狩りに行くのもやぶさかじゃない」
あっ、お父さん……きっと『そんなへなちょこな矢を撃つ奴に、娘はやれん!』とか言いたい人だ……。
って……結婚ってことだろうか?
「エステル。その服を着れなくなる日を楽しみにしているわ」
私が黄色のシルクのワンピース。って、この服を着れなくなる日が来るのを楽しみにしているって、おかしくないだろうか。
太るということか? おやつの食べ過ぎだろうか? いや……家族の体型を見る限り、あと1000年くらい私の体型はほとんど変わらないだろう。
身長はまだ少し伸びるかも知れないけど、ワンピースなら大丈夫だ。
「もしかして……17歳から結婚ができて、そしてこの服は独身の人だけが着る服?」
「その通りよ」
なるほど……独身者が着るという意味では、振袖と同じか。もしかして、このワンピースがゆったりとした作りなのは……ワンピースの裾を振ったり、振られたりするためのものだろうか……。
でも、独身の間はずっとこの黄色の服を着るって、つまり独身であることが周囲にバレるということだ。
エルフの寿命的に、100年くらい独身ってことがありえる? アラウンド・ワンハンドレッド・トゥエンティーで独身。
「まぁ、焦ることはないからね。ずっと父さんの娘でいなさい。そうだ……エステルは、千年に一度の恋を見つけるくらいでいいんじゃないかな?」
パウロさんや……千年に一度の恋とか……文学的修辞ではロマンティックな印象があるけど、それで良いのか? 少なくとも、アラウンド・サウザンドで独身は、前の世界的にはかなり厳しい……。
「どのみち、気が早いじゃろ。まずは、エステルが六花を取りに行けるかが問題じゃ。六花をとる前から、嫁入りの話をしてもしょうが無いじゃろ? セルグとタマルの息子アベルや、キムハムとナオミの娘オルパもまだ六花を取れたという話は聞かぬしな」
お爺ちゃんが言う。冷静なコメントだ。さすがは、お爺ちゃん。伊達に、曾曾曾お爺ちゃんよりも老けている、外見も30代前半といった感じのいぶし銀な人だ。
待てよ? アベルさんやオルパさんって、私より10歳以上年上じゃなかったか?
いや……その前に……
「その……六花ってどこにあるの?」
「Δάφνηのかなり上の方よ」
良かった……。
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