第4話 3歳 お母さんが厨二病な件
蝶よ花よ、と育てられ、立派な箱入り娘として育っています。1歳の時の家から脱走事件から、家から一度も出ていません。まぁ、一人で歩ける、後ろ歩きが出来るようになったとは言っても、まだまだ子どもに家の外は危険だ。
そして、私の知能にも変化が訪れた。それは、みんなが話している言葉が理解出来るようになってきたということ。
日常的な単語を理解出来るようになってきた。文字、というのがあるのか分からないのだけど、耳で聴いて頭で理解出来るようになった。乾いたスポンジの如く知識を吸収していく私。
まぁ、これは私が凄いというより、本来子どもが持っている能力なのだろう。
「Εσθηρ, εδωκεν το ποτηριον」
台所から母の声がしました。私はリビングで、父であるパウロさんの手作りの木製の積み木で遊んでいました。これが意外と面白い。人間として実年齢で二十歳を越えている自分が今更積み木で遊ぶのか! なんて思っていた時期もありました。
でも、やってみると面白い。
まず最初に嵌まったのが、ドミノ倒しだ。我が家は広い。使っていない部屋もある。その場所で、積み木を並べてドミノ倒しで遊んだ。
たかがドミノ倒しだと馬鹿にすることなかれ。ただ積み木を均等にならべて倒すだけがドミノじゃない。積み木を二段重ねるとか、段差を作って見たりとか、螺旋を描いてみたりとか、倒し終わったあとに絵柄ができるように並べてみたりとか、家のコップを使ってみたりとか、工夫しようと思えば無限に工夫ができる。
父のパウロさんも、愛娘がこんなに積み木に嵌まってくれるとは思っていなかったようで、沢山積み木を作ってくれました。それに、祖父も、曾祖父も、高祖父も、お父さんのお母さんのお父さんのお父さんのお母さんのお父さんとかも積み木を沢山プレゼントしてくれて、私の所持している積み木は、五千個くらいになりました。みんな家に帰ってくると、お土産として積み木をくれるんだよね。
たぶん全部手作りで、くれる人によって大きさとか木の色とかが違う。たぶん、木の種類によって色が変わってくるのだと思う。
そんなドミノ倒しに嵌まっていたのが一年くらい。来る日も来る日もドミノをして、途中で誤ってドミノを倒してしまって、大泣きしてしまって、母に慰められたりと紆余曲折がありました。
そして、現在嵌まっているのが、積み木で建築物を作ること。
何が面白いかって? 木の色の積み木があるだけでなく、紫芋のような色の積み木とか、黒色、紅色の積み木とかがあって、積み木を積み上げるだけでなく、色のバランスも考えなければならないのだ。紅色の積み木だけで、東京タワーを作ってみたりしていたのだけど、思いっきり私はこの積み木にのめり込んでしまった。
制作期間三ヶ月ほどで、やっとタージマハールが完成しそうだ。記憶で造ったから、細かい所はいろいろ違うかもしれないけれど、渾身の出来映えだ
タージマハールの円形のドームを長方形の積み木で再現するって、結構難しかった……。
「Εσθηρ, εδωκεν το ποτηριον」
って、再び母の声がきこえた。『エステル。コップを取ってきて』と言っている。私のヒアリング能力もばっちりだ。赤ちゃんや1歳の時とは違い、私も微力ながら母の手伝いをするようになった。働かざる者食うべからずというやつだろう。
私は返事をして、リビングにある食器棚からコップを取り出し、それを台所の母の所へと持っていく。
「エステル、ありがとう。良い子ね」と母から頭を優しく撫でられた。私は褒められて伸びる子どもかも知れない!
だけど、ここからが母の残念な姿だ。この時間は、私にホット・ミルクを飲ませてくれるのだけど、厨二病の母の姿が結構痛い……。
木棚の上に置いてある牛乳をコップに注ぎ……母は、厨二病患者となる……。
「熱を司る太陽の精霊よ、我に力を貸したまえ……『ΚαΩν』!!」
母は、たぶん、この寒い台詞を本当にやっている……。両手の掌をコップに向けて、真剣な顔をしてやっている……。いや、それ以外は本当に良い母親だと思うよ……。でも、良い大人が子どもの前で……。いや……これ以上は言うまい。
「はい。出来たわよ」と母は柔やかに私にコップを渡す。
ごくごく。うん、丁度良い温度加減。熱くも無く、温くも無い。
「熱くない?」
「うん。美味しい!」と笑顔で私は答える。母は満足そうだ。外見も美しく、若々しい母。いつも私に気にかけてくれる優しい母だ。それに、良き妻でもあると思う。
厨二病じゃなきゃ、完璧な人だと思うのにそこだけが本当に残念である。
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