40話目、闇の神殿

 俺たち五人は、四天王のである一人である大教祖イーブルが支配する闇の神殿に裏口から侵入した。


 まずは、地下で強制労働させられている奴隷たちを解放しに行こう。


 裏口から入ってしばらく進み、奴隷たちが強制労働させられている地下空間までやってきた。奴隷たちは石畳や土を運んだり、穴を掘ったりしている。


 ゲームでもここで何をさせられているのかは語られなかったが、おそらくこの場所に何らかの施設を作らされているのだろう。闇の神殿はまだ完成していないということだ。


 さて、どうやって奴隷たちを解放しようか。奴隷たちは手足に鎖をつけられ、ぼろい布切れのような服を着させられている。食事もあまり与えられていないのか、多くの者がやせ細っている。あれでは普通に逃がしても逃げ切れないかもしれないな。


 それにしてもひどいことをする。人に鎖をつけて無理やり働かせるなんて。この世界の奴隷制度を無くすことはできないだろうか?


 奴隷たちは鞭を持った複数の男たちに監視されているようだった。あいつらを全員倒して、鎖を外してやれば逃がすことができるか?


 隠れて奴隷たちを眺めながら、どうすべきか考えていると深い青ブルーに袖を引っ張られた。


「ここは私に任せて」

「一人で平気か?」

「平気」


 ブルーは弓を構え、音もなく矢を放つ。放たれた矢は、奴隷を監視している男の眉間に吸い込まれるように突き刺さる。


 ドサリ


 男は悲鳴を上げる暇もなく一瞬で倒れた。そして、倒れた男の体が魔物に変わる。奴隷たちを監視しているのは、人間に化けた魔物のようだ。どうやら大臣と違って変身が完ぺきではないらしい。


 ブルーはさらに矢を次々と放つ。奴隷を監視していた男たちは、何が起こっているのか気が付く間もなく倒されていく。そして徐々に奴隷と奴隷を監視している魔物たちが騒ぎ出す。


「行って」


 ここはブルー一人でも大丈夫そうだ。俺たちは先を急ぐ。




 俺たちは闇の神殿の地下を進む。すると、牢屋ばかりの区画に出た。闇の教団に反抗的な者や、暴れる奴隷などを拘束するための場所だろうか? この区画には、なぜか宝箱がいくつか置いてあったりする。魔物たちは牢屋を金庫代わりにしてるのか? 宝が置いてあるので、この区画を少し探索する。


 牢屋の周辺を歩いていると、小声で声を掛けられた。


「おい、おい、ここだ、ここ」


 声がする方を振り返る。そこにはぼろい布切れをまとった、お世辞にも綺麗とは呼べない男が居た。この男、どこかで見たことがある気がする。


「誰だ?」

「忘れちまったか? 俺だよ俺、ドラゴンスレイヤーのノイマンだよ」

「……ああ! ドラゴンスレイヤーを名乗りながら、まともに戦えず海でおぼれたやつか!」

「ちょ、静かにしろ。看守に見つかる」


 ノイマンが口に人差し指を当て、静かにするようにジェスチャーで懇願してくる。


「……で、こんなところでなにやってるんだ?」

「捕まっちまったんだ、助けてくれ」

「捕まった? どうして?」

「それは……その……お金が返せなくて……」

「うん? お金? まさか、借金が返せなくて捕まったのか!」

「ちょ、静かにしてくれ」

「で、どうして金を返せなくなったんだ?」

「ぎゃ、ギャンブルですっちまった」

「はあ」


 俺たちは呆れ、ノイマンの牢屋の前を通り過ぎていく。


「お、おい、待てって! ここから出してくれたら、お金はちゃんと返しに行くから!」

「うるさいぞ、看守に見つかる」

「うっ。なあ、頼むよ、出してくれ」

「はあ。少し離れてろ」


 俺はアーマーブレイカーを抜く。ゲームでは、牢屋は看守を倒して鍵を手に入れて開けるものだが、いちいち牢屋のカギを持っている看守を探すのは面倒だ。俺は思いっきり牢屋にアーマーブレイカーを叩きつけた。切れ味が良いため、音もなく牢屋が切れる。


「す、すげえ。あんた、本当に強いな。まるで勇者みたいだ」




 奴隷を開放して騒ぎを起こしているブルーのおかげか、大きな戦闘もなく俺たちは目的の場所についた。闇の神殿の最奥、大司教イーブルの部屋だ。部屋に入ると、祭服を身にまとい、大きな杖を持つ一人の老人が待ち構えていた。


「よく来た、勇者一同よ」


 俺たちは武器を構える。イーブルは武器を構えた俺たちに対し、両手を広げ、慌てることもなくマールに語りかける。


「まあ待ちたまえ、ゆっくり話し合おうじゃないか」

「話すことなどない」

「本当にそうかな?」

「なんだと?」

「では私の話を聞きたまえ。君たちは何故魔王を倒そうとする? 彼はだた蘇っただけで、まだなにもしていない」

「魔王が活動し始めれば、世界が滅ぶ。その前に倒す、それだけだ」

「君たちがしようとしていることは、赤ん坊を殺すことと同じことだ」

「なに?」

「君たちは生まれたばかりの悪人の子を殺すのか? いつか悪をなすからと。それと同じことをしようとしている。かわいそうに、魔王はただ生まれてきただけだというのに」

「それは……」


 マールがうつむき言いよどむ。なので俺が代わりに答えた。


「確かに魔王はまだなにもしてないかもしれない。しかし、あんたはどうだ? 悪徳大司教。悪いが、俺たちはあんたのような極悪人を倒すことをためらったりはしない」

「くっくっく、そうか。では力の差を分からせてやろう」

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