第6話 世界樹が真ん中で、枝の上で愛を育む

 我が家について、分かったことがある。家は、世界樹の枝の上に建てられている。家には部屋が沢山あるのだが、その部屋の窓から外を眺めてふと気付いた。


 どうやら世界樹の枝の上に家が建っている。


 枝の上に建っている。さぞかし細長い家なのではないだろうかと思うかもしれない。けれど、家はとてつもなく大きい。枝に沿って造られているから、確かに幅のある家だ。枝に沿って1キロメートル以上はあるのではないかと思う。


 そして、驚くべきは家の奥行きだ。家の奥行きがつまり、世界樹の枝の太さということになると思うのだけど、その奥行きは高速道路よりも広い。片側三車線ある高速よりも広い。

 つまり、少なくとも6車線分の奥行きが我が家にはあるということだ。


 高速道路の高架橋を想像すると分かりやすい。おそらく高速道路の高架橋のような幅の枝が伸びていて、そして我が家はその上に建てられている。床下面積だけで考えても、豪邸と言って差し支えないと思う。


 お父さんのお父さんのお父さんのお父さんのお父さんのお父さんのお父さんの話によると、自分が生まれるよりもずっと前からそこには家があるそうだ。そして、家はどんどん長くなっているということだ。

 推定千年生きている人の遙か先の、日本基準でいえば、おそらく石器時代とか縄文時代初期とかそんな時代に生きていたエルフのご先祖様たち。その人達が世界樹の枝の上に家を建設し、増築を繰り返していたらとてつもない規模になったということだ。


 なぜ増築を繰り返したのか? と聞いたら、『そりゃあ、枝が伸びるからだよ』と当たり前のことのように言われた。

 どうやら、枝の先端に行けば行くほど、建物は古くなり、幹に近ければ近いほど建物が新しいということらしい。

 それで納得だ。一番年齢の高い、長老と呼ばれている人の部屋が枝の先の方に有り、それから世代ごとに順に部屋が並んでいる。

 お父さんとお母さん、そして私の部屋は、幹に近い。


 伸びる枝の上に建物を建てると、増築をしたり大変だと思うのだが、それを大変だとは思わないらしい。

 というか、枝が伸びてきて、新しくまた増築出来そうだ、と思ったときに、若い世代の人が結婚をして、子作りするらしい。


 世界樹の幹の根元の枝が伸びる。そして、一世帯が住めそうなほど枝が伸びたら、家を増築する。そして、新しい世帯が生まれる、という仕組みらしい。


 世界樹の枝の成長に合わせた家族計画! 


 と……いうことは、私が結婚とかするのは、世界樹の枝が新たに50メートル伸びたらということなのだろうか? いや、それって何年かかるのだ? というか、それならお父さんとお母さんの年齢はいくつなのだろう? 


 やばい……それってあとどれくらい先のことなのだろう。数百年単位な気がしてきた……。

 エルフにも、アラサーとかアラフォーとか、そんな概念があるのだろうか。


 世界樹の枝の伸びがアラウンド50メートルなのに、まだ結婚する相手が見つからない! とか、世界樹の枝がアラウンド60メートルなのにまだ結婚相手が! とか、そんな心配をしなければならないのだろうか? というか、出会いはどこにあるの? 別の枝に住んでいるエルフの一族とかいるのだろうか?


 私は窓から世界樹の別の枝の上を探すが、他のエルフの住居らしきものは見えない……。え? もしかして、お父さんのお父さんのお父さんのお父さんのお父さんあたりと結婚? 外見的にいえば20代とかだろうけど、血縁的に問題があるんじゃ……。し、心配になってきた!


「お、お母さん……私の将来の旦那さんは何処にいるの?!!」


「エステルったらまだ子ども何に、おませさんねぇ。大丈夫よ、世界樹の幹の向こう側にたくさん素敵な人がいるのよ」


 あぁ、そうか。幹に隠れて死角になっているのか……。別のエルフの家もあるんだ……。


「でも、エステルが嫁に行く時のことを考えると寂しいわ。まだまだ、私の傍にいて、沢山可愛がらせてね」とお母さんは微笑む。『まだまだ』って、数百年単位な気がしてきた……。


 って、エルフも娘が嫁ぐんだ。そういえば、祖父も曾祖父も高祖父も、お父さんに似ている。お母さんがこの家に嫁いできたということだろう。


 あれ? エルフって自由恋愛なのかな? お見合いなのか?  


「ねぇ、お母さんとお父さんって、どうやって出会ったの?」


 これって重要な情報だよね。


「ん? お祭りでだけど? でも、エステルはまだ参加できないわよ? 一人前になってからね」


「デートとかもしたの?」


「Δάφνηの新枝の上で、一緒に満月を眺めたわ」と母は顔を赤く染めた。エルフって、色白だから顔が紅くなるとすっごく目立つね。


 って、世界樹の枝の上で月を眺めながらデートか……。ロマンティックなのかもしれない。


「お母さんの実家はねぇ、世界樹の反対側よ。それに、かなり高い場所にあるのよ。だから、お父さんとなかなか会えなくて少し切なかったわ。でも、私たちの間にはいつも世界樹があったから不安はなかったけれど……」


 遠距離恋愛をしていたということなのだろうか? いや、距離と言うより、高低差恋愛? 

 

 お母さんとお父さんとの恋愛話をたっぷりと聞かせてもらいました。ご馳走さまです。


 どうやら、エルフは、『世界樹が真ん中で、枝の上で愛を育む』ということらしい。セカチューってことね。

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