35話目、大臣

 そろそろ大臣を倒そうと思う。いつまでも影から王都を操らせておくわけにもいかない。おそらく今は姿を隠したギルガメッシュでも探しているだろうが、それが見つかればまたなにか仕掛けてくるだろう。その前に倒してしまうべきだ。


 問題は、どうやって大臣と会うかだ。ゲームでは勇者だったから簡単に会えたが、ただの一般人である今の俺が会うのは難しい。


 そこで、とある人物を頼ることにした。




 俺は戦死者の眠る街、シヨンタウン来ていた。聖騎士アークに会うためだ。聖騎士は国に仕えるエリートたちだ。なのでアークなら大臣に会えるのではないかと思い、頼ろうとやってきた。


 もしアークの伝手でも大臣に会えないようなら、力づくで城に押し入るしかないな。あまりやりたくはないが。ただ国のために城を守っている兵士たちを、傷つけないといけないかもしれないし。


 今回は簡単にアークと会うことができた。銀髪のイケメンが白銀の鎧を身にまとい、とある教会で俺と向かい合う。彼は早速俺に要件を聞いてくる。


「久しぶりだね、たしか君はムラトだったかな。僕はこれでも忙しい、用件は手短に頼む」

「わかった。さっそくなんだが、大臣に会いたい。何とかできないか?」

「大臣に? なぜだ?」

「大臣の正体を暴くためだ」

「ほう……」


 アークの目が鋭くなる。彼も何か知っているのだろうか?


「証拠はあるのか? 僕も大臣については調べているが、尻尾はつかめない。なかなか慎重な人物なようだ」

「証拠はない。証拠はないが、代わりにこれがある」


 俺は真実の鏡をアークに見せる。


「なんだい、その鏡は?」

「真実の鏡だ。これを使えば大臣の正体を暴ける」

「ほう、そんなものが。わかった、今度僕を王女の近衛騎士に任命したいという話が来ている。任命式の時に大臣にも会えるはずだ。君一人くらいならなんとか連れていくこともできるだろう」


 行けるのは俺一人だけか。真実の鏡を使えばおそらく大臣と戦闘になるだろう。俺とアークだけで戦うことになると思うが、倒せるかどうか。たぶん倒せるとは思うが、少し不安だ。




 アークが王女の近衛騎士に任命される前日の夜、俺は王城の近くで黄色いフレームのメガネをかけてたたずんでいた。


 そこへ手のひらサイズの美しい妖精が、その体と同じくらいの大きさの水晶のような球をふらふらしながら運んできた。


 妖精は、前に氷の指輪をあげた時以来、実はずっと俺についてきてしまっているようだ。ただ、俺は心がちょっと穢れているみたいで、普段は姿が見えない。意思疎通をはかりたいなら、妖精のメガネを使うしかない。


 俺はこの妖精にあることを頼んだ。それを上手くやってくれたらしい。どうやら王城には心の純真な者はいないようだ。まあ俺も人の事は言えないが。


 とりあえず、これで安心して大臣を倒せるな。




 任命式の日、俺とアークは王城にやってきた。ちなみに俺の今の装備は白銀の鎧だ。いつも着ている宵闇の服ではだめだとアークに言われ、しぶしぶ装備を変えた。


 これはこれでかっこいいのだが、少し重くて動きにくい。ゲームでは装備によって俊敏が下がるなんてことはなかったが、俺はこの鎧の重さで俊敏が下がっている気がする。気のせいかもしれないが。


 真実の鏡は盾の裏に仕込んだ。俺は最初、そのまま鏡を持ち込むつもりだったのだが、アークにそれは不自然すぎるからやめろと言われ、確かにそうだなと思い、盾を改造して裏に仕込んだのだ。


 マールとサキさんには王都で待機してもらっている。状況によっては手伝ってもらうことになるかもしれないし。おそらくそうはならないだろうが。


 さて、いよいよ大臣と顔合わせだ。訳もなく少し緊張するな。


 俺とアークは玉座の間に入る。そこには玉座に座る高齢の王様と、玉座の左に美しいドレス姿の王女がいる。そして、玉座の右には大臣だ。王様がアークに語りかける。


「聖騎士アークよ、そなたの近年の活躍は目覚ましい。その実力を見込んで王女の近衛騎士を任せたい。頼めるか?」

「はっ! この命に代えましても王女様を御守りすると約束いたします!」

「うむ、これで一安心できる。ところでアーク、後ろにいる者は誰だ?」

「僕の部下でございます」

「部下……? ふむ……」


 何の打ち合わせもしていなかったが、俺はアークの部下として連れられていたのか。ところで俺、少し怪しまれてる? まだ何もしてないのに。もう何か言われる前にやってしまうか?


 そう思い俺は、盾をひくっり返して裏の鏡を大臣に向ける。すると、鏡から強い光が大臣に降り注ぐ。


「何をする! やめろー! その者を捕らえよ!」


 慌てて周囲の兵士たちが俺を捕らえようと動くが、途中で大臣の様子がおかしいことに気が付く。大臣から白い煙が上がり、だんだん魔物の姿になっていく。アークが叫ぶ


「大臣は魔物だ! ここは僕たちが何とかするから、君たちは早く王女様と王様を連れて避難してくれ!」


 すると、周囲の兵士たちは急いで王女様と王様を連れて部屋から逃げていく。その間、大臣は体から白い煙を出しながら苦しむ。そして、完全な魔物の姿に変わる。


 さて、ここからが本番だ。大臣を倒すぞ。

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