第75話 ありがとうと中年

「カズトさん、めんどくさいのは分かるけど、ショウキがまた泣きそうだよ?」

 モッチーが出てきたので、


「んじゃモッチーに任せるわ」

 ポンっと肩を叩いて、バトンタッチ。


「……はぁ、ショウキ? 本当に分からない?」


『え? あ、あぁ』

 馬鹿鬼だ。


「同じ事をしようとしてるよ? 青鬼が一人で置いていった時は、どんな気分だった?」


『……え。……あ。あぁ、本当だな。なんて俺は馬鹿なんだ……すまなかった。もうちょっと待っててくれ! いいか?』

 

「行ってくれば? まだ遊んでるみたいだし」

 とモッチーが見る方向には、


「これって落ちないな」

「ひっ、皮膚が剥ける! 顔は優しくして!」

 賢人がタワシでノセの顔を洗ってる。


「賢人、これでやったら?」

「ぼ、ボブ? それって軽石? なんで? 僕を殺すつもり?」

 

 三人ともさっきまで聞いてたくせに。


『あ、ありがとうな。行ってくるだ!』

 走っていくショウキに、


「はいはーい、ごゆっくり」

 モッチーは手を振り、俺に向いて、

「て感じでいいかな?」


「さぁ? 早く帰りたかったんだが」

「ってことにしとくよ」


「……さいですか」

 くそモッチーが。




 ナキside


 森の中、一際大きな木の上。


『……また暇になるな』

 さて、今日のメシはどうすっかな?


『……ィー! ナキィー? ナキ!!』

 親父か……うっさい。


『カズト達は帰ったか?』

 もう、帰っただろうな。


『お前も行くだ!』


『……は? 行かねぇよ、親父の』

『ーー行け! 後悔するな!』

 この野郎!……


『ふぅ、聞けよ? カズト達はいい奴だ。だから迷惑か』

『ーー行きたいんだな! よし! 行け!』


 この馬鹿親父が、

『聞けって言っ』

『ーー聞かねえ! ……なぁ、ナキ。……ようやく友達が出来たじゃねぇか。

 遊びに行ってこい。そんで、たくさん経験して、俺に土産話の一つでも持ってきてくれ』


『……なんだよそれ』


『昔話はもう飽きただ。昨日話したのは俺の話だしな!

 お前の話をアイツらと作ってこい! とびっきり泣ける話なら、俺が本にして広めてやるだ!』


 ……なんだよそれ。


『……それなら俺も、親父の話は聞き飽きたな。

 アイツらはまだいるんだな? ……じゃあ、親父! ちょっと遊びに行ってくる! 戻ってきたら、俺の話で泣かしてやっから!』

 楽しそうじゃねぇか!


『あぁ、行ってこい! 俺はここで笑ってるから、いつでも帰って来い!』


『カカカッ!』

 アイツらと一緒か。


 悪くねぇな!




 カズトside


『……なぁ、聞くのも不憫に感じるが、なんでまだいるだ?』


 ナキは下を向いている、

「話してなかったが、いつでもここに来れるぞ? あとナキが来るなら、ここのコアにも身体があった方がいいだろ?」


 コイツら、感動のシーンを演じたみたいだが、……ダセェ。


『おい……いま笑っただろ? おい! そんなに可笑しいかよ?』


「や、やーめーろーよー。ワラウワケナイジャナイカ」

 バカナキめ! このネタで笑って、


「ベフォッ!」

 こ、こいつ頭イカれてんのか?


「なに手ぇ出してきてんだ、コラ!」

『てめぇの顔が気にくわねぇんだよ!』


「やめなさい! 話が先に進まないでしょ!」

 ……美羽の言う通りか。


「あとで勝負な!」『あぁ』



 サクッと、コアに身体を与えて。


 ショートカットの金髪で、アンコ位の背丈。黄色のベストにTシャツ、ショートパンツ。大きな瞳は、ちょっとつり目気味で、元気そうな女の子だが。


「なんで俺の名前が、アラレなんだ?」

 なんで、俺なんだ?


「お前が、嫌がるからだろ?」

 俺の名付けのセンスを尽く却下しやがって。


「は? なんで、オカキやらコンペイなんだよ! しまいにはアベって、苗字だろ!」

 

 あべかわ餅、美味いだろ。

「なら、ノセが言ってたらむ」

「それが一番ダメなんだよ!」


 雷娘っぽいから、ノセが喜んでたのに、

「だっちゃ、くらい言ってやれよ」

「もういい! アラレだ、この野郎!」

 

 口が悪いな、ナキに似たのか?


