第101話 龍と中年


 目を開けようとするが、眩しくて開かない。自分が地面に横になっているのは分かるが、フウやボブの気配が見あたらない。あるのは、一つの大きな気配。


「なぁ、ここは何処だ?」

 起き上がりたいが、身体が動かない。

『ここは、ダンジョンの最下層。貴方は、あのままでは死んでいましたので、こちらに連れてきました』

 優しい声が耳に届く。

「そうか。ありがとう」

『大丈夫なようなので、術を解きます。ゆっくりと起き上がって下さい』


 指に力を入れる。腕、肩、首と順に力を込めて身体を起こし、目を開ける。

「……ここは地獄か?」

 目の前は、乾ききった黒い大地。赤黒い空に、緑色の太陽。

『まだ視覚が戻ってないようですね。……ですが、あながち間違ってはいません』

 声の持ち主は、椅子に座っているようだが、全てが黒一色。

「視覚がおかしいのか……」

 座り直して、胡座をかく。


「助けてくれて、ありがとう。すまないが、仲間達は?」

『貴方の仲間は、こちらに向かっています』

 それなら良かった。

「貴女は守護者か? 白い龍だと思っていたが」

『名は玉龍。貴方の言ってる白い龍で間違いありません』

「俺の名前は、カズト。覚えてないかもしれないが、このダンジョンで、玉龍に助けてもらったらしい女がいるんだが、会ってもらえるか?」

『いいですよ』

 優しい声の玉龍は椅子に座ったまま、ピクリとも動かない。


「……スキルが使えない?」

 視覚が戻らないので回復魔法で治そうとしたが、使えない。

『私の血を分け与えました。しばらく使えないでしょう』


 ……マジか。

 龍の血とか、身体大丈夫なのか?

『少し馴染むのに時間がかかりますが、問題はありません』

 まぁ、生きてるんだし、

「それならしゃーないな。それじゃ、玉龍の話を聞かせてくれ。ただ、助けた訳じゃないだろ?」


『ありがとう。貴方にはお願いがあります』

「俺に出来る事なら」


『私はもう長くはありません。そして、このダンジョンから出る事も。……なので、貴方に託したいものがあります』

 俺の目の前にネックレスが現れる。

『それは、龍曲玉の首飾り。それには、邪気が封じられています』


 勾玉のようなものが、黄、緑、赤と三つ付いたネックレスを受け取る。なにかを感じることもないな。

「なぜ俺に? それに、何も感じないが?」


『コアを通して見ていました。貴方は強く、優しい。そして、ここに連れてきて分かりましたが、貴方は特別なのですね?』

「……」

『その玉は、私が浄化してきました。ですが、まだ不完全な状態。出来れば貴方に持っていて貰いたいですが、……任せます』


「分かった。これは、預かる。だが、スキルが使えたら玉龍の身体を治そう。……寿命じゃないんだろ?」


『……寿命。ですか……そうですね。では、お願いします』

「せっかく知り合えたんだ。これも縁だろ? それに、守護者の仲間もいるんだ。ダンジョンだけだと寂しいよな。俺らのハウスに住めばいい」

 また仲間が増える。アイツらも喜ぶだろ。

『フフッ、それは楽しそうですね』

 ようやく笑った。

「だろ? なら」

 視界の端に何かが現れる。

『……邪魔が入りましたね』

「誰だ?」


 人のようだが、やはり視覚が戻ってないので黒い塊に見える。


『龍が守護者とは、驚いた』

 若そうな男の声が聞こえる。

『“デモン”ですか。……何用です?』

 玉龍の声が、低く、冷たくなる。


『このダンジョンを貰いに来た』

 男はその場から消える。

『グハッ!』

 玉龍の左腕が一瞬で、太く大きなモンスターの腕に変わり、男を掴んでいる。

『何か勘違いをしているようですね。自分の世界で大人しくしていなさい』

『グァァアァア!!』

 玉龍は手に力を入れ、

『貴方にこのダンジョンは渡しません』

 と、男を地面に叩き付ける。


「玉龍、“デモン”って、何なんだ? 悪魔?」

 玉龍は左腕を戻す。

『“ディメンション・モンスター”、次元の狭間にいる者達。そして、こちらの世界に渡る力を持つ者の略称です』

「それが“デモン”か。玉龍は知ってるみたいだったけど?」

『知っているだけです。向かってきたのは初めてですが』

 そりゃそうか。龍に戦いを挑むなんて凄いよな。



「カズト!」

 振り向くと美羽が猛ダッシュ。

「カズトぉぉぉぉおぉぉ!」

「や、やめ!」

 飛び込んできた美羽を受け止めるが、

“ズザァァアァァァァァァァァ”

「だ、大丈夫?」

「……ダメ」

 さすがにスキルも無しだと、美羽にも負けるな。

「美羽さん、兄ちゃんが死ぬって……」

「兄さん……良かったぁーーー」

 みんなボロボロだな……


『なに泣いてんだよ。殺しても死なないだろ』

「ナキさん、……後ろ向いてないで、前向いて言いましょうよ?」

 迷惑かけたな……


 美羽に回復魔法をかけてもらったが、まだステータスも見れない。視覚も戻ってないので、全員が変な色だ。

「あ、あの……おじさん、ごめんなさい!」

 このちっこいのはフウか。

「おう! それよりいい子にしてたか? 後で俺達の家に行こうな!」

「……いいの?」

「いいの! フウもうちの子ね!」

 美羽が抱きしめて、頭を撫でる。

 フウはこれでいいな。


「リズム。お前を助けた白い龍は、玉龍って言うらしいぞ」

 と、リズムを呼んで、玉龍の方を向くと、

「え?! お、おい!」



『グッ……グァァアァアアァァァァ!!』

 黒い塊が大きくなっていく。

 

「……り、龍……」

 

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