36話目、大臣その2

 大臣は裏方だ。戦闘を得意とする魔物ではない。魔王の力を分けられた手下の中では弱い方だ。大臣の魔物としての仕事は、魔王を倒しうる勇者が現れないか監視することだ。人を襲うのが仕事の他の魔物とは立場が違う。


 とはいえ弱いというのは、あくまで魔王の力を分け与えられている手下の中ではという話だ。


 魔王の手下には、魔王の力を分け与えられている者とそうでない者がいる。魔王の力を分け与えられている手下の中では弱い方というだけで、ボスとしては大臣はそこそこ強い方だ。


 真実の鏡から発せられた強い光を浴びた大臣は、人の姿から姿が変わり、肌が緑色になり、しわが増え、なにやら触手のようなものが生えた魔物の姿に完全に変わっていた。その大臣が言う。


「キサマ! 何者だ! くそ、こんなところで正体がばれるとは。こうなったらこの王都は攻め落としてくれるわ!」

 

 すると、大臣はどこからともなく杖を出し、あたりにでたらめに魔法をぶっぱなし始めた。土の塊が壁や天井に飛んでいき、周囲に穴をあけ、がれきが飛び散る。


 俺はまだ逃げきれていなかった王女様を地面に押し倒し、なんとか攻撃から守る。


「大丈夫ですか!?」

「は、はい」

「急いで逃げてください!」


 俺は氷の壁を作り出し、王女様や兵士たちを守る。アークは魔法に当たってしまった兵士たちを聖魔法で癒しながら避難を誘導していた。


 速く皆に逃げてもらわないと、このままじゃ戦いようがないな。俺たちはひたすら守りに徹しながら王様と王女様が逃げ切るのを待った。少しの間耐えていると、なんとか皆無事に避難したようだ。兵士は残って一緒に戦えよと思ったが、どうせ足手まといだし、いない方が楽か。


 一通り避難が終わったところで今度はこちらから攻撃する。俺は真実の鏡付きの盾を床に置き、アーマーブレイカーを取り出す。カジノで手に入れたこのアーマーブレイカーは両手剣なので、盾を持ちながら使うことはできないからな。


 俺は大臣に近づいていく。それをみて大臣は俺に向かって魔法を連発してくるが、それらを俺は巧みに避ける。


 上手く近づけたところで、俺はアーマーブレイカーを振り下ろす。大臣はそれを杖で防ごうとするが――


 影抜き――

 武技の一つである影抜きを使う。これは防御無効の神速の剣技だ。使っている俺もどういう仕組みかさっぱり分からないが、大臣の杖による防御をすり抜け、腕を切り落とす。


 たいていのボスは防御力が高いからな。そのおかげでアーマーブレイカーの効果で攻撃力が上がっている。それにしても腕を切り落とすほどの威力とは。


 アーマーブレイカーは、カジノをやりこんだ人間に与えられるインチキ武器だからな。ほとんどのプレイヤーは、必要なカジノメダルの枚数が多すぎて手に入れてないらしい。セーブ&ロードを駆使しても集めるのがめんどくさい枚数だし。


 大臣は腕を切り落とされ一瞬よろめくが、すぐに新たな腕が生えてくる。再生か。そして腕を生やすと同時にすぐに攻撃魔法を使ってくる。


 再生と同時に攻撃を仕掛けてくるとは。ボス側は一度に2回行動してきたりするんだよな。ちょっと卑怯じゃないか? 俺は避けようとするが、体が重い。鎧のせいか? 避ける動作が遅かったせいで、魔法が当たってしまう。とがった土の塊が、俺のわき腹をえぐる。思わずうめき声が漏れる。


 やばそうな傷口を見て俺は逆に冷静になる。なんか、傷口がやばすぎて現実感がない。痛いとは感じない、熱い。


 俺は回復薬を使おうとポケットに手を伸ばし、そこで装備がいつもと違うことを思い出した。この鎧にポケットなんてない。冷静なつもりでいたが、俺はかなり焦っているらしい。


 そこへ、あたたかな白い光が俺に降り注ぐ。アークの聖魔法だ。傷口に感じていた熱さが和らぎ、えぐれていたわき腹が塞がっていく。これが聖魔法か、やはり仲間に一人は聖魔法の使い手が必要だな。俺は改めてそう感じた。


 とりあえず立て直すため、俺は一旦下がる。それと入れ替わるように今度はアークが前に出る。


 アークの戦い方は堅実だ。盾で攻撃を確実に防ぎ、少しずつ距離を詰める。そして、自分の間合いで確実に攻撃を当てる。


 俺はアークの堅実的な戦いを見て、援護することにした。先端がとがり、らせん状の溝がある氷の円すいを作り出し、回転させながら大臣に打ち込む。


 氷の形状を自由に変えられる能力を生かし、いつもの氷魔法に少し改造を加えてみた。先端はとがらせた方がいいとして、ドリルのようにらせん状の溝をつけることには意味があるのだろうか? 作った俺も正直分からない。ダメージが数値で表示されたらわかりやすいんだが。


 アークの堅実な戦いと、俺の氷魔法の援護で大臣は少しずつ追い詰められていく。


「く、くう。もはやこれまでか。だが、ただでは死なん!」


 そういうと、大臣は玉座の間の後ろに飾られていた、透明な水晶のような玉に向かって杖を振り下ろす。それを見たアークが叫ぶ。


「やめろーー!!」


 しかし、アークの叫びもむなしく杖が水晶に当たり、砕け散る。


「はーっははは、これでもう王都は終わりだ。その姿をこの目で見れないのは残念だがな」


「そ、そんな……」

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