28話目、乱数調整

 神はサイコロを振らない。


 天才物理学者アルベルト・アインシュタインが、量子力学を否定するために言ったとされている言葉だ。


 サイコロを振る神がいるのかいないのか、それは俺には分からない。量子力学を理解できるほど、俺は頭が良くないからな。ただ、俺にも分かっていることはある。


 ゲームの中に、サイコロを振る神は居ない。




 ゲームの中には様々なランダム要素がある。魔物といつ遭遇するか、どんな魔物と遭遇するか、稀に強力な一撃、いわゆるクリティカルを出す確率や、魔物を攻撃した時のダメージのばらつき、魔物からレアなアイテムを手に入れる確率などなど。


 それらはすべて、一見完全なランダムに見える。だが違う。


 ゲームの中に、サイコロを振る神などいない。すべてプログラミングによるものだ。つまり、ゲームの中に完全な運の要素などない。プログラムによって、結果は事前に決まっている。


 ゲームの中に出てくるランダム要素というものには、大体は疑似ランダム関数というものが使われている。この疑似ランダム関数は、ランダムに見えるようにコンピューターが作り出した数である。


 このランダム関数、実は条件が同じなら結果も同じになる。どういうことかというと、例えば、サイコロを0時0分0秒に振ったとする。その時6が出た。これ、時間による疑似ランダム関数を使ったゲームなら、何度やっても0時0分0秒にサイコロを振ると毎回6が出てしまうということである。


 もちろん時間が条件とは限らない。ゲーム中に変化する何らかの条件によって結果がランダムに見えるように出力しているのだ。


 ようするにこの疑似ランダム関数の計算式と条件を把握できれば、ゲーム上で起こるすべての偶然は必然となるということである。サイコロを振って6を出したいなと思ったら、0時0分0秒に振ればいいわけだ。


 これを、乱数調整という。




 さて、FQに似たこの世界でも乱数調整ってできるのだろうか? 試してみるか。


 俺は何度もカジノに出入りする。カジノ内の乱数テーブルが、出入りによってリセットされるからだ。入り口にいるカジノの従業員に怪訝な顔をされるが、ゲン担ぎですと言い張って何度も繰り返した。


 カジノを出入りし、モンスター闘技場の結果を確認する。この時、移動時の歩数をきちんと数える。歩数も乱数に影響があるからな。求める結果じゃなかったので入り直しだ。


 モンスター闘技場の結果を確認、成功だ。次にモンスターレースの結果を確認する。これも成功。そして、歩数を数えながらついにルーレットの席に着く。座ったのは右から3番目の席だ。


 ルーレットが回される。俺はまだ掛けない。乱数調整が成功しているかどうか分からないからだ。最初に出た数字は黒の1だった。次が赤の2。


 これは成功したか……?


 俺は黒の3に持っているコインをすべて掛ける。緊張の一瞬だ。


 そして……


 出たのは、黒の3だった。


 掛けたコインが、36倍になって返ってくる。俺はこれをさらに赤の4に全部掛ける。もちろんそれも36倍となって返ってきた。


 せ、成功だ……!


 まさか、本当に成功するとは。そうなると、ますます分からないことが出てくる。FQに似たこの世界っていったい何なんだということだ。なんで乱数調整ができるんだ? おかしいだろ! この世界はコンピューターのプログラミングでできているとでもいうのか?


 この世界がなんなのか、非常に気になるが俺の頭はそんなに良くはない。俺以外に頭の良い奴が転生してきてないだろうか? そんなやつがいれば話しをしたい。そして、この世界が一体なんなのか見解が聞きたいところだ。時間があれば探してみるか?


 そんなことを考えながらルーレットに掛け続け、俺は莫大な枚数のコインを手に入れた。これでカジノの全景品を交換できる。




 マールとサキさんが戻ってきた。マールは手に大量のコインを持っているが、サキさんは手ぶらだ。


「うう……全部すっちゃった。ムラト、ごめんね」

「私の方は一杯稼いできたぞ、まだ景品の交換には足りないが、この調子ならしばらくやれば集まりそうだ。ムラトの方はどのくらい集まったんだ?」

「ああ、俺の方は枚数が多すぎて持てないからもう預けてあるんだ」

「そんなに集めたのか。一体何枚だ?」

「約12億枚だ」

「12億!? いったいどうやって!?」

「あー、秘密だ」


 乱数調整はあんまり良い攻略方法じゃないからな。教えない方がいいだろう。さて、景品を交換しますかね。




 そして俺たちはすべての景品を手に入れた。このカジノ大丈夫かな? 潰れたりしないだろうか。少し心配だ。やりすぎたかもしれない。


 とりあえず景品をいくつか確認しよう。まずは武器だ。マールは聖剣があるし、サキさんは武器を使わない。となると新調できるのは俺の武器だけだ。


 アーマーブレイカー

 俺の新しい武器だ。相手が硬ければ硬いほど攻撃力が上がる強力な武器だ。今まで魔物が硬くて困ったことが何度もあったから、これは非常に助かる。


 次は防具だ。


 バニースーツ

 うさ耳のヘアバンドと、うさぎの尻尾がついた胸元が大きくあいた、体のラインがはっきり分かるボディースーツのエロい装備だ。こんな見た目なのに何故か防御力が高く、攻撃力と俊敏が上昇する効果もある。FQの女性用の装備、強い防具に限って妙にエロいやつが多いんだよな……。


 バニースーツはサキさんとマール、どちらに着てもらおうか?

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