27話目、カジノ

 カジノとは、お金をメダルに変えて、そのメダルを様々なギャンブルで増やし、大量のメダルと豪華景品を交換する娯楽施設だ。


 この豪華景品というのは、ものすごく高性能な装備や貴重な回復アイテムばかりだ。このカジノで頑張ってメダルを集めると、終盤まで使える超強力な装備を揃えられたりする。


 ただ、そのかわり必要なメダルの枚数はかなり多い。俺の今の全財産をメダルに替えても、装備とは一つも交換できない。メダルはカジノにあるギャンブルで増やすしかない。お金でメダルを集めるのは無謀だ。それくらい必要なメダルの枚数が多い。


 さて、どうやってメダルを集めようか。ゲームの時はセーブ&ロードで簡単に集められたが……。


 セーブ&ロードとは、簡単に言えば事前にセーブしておき、勝つまでやって負けたらセーブデータをロードして何度もやり直すという攻略法だ。……攻略法か?


 とにかく大抵のプレイヤーはこの方法でメダルを集めてる。しかしこの世界でセーブ&ロードなんてできないので、別の攻略法を考えなければ。




 俺たちはカジノの中に入った。中には様々なギャンブルがある。ルーレット、ポーカー、ブラックジャック、後はモンスター闘技場やモンスターレースなんてのもある。モンスター闘技場は魔物を戦わせて、どの魔物が勝つか予想するギャンブルだ。モンスターレースは魔物の速さを競う。どうやって魔物を捕まえてきてるんだろう?


 様々なギャンブルの間を、うさ耳のカチューシャをつけて、胸元が大きくあいたバニーガールたちが歩き回っている。それをつい目で追ってしまっていると、マールがやや低い声で苛立ったように話しかけてくる。


「ムラト? こんなところに何の用だ? まさか遊びに来たんじゃないだろうな?」

「あっ、あれを見てくれ」


 俺は景品を指さしながら言う。


「こ、ここには高性能な装備品がたくさんあるんだ。手に入れられれば今後の戦いが楽になる。それを手に入れるために来たんだ」

「へえー?」


 マールの冷たい視線が突き刺さる。そして景品を見たサキさんが言う。


「ようし、メダルを集めればいいんだね? お姉ちゃんに任せて!」


 サキさんは意気揚々とギャンブルに向かっていた。もしかしてサキさんって実はギャンブルが好きなのだろうか?


「ムラト、景品の交換に必要なメダルの枚数が尋常じゃないんだが、あんなに集まるのか?」

「普通にやったら無理だろうな」

「普通じゃない方法があるのか?」


 現実でのカジノ攻略法と、ゲームでのカジノ攻略法を俺は知っているが、ゲームでのカジノ攻略法ってこの世界でも通じるのだろうか? まあ試してみるしかないか。とりあえず俺はまずは現実でのカジノ攻略法について説明する。


「マーチンゲール法って知っているか?」

「マーチンゲール法? なんだそれは?」

「簡単に言えば倍々で掛けていく方法だ。配当が二倍以上のギャンブルで最初は1枚掛ける。それで負けたら2枚。それでも負けたら4枚、8枚と勝つまで掛け金を倍にしていく。最後に勝てば負けた分を取り返せるという寸法だ」

「なるほど……それなら絶対に負けない気がするな。しかしそんな簡単な方法があるならカジノはすぐに潰れてしまうのでは?」

「実はマーチンゲール法には問題があるんだ」

「問題? なんだ?」

「資金だ」

「資金?」

「1、2、4、8と倍々にしていくと、どこかで資金が足りなくなる恐れがある」

「そうか? 結構足りそうだが」


 甘い! マールは倍々の恐ろしさを知らない。10回負ければ1024枚、20回負けると1048576枚も必要になる。20回も負けるか? と思うかもしれないが、確率はゼロではない。マーチンゲール法を繰り返していると、負けが込むことが必ずある。そのとき資金がいくらあっても安心できないということだ。


「資金があっても掛ける枚数に上限がある場合もある。負けが込んで上限枚数にぶち当たって、負けを取り返せないということもある」

「そんなにうまい話はないということか。じゃあやはり運に身を任せるしかないな」


 まあその辺の問題もなんとかなるモンテカルロ法とかウイナーズ投資法とかもあるが……。


「いや、そうでもない。カウンティングなら勝てる」

「カウンティング?」

「ああ、これはブラックジャックで使える攻略法だ」


 ブラックジャックとは、トランプのカードを引いて合計を21に近づけるギャンブルだ。ディーラー(カジノ側のギャンブラー)に勝つと配当がもらえる。21を超えると負けてしまうので、いかにぎりぎりまでカードを引くかどうかの駆け引きを楽しむギャンブルだ。ディーラーは合計17以上になるまで必ず引いてくる。


「カウンティングとは、場に出たカードを覚えていくという方法だ。場に出たカードを覚えていくことで、山札にどのカードがどのくらい残っているのか分かる。それによって自分が今有利かどうかを知ることができる。そして有利な時に大きく掛けて勝っていくという方法だ」

「出たカードを全部覚えるのか? それは難しくないか?」

「ああ、だからそれぞれのカードを点数に置き換えるんだ。

 例えば、

 10、11、12、13、Aは-1点

 2、3、4、5、6は+1点

 のようにだ。

 で、プラスが大きい時には強気に掛けていく」

「それならできそうな気がする。だがそんな方法で本当に勝てるか?」

「もちろんだ。これで大儲けした奴もいたからな」


 もっとも、現実で今この方法を使うとカジノから追い出されるがな……。

 とはいえこの世界ならたぶん通じるだろう。まだこの世界のカジノでカウンティングで大儲けした奴はいないはずだ。


「じゃあ私はそのカウンティングとやらを試してみるか。ムラトもそうするのか?」

「いや、俺は別の方法を試してみる。成功するかどうかは分からないが」


 さて、俺はFQ廃人用のカジノ攻略法を試してみるか。通じるかどうかはやってみないと分からないが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る