29話目、忍者屋敷

 カジノで手に入れたバニースーツはサキさんに着てもらうことにした。というのも、マールが着るのを嫌がったからだ。防具を新調するなら、もっとまともな見た目の防具の時にしたいらしい。FQに強くてまともな見た目の女性用防具なんてあったかな……?


 ちなみにサキさんは喜んで着てくれた。サキさんにとてもよく似合っている。


 さて、これで俺たちは少し強くなることができた。次の街に進もう。




 俺たちはバートルタウンという街にやってきた。この街の中央には巨大な闘技場があり、そこでは武闘大会が行われる。その武闘大会に参加するためにやってきた。優勝賞品が重要なアイテムである真実の鏡だからな。参加しないわけにはいかない。


 どうやら武闘大会はまだ行われないようだ。開催は約2週間後らしい。ゲームの時はこの街に着いたらすぐ開催だったが……。現実的にはそんな都合がいいことがあるわけもないか。


 しかし、もし俺たちが来るのが遅くて武闘大会の開催に間に合わなかったらどうなっていたんだろう? まさか、真実の鏡が手に入らないのだろうか? それは非常に困る。あと、この大会で負けたらどうなるんだろう? ゲームならゲームオーバーでセーブ地点からやり直しになるが、この世界では負けても別に死ぬわけじゃないし。


 この武闘大会で負けても死ぬわけじゃないから危機感はあまりないが、真実の鏡が手に入らないと大臣を倒せなくなってしまう。なんとしても優勝せねば。




 とりあえずまだ武闘大会まで時間があるので、先に別のイベントをこなそう。


 この街のとある場所に、一際目立つ大きな家がある。他の家はレンガのようなもので作られているのに、なぜかこの家だけ武家屋敷のような見た目の家だ。そして家の前には張り紙がしてある。


 御用の方は中でお待ちください


「中でお待ちください? ずいぶん不用心な家だな。ムラト、この家に何の用があるんだ?」

「この家の主が強い武技を使うんだ。その技を伝授してもらおうと思ってな」

「そうなのか。じゃあ早速中で待たせてもらおうか」


 そう言って、マールが扉に手を掛ける。俺は慌てて止める。


「待て!!」

「どうした?」

「俺が行く。二人はここで少し待っていてくれ」


 俺は二人を下がらせ、慎重に扉に近づく。そして勢いよく扉を開け、同時に左へ飛ぶ。


「きゃ!」

「うわ! な、なんだこれは!」


 中から弓矢がいくつも飛んできて、俺が居た扉の前を通り過ぎ家の前にあった塀に突き刺さる。知ってはいたが、それにしても恐ろしい屋敷だ。

 マールとサキさんは、突然飛び出してきた弓矢に驚いたようだ。俺は二人に説明する。


「この家は忍者屋敷なんだ。家中罠だらけだ。その罠を潜り抜けた者の用事しか聞かないというのだ、この家の主は」

「ええー!? こんなトラップがまだまだあるの? 危なくない!?」

「危ないから二人は待っていてくれ」


 そう言って、俺は屋敷の中に慎重に入る。


 この忍者屋敷、ゲームでもトラップの種類も数もランダムなんだよな。だからFQをやりこみまくった俺でも慎重に攻略する必要がある。


 俺は石を転がして落とし罠を見破ったり、弓矢が飛び出す壁を凍らせて罠を無効化したり、天井が落ちてきて押しつぶされそうになるのを氷の柱を作って防いだりしながら屋敷の中を進む。それにしてもえげつないトラップばかりだ。


 一応、ここのトラップを見破れなくても、回復アイテムや聖魔法で回復しながらごり押しでも攻略できたりする。痛いからやらないが。ゲームが苦手な人でも攻略できるという意味では少し優しいか?


 数々のトラップを乗り越えて、ようやく客間と思われる和室にたどり着く。ここがゴールだ、疲れた。しかしまだ油断できない。


 最後の罠がこの和室にはある。畳の縁だ。この和室の畳の縁を踏んでしまうと、罠で入り口まで戻されてしまう。畳の縁を踏むのは実はマナー違反らしい。俺はFQというゲームをやって初めて知った。マナーを守れない奴は最初からやり直せってことなんだろう。


 畳の縁を踏まないように慎重に和室の中に入り、席について待つ。少し待つと、忍び装束の40代のダンディな男性が入ってきた。忍者才蔵だ。


「拙者に何用かな?」

「才蔵さんの技を教えていただきたくて参りました。どうか教えていただけないでしょうか?」

「ほう、拙者の名を知っているか。君は罠を見破る技術、マナーを知る心、どちらも持っている。個人的には君を良く思っているが、残念ながら我が技を受け継ぐには才能に欠けるようだ」

「あの……俺にではなく、仲間に教えていただきたいのですが……」

「ほう?」


 俺が才蔵さんの技を覚えられないのは知っていたからな。マールに技を教えてほしくて俺はここまで来たのだ。才蔵さんにトラップを解除してもらい、マールたちを呼ぶ。

 

 その時、マールを見た才蔵さんが言う。


「なるほど、どうやら彼女は才能があるようだ。わかった、稽古してやろう」


 そういうと、才蔵さんはどこからともなく厚紙を折り畳み根元を束ねた物、ようするにハリセンを取り出したのだった。

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