第85話 物売りと中年
ギルド周辺は、それなりに賑わっていて、店やホテル、コンビニもある。
が、治安は悪そうだな。
『よう、身なりも良さそうだし。なぁ、金持ってるか? あるなら少し恵んでくれよ』
このオッさん、ナイフ片手に言う事か?
『悪いが、今は手加減が出来ないぞ? それな』
“バキッ!”
『……おい』
『さて、ようやく体が動くよ。兄ちゃんありがと』
賢人がオッさんを蹴り飛ばし、ストレッチしている。
『お兄さんが手加減しないと、死んじゃいますからね?』
ノセも普通だな。
『さっさと起きろよ。……まぁいいか』
オッさんを回復して、逃げていくのを見る。
『なんで治安が悪いのかな? 冒険者が多そうなのに』
賢人が聞いてくるが、
『まぁ、あれだろ?』
顎で促すと、露店で売られてる装備は、血の付いた物や、片方だけの物。
多分、冒険者が亡くなるか、弱ってる奴から奪った物だろう。
『うへぇ、やり過ぎじゃないですか?』
ノセが顔をしかめる、賢人も同じらしい。
『あれが普通だろ。日本も少なからずやってる奴はいる。死人に口無し、生きてりゃ腹も減るし、そうしないと生きていけない人間もいる』
『……んだね。……だから、冒険者に見えない人もいるのか』
よく見ると子供までいる。
……食糧事情はよくないようだな。
『さっさといくぞ、あまり気分は良くないからな』
二人も頷き、ホテルに向かう。
チェックインして、四人部屋に三人で泊まる。
「オートロックだし、割と良さそうだね」
部屋の中では日本語だ。
「大事な物はここに置くなよ? さっき、チェックインした時に書いた紙にあったけど、部屋の中で起きた事は、保証しませんってあったからな」
ちゃんと読まないと分からない。
まぁ、用心しろってこったな。
「まぁ、なんて悪質」
ノセは相変わらずだな。
「そうでもないだろ、さっきと変わらん。……さてと、扉を試すか」
異次元ハウスの扉を取り出す。
(アンコ? 聞こえるか?)
(はーい、聞こえますよ。どーぞ)
(扉を開けるが、誰もいないよな?)
(問題ないでーす)
扉を開けると、
『よう! おかえり』
ナキがいた。
話を聞くと、ナキはアンコを見張ってたらしく、急いで家に帰るアンコをつけたらしい。
「ごべんなざいぃぃ」
頭を撫でてやると、俺によじ登ってくるので、抱っこしてやる。
「話は分かったが、ナキ? アンコをいじめるなよ?」
『いや、あ、アンコ、ごめんな? もうしないから許してくれ』
ナキもアンコには弱いようだな。
「まぁ、泣きやんでるから大丈夫だろ。あとナキはこの事を言わないように!」
『みんなで攻略するんじゃないのか?』
残念そうだが仕方ない。
「あぁ、今回は攻略しない」
目が光るナキは、
『って事は、次があんだな。ならいいや』
さっさと帰っていくあたり、サッパリしてるよな。
「アンコもありがとうな?」
「はい!」
笑顔になってるからよかった。
扉も問題なし、てか普通に使えるはずだ。
異次元に繋がってるんだしな、でも念には念を入れとく。
「ちゃんと繋がってるね」
「だな。後は明日だ。気を抜いてケガするなよ?」
「俺よりノセだよ。気が抜けて寝やがった」
ベッドにうつ伏せで寝ているノセを指差す。
「起こして飯に行こう」
そろそろ夕飯の時間だ。
「りょ! サーーン年ゴロシ!」
ドスっ!っと音がしそうなカンチョーだな。
「ぬあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!」
ベッドを転げ回るが、
「賢人、俺は起こしてと言ったんだ。誰が立てなくしろと言った」
「アハハ、ごめんごめん」
「ま、まって! そこじゃない! 僕のお尻が大問題だよ!」
ノセが喚いてる。
「飯行こうよ」
「そだね」
二人でノセを引っ張ろうとすると、
「ちーがーう! や、まって! 今お尻が! お尻がぁ!」
お尻を押さえて、爪先でちょこちょこと歩くノセ。
「ブッ! フッフッ、フハハハハ!」
「ちょっ! 兄ちゃブフッ! フッフハハハハ!」
ダメだ。
「な、ふざけるな、この鬼兄弟! 笑うなぁー! あ、ダメ! 引っ張らないで! お、おふぅっ!」
あぁ、こりゃダメだ。
ノセを回復して、ようやく外に。
『あのね? 賢人もお兄さんも悪ノリしたらダメ! 分かった?』
歩きながらノセが注意するが、
『『ワカリマシター』』
中国語難しい。
『キィィィー! このヒトデナシ!』
叫ぶノセ。
歩いていると、観光と思われたのか、呼び込みが多い。
言葉を喋れると、現地の関係者と勘違いして、すぐに逃げてしまうが。
『あ、あの、これ、買いませんか?』
と、まだ小学生くらいの幼い男の子が、辿々しい言葉で何かを売りに来た。
『ん? 何を売ってるんだ?』
しゃがんで聞くと、
『あ、お兄さんの弱いとこが来たね』
うっさい、こんな子が売ってたら話くらい聞くだろ。
『あ、こ、これ、似合う』
差し出してくれるのはストールだ。別段、凝っているわけでもないし、普段使い出来そうだな。
『へぇ、俺は紫か。似合うか?』
首に巻いて聞くと、
『に、似合う! 耳、一緒。イシシッ!』
ピアスと揃えてくれたんだな。
いい笑顔だ。
『あ、いいな! ねぇ、俺は?』
『ぼ、僕も僕も!』
結局、三枚買って、男の子にもチップを弾む。
賢人は黒でノセは黄色。
『あ、あ、ありがと』
チップをギュッと握り締める手はガサガサで、喉の奥が締まる。
着ているものも、ボロのアウターで、綿も潰れているようだし、ジーンズも土で汚れて、破れていないだけマシだろう。
『いい笑顔だ、これ、ありがとうな』
頭に触れようとすると、ビクッとしたが、撫でると笑ってくれた。
髪も洗ってないのだろう、茶色の長い髪は、撫でると少し埃が舞う。
『名前なんて言うの? また売りに来てよ』
賢人がしゃがんで言うと、
『ア、アジャティ』
『俺がケント、こっちが兄ちゃんのカズト、で、この豚がノセ』
賢人がゆっくりした言葉で喋ると、
『ケント、カズト。……ブタ』
『イエス! アジャティは賢いな!』
『ちょーい! ツッコミは苦手! 僕はボケだよ? じゃなくてブタって言った。ノーセ! ブータ違うよ? ノーセ!』
遊んでると、ちゃんと笑ってるからいいか。
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