第87話 自慢と中年
ホテルのラウンジは、それなりに人がいるが、さっきの店と違い、静かで落ち着いた雰囲気だ。
テーブル席に四人で座り、飲み物と軽いつまみを頼む。
「さて、飲み物もきたし、話を戻すぞ。目的の【ドラゴン】はこのダンジョンにいるんだな?」
リズムはカクテルを一口飲むと、
「たぶん、って言うのもあの事件前に、私達パーティーはここで、このダンジョンで一度会っただけだから」
膝の上に置かれた手は、強く握られている。
リズムがこのダンジョンに来たのは、ギルドが出来る前。
日本でパーティーを組んでたリズムは、親の情報網で中国に新しいダンジョンができ、人が少ないと知って、パーティーでダンジョンに挑んだ。
メンバーは、リズムが剣士。男が三人で、パーティーのリーダーの槍士と戦士が二人、あと女の魔法使いが一人の五人。
十層まで順調に進んだリズム達パーティーは、十層のボスを倒したが、ここで宝箱に仕掛けてあった広範囲の毒の罠を作動させてしまい、全員が毒をくらうミスをする。
その時、毒消しは高価であまり出回ってなかったが、リズムは三つ持っていた。
自分が連れてきたメンバーを死なせるわけにいかないと、リーダー以外の三人に毒消しを飲ませる。
治ったメンバーがその場から移動させてくれたが、身体が痺れて動けなくなってしまう。
魔法使いの女がバッグから毒消しを出し、リーダーに飲ませると、リズムの所持品を奪うと、
[じゃあな、豚女。良い金蔓だったよ]
と、言い放つと転移陣でその場を去って行った。
しょうがないと諦め、その場で横になるリズムは意識を失う。
目が覚めると、そこには白く輝く鱗、大きな蛇のような身体に、手脚があり、まるで龍のようなモンスターがいる。
リズムは自分が死んで、天国にいると思った。毒で苦しかった身体は、元の状態、それよりも力が漲っている。
だが、ふと周りを見回すと、ダンジョンの壁であり、倒れていた場所だった。
白き龍は、リズムが起き上がった事を確認すると、何も言わずに下の階層へ消えていった。
「……で、転移陣でダンジョンから帰った私は、一週間、ここでストリートチルドレンにお世話になって、捜しに来たお父さんの部下と日本に帰る」
白き龍か、守護者なんだろうな。
「んで? そいつらはもちろん?」
賢人がワクワクしてるが、
「何もしてないわ。連れてきたのは私だしね」
「んな! ダメだって、そいつらまたやらかすよ?」
「あぁ、捕まったわよ。またやらかしたみたいでね。ちゃんとしておけば被害者が出なくて済んだのにって今は思ってるわ」
「あー、そんならいいか」
だな。
「そいつが汚染でどうなってるかを確認したいわけだな?」
俺が話を戻すと、リズムは真剣な顔で、
「そうよ。私を助けてくれたんだもの、今度は私が助けたい」
……だろうな。
「……悪いが無理だろうな。……リズムは一層から先に進めていない。しかも、モンスターは進むほど強い」
唇を噛み締めるリズムに、
「……一人ならな。……ただ条件がある」
「何?」
「一つ、俺が無理だと判断したらその場で撤退。
二つ、俺らは秘密がある。他言無用だ。
三つ、嘘はナシだ。俺らも仲間として秘密を見せる。仲間の事は把握してないと死に繋がるからな」
「……当たり前の条件ね。よろしくお願いします。あと、私のステータスを見せるわ、それで秘密はないはず」
嘘をついてる自覚はあった訳だ。
「なら成立したな。これからよろしく、リズム」
手を出すと握り返してくる。……その上に手が、
「俺も!」
「ぼ、僕も!」
臨時だが、四人パーティー結成だな。
朝、ホテル前で待ち合わせ。
昨日はあの後、リズムと別れ、俺はリンリンにダンジョンの汚染の事をメールした。
昨日の内に返信があり、問題なくダンジョンに入っていいとの事だ。
また、近いうちにハウスに遊びにくるらしい。
「あれ? アジャティ?」
ホテルの前を、右足を引きずって歩いているのは、
『アジャティ! 何があったんだ? ……どうだ? 痛い所はないか?』
抱き上げて、回復する。
誰かに殴られたあともあり、傷だらけだった顔はキレイになったが。
『あ、ありがと、 』
よかった、見つけてあげられて。
疲れたのか、気を失ったようだ。
「なんでだよ……許せねぇ」
「何が? あ、アジャティ? え、何があったの?」
賢人の呟きを聞いたリズムが顔を出す。
「アジャティと知り合いか?」
リズムは俺が抱いているアジャティの頬を撫でると、
「私が助けて貰ったのは、アジャティなの。今は叔父さんの所に住んでるって笑って言ってたのに……」
起きたてから聞くしかないか。
「……ノセ、留守番頼めるか?」
「俺が残るよ!」
「駄目だ。ノセ?」
ノセは無言でアジャティを抱くと、
「……僕も我慢しますが」
こいつもかよ。
「……あのな、気持ちは一緒だ。だからアジャティを一番に考えろ。まずは回復。その後は全員揃ってからだ、いいな?」
無言で頷くノセの頭を撫でて、
「お前も十分、普通の人に比べれば、化け物だ。……お前が一人で暴走したら……俺は自分を許せない」
「……お兄さん」
「だから、アジャティが起きた時、いつものお前で会って欲しい。俺らが帰ってくるまで守ってやってくれるか?」
ノセの目はいつものノセになった。
「はい! 待ってますね! ヘイ! 賢人! 僕の分まで頑張ってよ!」
「……ウゼェ。ノセの分なんて、これッッッッッポッチも無いだろ!」
賢人も戻ったな。
金をノセに渡して、
「アジャティにちゃんとしたものを食わしてやってくれ。ルームサービスでもいいぞ? 任せた」
「まっかされました! 行ってらっしゃい!」
手を振るノセを後にする。
「……いいパーティーね」
「だろ? 自慢だ」
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