第74話 笑鬼と泣鬼と中年



空はまだ明るくなり始めたばかりだ、


 ダンジョンの中だけど、


 家から出て、外の空気を吸う。


「へぇ、ここが東京ダンジョンの最下層、三十層で、ナキ達の住んでる場所か」


 周りは山に囲まれ、今いる場所は平地。

 畑があり、家は田舎にあるような木造で、どこかの村がベースなのかな?


『あぁ、親父の故郷とそっくりにしたらしい。まぁここなら食うに困らないからな』


「そうか、ここなら都会のど真ん中。Pも貯まるし、問題ないな」

 丸太の椅子に腰掛けて、ずんだ餅を出す。


『餅か? 俺にもくれよ』


 丸太に腰掛けるナキに、ずんだ餅を差し出し、

「ほれ、宮城県の名物でずんだ餅ってんだ。俺が最近ハマっててな」


『うめぇ! 宮城県ってとこにあんのか。へぇー』


「だろ! 中々わかる奴だな!」


『あぁ、昨日の話な。……鬼が嫌いなわけじゃない。……ただ、俺は混ざりもんだからな。親父達に失礼だろ?』


「……いきなりなんだよ。なら別にいいや、問題ないな」

 

『あぁ、問題ない』

 昨日は早く寝過ぎて、まだ朝はやい。


 みんなが起きてくるのは、もう少しかかるだろ。



「あぁそうだ。このダンジョンのモンスターの配置はなんなんだ? 妙に強いのがいたり、レアドロップがあんなのだったり」


『あれは、アトラクションってやつにして、人間に喜んでもらいたかったらしい。あんまり弱くするから、俺がコアに頼んで強いのを入れてもらった』

 二人がやったからチグハグだったのかよ。


「んじゃもうちょっと考えた方がいいな、ゴールドスライムとかはやりすぎだな」


『だろ? あれポイントすげぇ使うから、やめろって言ったんだ』

 ショウキには困ったもんだな。


『おはよう、二人とも朝はやいんだな』


『おぅ! 親父、おはよう』

「おはよう、ショウキ」

 と挨拶すると、倍くらいある身体で、俺らの目の前に胡座をかいて座る。


『……昨日は』

「良い夢みれたか?」


 ショウキはキョトンとするが、笑鬼らしい笑顔で、

『あぁ、おかげさまで、久しぶりに青鬼が夢に出てきただ』


「そうか、ならよかったな」

 こいつは笑ってないといけない。

 青鬼家族の為にも、自分達、親子の為にも。


『お、ナキ? 美味そうな餅だな、どれ? よこせ』

 と手を伸ばすが、


“バチンッ!”

 と手を叩かれ、


『おい、バカ親父! てめぇの分は、てめぇで用意しろっていつも言ってんだろ? 俺のもんを欲しがんじゃねぇよ!」


 凄い剣幕だな。

『えぇじゃねぇか。ナキが食ってるもんは、美味そうに見えんだから。……味見くらいいいだろ?』


『親父のは味見ですんだ事がないだろ!』

 あぁ、そうだろうなぁ。


『……ケチンボ』

 ん?


『あぁ? いまなんつったんだ?』


 ショウキは立ち上がると、

『ケチンボ! ケチンボォー!』

 と逃げていく。……ガキかよ。


『……ぶっ潰す! 今日は、絶対ゆるさねぇからな!』

 もう遠くに行った、ショウキを追っかけていくナキ。

 なにを朝っぱらからやってんだよ。


 ……面白そうだから見に行くか。



 

 ショウキはボロボロにされたが、笑っていた。



青鬼は、友達を大事にしたんだろうが、友達なら言ってやることも大事だと思うんだがな。ショウキの甘えも大概だが。


 まぁ、気付いたなら、俺は関係ないし、めんどくさい。


 ナキの奴は、鬼が好きなんだから、何と混ざってようが関係無いと思うが、それも俺とは関係無いし、馬鹿ナキはあれでいいだろ。


 二人に、このダンジョンは任せていいだろ。


「さて、そろそろ帰るか? 念話で連絡はしたが、アンコも心配してるだろうしな」

 もう、昼過ぎだ。まぁ扉出して帰るだけだがな。


「……兄ちゃん、そろそろ許してやってよ。スゲェウザくて、キレそうだ」

 若者はすぐ、キレるキレるうるさいな。


「罰だから仕方ない。今日は一日、それで過ごしてもらう」

 ノセには罰になってないようだけどな。


「ええ! じゃあ、さっさと帰りましょう! コイツ、本当にウザいっすよ」


 俺とナキが実施した罰ゲームは、ノセの顔に、落ちにくい染料をナキが持ってきたから、落書きしただけの軽いものだ。


 まぁ、明日になれば落ちなくて辛い思いを……するかな?


「賢人ぉ、ボォブゥ」

 ノセは、調子に乗っているが、歌舞伎役者のようなその落書きは……中々落ちないからな。


「うっせぇ! その顔でこっち見るな!」

「おまブハッ! アハハハハハ、やめろ! くんなって! イヒヒ、いてぇ。腹がハハハ」

 苦しそうだが、コイツらも昨日の罰だな。



『カズト、帰るだか?』

 ショウキだけか?


「あぁ、このダンジョンは任せていいだろ? 食うに困るわけでもないし、ナキと二人で仲良くやれよ」

 別に異次元ハウスに連れて行かなくても、ここ自体が自由に出来るんだからいいだろ。


『その事だが、ナキを一緒に連れて行ってくれねーか?』


「……断る」


『いや、今日のは昨日と違って』

 はぁ、コイツは、


「……めんどくさい」

 いちいち説明する必要ないだろ。

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