「なら、終わりかな。ショウキ! ナキ! いくぞ?」

 これから戻って、家作ったり、忙しいんだ。


『おう! 親父! 早くしろよ!』

 ナキはいいんだが、


『あぁ、もうちょっと待ってくれよ。あと、歯ブラシと……』

 ……デカイ図体してる癖に、……あ。


「あぁ、忘れてた! ナキ、先に行くぞ。扉を作らないと、ショウキじゃ通れない」

 

 とりあえず、ショウキを残して、異次元ハウスに戻る。



「うー、なんか久しぶりに感じる!」

 両手を広げて、帰って来た!って感じをだすな。


「賢人、一日泊まっただけで、そんな。……感じがするねーーー!」


「なんで師匠もノってるんっすか! さすがに、うーーーん、帰って来たぁーー!」


「これ、私もやるの? そ、そんな目で見ないでよぉ……私は、帰って来たぁーー!」

 美羽もノリノリだな。


「もぉ! 僕はやらないですって! ちょっ! 押さないでって、フオォォォ!アンコちゃんただいまぁーーゲフォッ!!」


 誰も押してないし、アンコに向かって行くなよ。


「なんなんですか? その顔のメイクは? キモブサイのが一回りしてもっとキモブサイです。そして薬はどうしたのですか?」


 あ、モッチーとノセがダッシュで逃げた。


「まぁいいか。ナキ、アラレ、ここが俺らのハウスだ」

 二人を迎えると、


『……』

「固まってるな。なぁ、カズト? あれは俺の仲間になるのか?」

 と聞いてくるアラレ。


「まぁ、そうだな。ここには、あそこで追っかけてる”アンコ”、そこでノセを狙撃しようとしてる”マロン”、他のダンジョンの”フク”と”ヨウカ”の四人がいる」


 アラレで五人目か。


「ふーん、先輩ってことだな。挨拶してくる」

 中々、積極的だな。


『か、カズト、都会だな』

 なんで田舎臭くなってんだ?


「普通にしろ、そんじゃサッサとやるぞ?」


 アンコに扉を作って貰い、他のダンジョン の扉と並べる。倍のデカさだな。


『いやぁ、ここがカズトのとこかぁ。いいとこだなぁ』


 って、

「ショウキ? 守護者として、あっちで仕事はするんだぞ? お前、全部持ってきたのか?」

 荷物が多すぎる。


『……あぁ、これか。これは、歯ブラシ「嘘だろ!」……少し持ってき過ぎたから置いてくる』


 ……馬鹿鬼。

 


 家を作るが、これは倉庫だな。

 ショウキのサイズだと、こうなるか。

 

『こりゃ、いいな! なんて快適な家なんだ! ここは天国か! ……あ、あと』


「ちゃんと毎日行かないと追い出すからな?」

 ……一言の後にチラチラ見るな。


『……分かっとるよ?』

 なんで疑問形だよ! この馬鹿鬼!



 他の住人にもなんとか受け入れて貰い、馬鹿鬼とアラレは一旦帰って、ダンジョンの調整をするそうだ。


 馬鹿鬼は、勉強したアラレに引っ張られて行った。

 アラレがシッカリしてるから大丈夫そうだな。


 最後にナキを連れて、ハウスを案内をする。


『カズト、明日はどうすんだ?』

 夕焼けに染まった湖を見ながら、二人でコーヒーを飲んでいる。


「別に、明日は休みだ。今回は短期間で、四つのダンジョンを攻略したからな。さすがに疲れた」


 後は大阪ダンジョンだし、人の多いとこは、ちょっと他人に任せる。


『そうか、なら俺は、ここに慣れる事に専念するわ』

 ナキはコーヒーを一口飲んで、苦い顔をする。苦手なら飲まなきゃいいのに。


『そうだ、言っとく事がある。……俺の父親は鬼だ。母親は鬼じゃない』


 まぁそうだろうな、

「ハーフだろ? 別に気にしないぞ?」


『あぁ、カズトの言ってるのは、人間同士のハーフの事だろ? それならショウキもそうだ』


「あぁ! そうか、種が違うのか。そりゃ、すげぇな」


 動物でもライガーや、ゾンキーがいたな。

 たしか、生殖能力がなかったりして、一代限りが多かった気がする。


『そうだな。これを知った人間は俺を恐れた。……まぁ、そんなわけで、ショウキは人間から離れてしまった。守護者になるまでは、二人で隠れて暮らしてたよ』


「あの図体で、よく隠れられたもんだ」


『カカカッ! だな。んで、母親は人間だ』


「……そうか、それもあって青鬼は」


『隠れ住んでいたらしいな』


「んで? なんか問題あるか?」

 まぁ、俺には関係ない。


『いや。知っといて欲しかっただけだ』

 泣きそうな笑顔をするな。


「そうか、ならそろそろ行くぞ? 美羽がメシ作って待ってる」


『おう! 腹減ったしな!』

 二人で家に帰る。


「そうだ、お前ステータスは持ってるのか?」

 ハーフなら取れるのか?


『持ってるぞ、親父が守護者になった時にとれたからな』


「あとで見せろよ、職業変えてやるから」

 へぇ、どうなってんのか楽しみだ。


『あぁ、“ありがとう”な』


「ケッ! どういたしまして」


 さて、メシだな。


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