42話目、最後の四天王ブラド
「なあマール、奴隷についてどう思う?」
「あまりいいものではないな。彼らのおかげで生活が成り立っている人もいるし、彼ら自身も奴隷だからこそ生きていられるという面もあるかもしれないが、人が人を支配するなんて間違ってる」
「なら魔王を倒したら、奴隷解放宣言をしないか?」
「奴隷解放宣言? なんだそれは?」
「その名の通り、奴隷を解放すると宣言するんだ」
「それに意味があるか?」
「あまり意味はないかもしれないな。しかし、奴隷は間違っている、奴隷は解放するべきだ、そういう考えを広めるための第一歩にはなるはずだ」
元居た世界でも、かつてアメリカ大統領のエイブラハム・リンカーンが奴隷解放宣言を行ったが、すぐに解放された奴隷は少なかったらしい。しかし、それが奴隷制度廃止の第一歩だったのだ。その後憲法が修正され、完全に奴隷制が廃止された。
この世界の勇者はどのくらいの力があるんだろうな? 魔王を倒し世界を救った後、勇者が奴隷解放宣言を行うことにどれほど意味があるだろうか? しかし、なにもしなければ奴隷が解放されることはない。やってみるべきだろう。もちろんマール次第だが。
「……わかった、やってみよう」
俺たちは一度、王都アルディアに戻ることにした。魔王討伐の進捗状況の報告や、奴隷解放宣言を行うための話を通しておきたいからだ。アルディアの王はちょっと押しに弱く、流されやすい性格のせいで大臣の言いなりになっていたことも多かったが、悪い人物ではない。協力してくれると良いのだが。
俺たちは玉座の間で王と会う。大臣との戦いでぼろぼろになってしまった玉座の間も、今はすっかり元通りに戻っていた。
「よく来た、勇者とその仲間たちよ。まずは魔王討伐についての進捗状況を報告せよ」
俺たちはこれまでの活動を報告した。また、奴隷解放宣言がしたいと王に告げた。
「なるほど、話は分かった。世界を救う勇者の為だ、奴隷解放宣言の発布準備をしておこう。ただ、うまく行くかどうか」
「なぜです?」
「今まで奴隷を解放しようと試みた者は何人かいた。だが誰も上手くいっていない。犯罪者をどうするかという問題や、貧しい村人が子供を売って飢えをしのぐことができなくなり、家族全員飢え死にするという家も増えるだろう」
なるほど、奴隷制には奴隷制なりの合理性があるのかもしれないな。すぐに無くすのは難しいかもしれない。
そんな話をしていた時だった。突然玉座の間に大きな破壊音が鳴る。
ドカン!!
音がした方を見ると壁に穴が開いており、その前に黒いマントを身にまとった端正な顔立ちの男が居た。
「おやおや、こんなところに勇者ご一行がおいでだとは。私は運がいい」
「おぬし、何者だ!?」
「私の名はブラド。四天王の一人でございます」
そう言って、男は優雅に一礼した。
え!? 四天王が向こうからやってくるとかありか!? こっちは戦う準備ができてない。
「何をしに来た?」
「しりぬぐいですよ。四天王の中に、王都の結界も壊せぬ足手まといがいたようで。しかし、どうやら勇者ご一行がいらっしゃるようなので、先にそちらを始末しましょうか」
ブラドが腕を振るいマントがはためく。すると、いつの間にか手に槍を持っていた。
「ではいきますよ」
ブラドが槍を振るう。槍が急速に伸びてこちらまで攻撃してくる。俺はそれを氷の壁を作り防ぐ。しかし、ブラドの重い攻撃は俺の作った氷の壁をやすやすと砕く。
く、完全には防ぎきれないか。ブラドの槍は、攻撃後すぐに元の長さに戻っていた。
「王よ、早く逃げてください」
王と王を守る兵士が慌てて部屋から出ていく。俺たちは兵士と王が攻撃されないようにブラドに接近し、素早い攻撃を繰り出す。ブラドはそれを時に槍で受け止め、時に躱しながら華麗に捌く。
強い。俺たちは4人がかりで攻撃しているのに、すべて捌かれてしまっている。ブラドは四天王の中でも物理攻撃に特化したボスだ。普通の物理特化ボスには近づかず遠距離から魔法で攻撃するのが定石だが、ブラドは遠距離攻撃という弱点を伸縮自在の槍で見事に克服している。どう攻略するべきか。
「アーク、ブラドは闇に属する者だ。攻撃は任せる!」
俺の指示を受けてアークが一歩下がる。聖魔法には基本的に攻撃技はない。ただし例外が一つだけある。闇に属するものを浄化する技だ。ブラドは吸血鬼だ。闇に属するものである。
ブラドと距離を取ったアークが大技の準備を始める。俺たちはアークが技を使うための隙を埋めるため、3人で攻撃する。俺はブラドのモーションを読み切って先読みして攻撃しているが、それでも簡単に捌かれてしまう。ブラドは近接戦が強すぎる。
しかし、その間にアークの技の準備が整う。
ホーリージャッジメント――対闇に属するもの特化の聖騎士の技だ。
アークの剣から光が放たれる。それをブラドは軽々と避けようとする。しかし、そこで一瞬戸惑う。俺がブラドの足を氷で固めたからだ。俺が動きを止められたのはほんの一瞬だった。しかし、その一瞬でアークの放った白い光がブラドを完全に飲み込んだ。
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