第86話 リズムと中年

 アジャティと別れて適当に外人が多い店に入る。


 店は汚くもなく、普通だが、雑多な雰囲気がする。テーブル席が半分くらい埋まっていて、冒険者らしい格好だな。


『うん。普通に美味いよ。水分持ってかれるけど』

 賢人が食ってるのは包子、肉まんだな。


 中に羊肉が入っているが、臭みはそんなにないな。確かに水分が必須だ。

 

『だな、てかノセはブヒブヒ食い過ぎだ』


『んグッ。……ガツガツですよ。てか、ボブじゃないんだからツッコミ大変ですって』


 ポロというピラフ的なのを、口周りに付けながら喋るノセ。

 ポロは日本で食べるピラフよりパラパラしていて、ほんのり甘く、角切りにした肉がいいアクセントで俺は好みだ。


『口周りを汚して、やっぱブヒブヒ食べてたんだろ?』


 指摘すると口に付いた米を食べながら、


『うん、美味いっス』

 笑って誤魔化す。


 写真見て頼んだけど、どれも日本人には合うな。


「ちょっ! こんなの頼んでないわよ! 誰がこんなの食べるのよ!」

 デカイ声だな。……てか日本語か。


 見ると丸森娘か? 写真より細くなってるが、目が細く、鼻が少し上を向いてて特徴的なパーツは一緒だ。なにより普通の日本人がこんなところにいる訳がないしな。


『兄ちゃん、あれ』


『あぁ、丸森娘だな。声かけてくるわ』

 二人を置いて、近づくと、


「なによアンタ! なんか文句あんの!」

 うっさいな。


「俺は日本人で、丸森さんに頼まれて来ました。貴女が丸森さんの娘さんで合っていますか?」

 向かいの席に座る。


 てか、何頼んでるんだ? 肉の串が大量だぞ。


「あ、お父さんが? で? どんな用件?」

 座ると落ち着いたようで音量が下がったな。


 しかし、変わるもんだな。あの写真の豚が、普通くらいにはなったか。

 髪は黒でショートカット、日焼けした肌をしていて化粧はしてないようだ。

 まぁ、よく言えばスポーティーなのかな。


「用件は一つです。一緒に日本に帰っていただけますか?」

 

「連れ戻しに来たわけだ。でも私はやる事があるの。それが終わらないと帰れない」

 目力強いな、睨んでくる。


「ふぅ、それじゃ、手伝うから早く済ませよう」


「だから言って、え? ……手伝ってくれるの? ていうか、口調が」

 呆けた顔、間の抜けた顔だな。


「あぁ、悪いな。これが素だ。それより手伝えば早く済むだろ。……時間が勿体ない」


「え、えぇ」

 

 ふぅ、娘は見つけたし、なんとかなるか。


 賢人達を呼んで、料理も持って来て貰う。


「んで? 娘はどんな目的があるんだ?」

 娘は肉串を頬張っている。


 肉串はヤウロンチュア、また羊肉だ。


 これは美味いが、

「か、辛い。ミドゥ! ミドゥ!」

 ノセが水を求めてるが、


「ミードゥー? なんだよ? ちゃんと言わないと分かんないよ?」

 水を遠ざける賢人、


「ニャー! あ、ゴクゴク! お兄さんありがとっス」

 うるさいからな。


「賢人も遊ぶな。まぁ食いながら悪いが、目的は?」


「ミドゥ! ミドゥ!」

 って、お前もかよ。


 顔を真っ赤にした娘に水を渡して。

「ふぅ、まだ辛い」

 いや、知るか!


「話を進めるぞ? 娘の目的は?」


「あのね、お父さんから名前聞いてないの? てゆうか、名前くらい名乗りなさいよ!」


 あぁ、すっかり忘れてたな。


「悪い、俺がカズト、こっちが弟のケント、でノセ」


「私は丸森リズムよ、よろしくね」

 笑ってはダメだ。ただの名前じゃないか。


「マルモリズム」

「「ブッッッ!!」」


「ダハハハハハ」

「ナハハハハハ」

「ウケた! イェーイ! へぶっ!」

 この馬鹿が!


「グフっ! わ……悪い、ゴフッ。悪かったな」

 ノセを叩いて、謝ると、


「いいわよ、笑われるのは慣れてるし、謝られるなんてあまりないからね」

 

「あぁ、本当にすまない。で、リズムは何をするんだ?」


 やっとおさまった。賢人は苦しそうだな、声を殺してるが、震え過ぎだ。


「私の目的は【ドラゴン】よ。このダンジョンにいるはずなの」

 ……デカイ目的だな。


「……はぁ、……で? 【ドラゴン】ってのをどうするんだ?」

 

「……無事を確認したいの」


「……とりあえず飯を食おう。場所を変えた方が良さそうだ」

 


 三人とも頷いて、飯を食べる。

 その間にダンジョンの事を聞いたが、一人で潜っているらしく、一層にいるゴブリンに苦戦してるらしい。


一応、レベルを聞いたが、30後半と言われた。試しに鑑定すると、


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・

ID 3284332

名前 :丸森 響

種族:人間

年齢:22歳  レベル:31

HP:470/470

MP:520/520


力:470

器用:510

丈夫:430

敏捷:470

知力:510

精神:430

運:290


職種:剣士 Lv 23


SP:60

【スキル】

剣術 Lv 13/50

身体操作 Lv 10/50

身体強化 Lv 10/50

気配探知 Lv 8/30

危険察知 Lv 10/30

精神耐性 Lv 10/30

罠探知 Lv 9/30

回復魔法 Lv 5/30

水魔法 Lv1/30



【固有スキル】



【称号】

小龍の加護(停止)


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


 まぁ、本当のことは言わないわな。

 それにしても加護が停止してるのが原因か。


 場所移動だな。


「ところで、ホテルはギルド認定のホテルか?」


 俺らが泊まってるところだ。

 ギルド認定で、何かあれば冒険者が駆けつけるらしく、値段は高いが、全て丸森が出す。


「そうよ、あそこしか日本語通じないもの」


 ……通じないって、いいや。


「なら俺らも一緒だ。ラウンジに行くか」


「それでいいわ」

 と席を立つ。


「あ、支払いは割り」

「もう払ったからさっさと行くぞ」


「ねぇねぇ、賢人さん! 見て! あれが出来る男よ!」


「まぁ! 多分さっきのトイレの時よ! きゃーしびれるぶっハッ!」


「デフッ!」

 こいつらは。


「これは普通だ。大人ならな? さっさと行くぞ」


「「うーい」」

「あ、ありがとう」

 リズムはお礼を言うが、


「あ、お前の親父の金だ。礼はいらないぞ」

 俺が奢るのは、俺の身内だけだ。


「それでもよ、ありがと」


 ……ちゃんとしてるんだな。


「どういたしまして」


 すっかり暗くなってるな。

 夜は一段と冷える。

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