30話目、武闘大会

 俺たちは才蔵さんに技を教えてもらうため、忍者屋敷の敷地内にある道場のような建物の中に集まった。そこで俺たちはハリセンを渡される。


「このハリセンで拙者を叩けたら技を教えてやろう」

「そんなことでいいのか? わかった」


 マールはハリセンで才蔵さんに殴り掛かる。彼はその場から一切動かない。そして、ハリセンが当たってしまった。かのように思われたが、ハリセンが叩いたのは突然現れた丸太だった。そして、才蔵さんはいつの間にかその右側に立っている。


「何!?」

「どうした? 拙者はここだ」


 マールがもう一度ハリセンで叩こうとする。しかしまたもやいつの間にか丸太に変わっている。これは才蔵さんの身代わりの術だ。これを普通の方法で突破するのは難しい。


 マールはその後、幾度となく挑むが全く叩くことはできなかった。


 マールが身代わりの術を使う才蔵さんを叩くのに成功したのは、2週間後の事だった。




 武闘大会――


 武闘大会は特殊なルールで戦うイベントだ。専用の武器とアクセサリーが配られ、それを装備しなければならない。アクセサリーは専用の武器の攻撃を3回無効化してくれるが、その後壊れてしまう。そして相手のアクセサリーを壊せば勝ちというルールだ。


 このルール、攻撃力が低い俺にとってはかなりありがたい。普通に戦うよりもはるかに簡単だ。正直負ける気がしない。しかし、油断しないように気をつけよう。


 ゲームの時は武闘大会に参加できるのは主人公1人だけだったが、この世界では俺たち3人全員出れるらしい。当たり前と言えば当たり前だが。


 ただ、サキさんは人前でサキュバスモードを使いたくないだろうし、仮に使ったとして、その試合に勝てても次の試合では使えない。技が使えないサキさんが勝ち上がるのは難しいだろう。


 マールはスペック的には優勝できそうなんだが、どうだろうな? スペックよりもプレイングが求められる大会だからな……。


 3人で参加したが、やはり俺が優勝しなきゃならないだろうな。




 武闘大会の1日目は予選だった。ゲームでは予選なんてなかったが……。参加人数を考えればあって当然か。俺たち3人は難なく全員予選を勝ち進んだ。


 そして次の日、ようやく本選だ。俺の対戦相手は誰だろう?


 待合室のような場所で待っていると、ついに俺が呼ばれた。闘技場へ歩いていく。すると、対戦相手の声が聞こえてくる。


「お前ら、よーく見ておけ! ドラゴンスレイヤーと呼ばれている俺の力を見せてやるぜ!」


 この声はノイマンか。どうやら会場を盛り上げているようだ。


 ノイマンはこの前は海でおぼれていただけなので、俺は戦う姿を見てないんだよな。だからどう戦うのか、どんな技があるのか俺は知らない。そんなに強そうには見えないが、なにか強力な切り札があるかもしれないし、油断せず全力で戦おう。そう思いながら試合場に出る。


「俺といきなり戦うことになるとは、かわいそうな奴だ! 速めに棄権したほうが……」


 ノイマンは俺の姿を見ると、急に声が小さくなっていった。そして小声でぼそっと審判らしき人に声をかけている。


「あっ、棄権します」

「……えっ?」




 せっかくやる気だったのに、一戦目はしょうもない勝ち方をしてしまった。だからちょっと不完全燃焼だ。二戦目はもっとしっかりと戦いたいところだ。相手は誰だろうか? 呼ばれたので試合場に出る。すると、そこには美しいエルフの女性が居た。


 深い青ディープブルーか。こんなところで戦うようなキャラではないんだが。


 俺と深い青は無言で構える。俺は武闘大会用の木刀のような武器、深い青は弓を構える。そこで審判が試合開始を告げる


「試合開始!」


 俺は試合開始の合図とともに一気に距離を詰める。遠距離武器相手には距離さえ詰められれば簡単に勝てるはずだ。


 それに対し深い青は上空に向かって矢を放つ。


 あれは恐らく――アローレインか!


 アローレインは上空から矢を雨のように降らす技だ。矢が雨のように降ってくるので、下手をすると一瞬で3発以上のダメージを受けてしまう。上空に放った矢は一本だけだった気がするが、なんで1000本以上の矢が降ってくるんだ? 物理法則どうなってんだ!


 急いで矢が降ってくる範囲から逃れなければ。そう思い急いで移動する俺に今度は三本の矢が飛んでくる。トリプルショットだ。武闘大会のルールでこういう複数ヒットの技をいくつも駆使してくるのはインチキ過ぎる。


 なんとか三本の矢をよけたところに、今度は上空から矢が降り注いでくる。範囲外に逃げられなかったか。仕方がないので俺は疾風閃を使う。瞬間的に直線距離を高速で移動する技だ。深い青相手にあまり技を見せたくなかったが仕方ない。こうなりゃ速攻で勝つ。


 俺は移動ついでに疾風閃で深い青を吹き飛ばす。これで一発。さらに深い青の後ろに俺は氷の壁を作る。すると、疾風閃で吹き飛ばされた深い青が氷の壁にぶつかり、再び俺の前まで跳ね返ってくる。そこへ俺は二連斬を放つ。高速で二回切る技だ。


 すると、深い青の首にある武闘大会専用のアクセサリーが砕ける。俺の勝ちだ。


 危なかった。深い青は武闘大会では強すぎる。俺だから何とか勝てたが、普通のプレイヤーだと相当苦戦しただろう。しかし、なんで深い青は武闘大会に出たんだろうか? ゲームで登場するのは、もっと後半になってからのキャラのはずなんだが。なにか理由があるのだろうか?




 そして、武闘大会の次の対戦相手は――マールだった。

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