26話目、キングオクトパス

 ギルドの前でマールに絡んできた自信満々の男、ノイマンは海に落ちてしまい、溺れてしまった。早く助けなければ。


 俺は海を凍らせる。凍らせると言っても、海の表面を一部だけ凍らせるだけだ。海水は凍りにくいし。これはこの前氷の女王にもらった力だ。MPが続く限り自由に氷を作り出せる。俺のMPはそんなに多くないから、何度も使える力ってわけでもないが。


 凍った海の上に立ち、氷の足場を作りながらノイマンのところまで走る。


「おわっぷ、た、助けてくれー!」

「今助ける!」


 俺はノイマンに手を伸ばす。すると彼は俺の腕に必死にしがみつく。思いっきり引っ張るものだから、俺も危うく落ちそうになるが、何とか踏ん張り氷の上に引っ張り上げる。


「た、助かった。あんなでかぶつが相手なんて聞いてねえぞ!」

「確かにでかいが、あんたが狩ったドラゴンほどではなんじゃないか?」

「はあ!? 俺が狩ったドラゴンはこれくらいの……あっ」


 彼は手を広げ、自分が倒したというドラゴンの大きさを示そうとし、そこで気が付いたようだ。やっぱり弱いドラゴンじゃないか!


 どうやら彼は頼りにならなそうだ。やはり俺たちが倒すしかないか。


 俺はキングオクトパスに向かっていく。すると後ろからノイマンに声を掛けられる。


「おい! どこへ行くんだ!? 逃げねえのか!?」

「あんたは下がってろ! 俺は奴を倒してくる!」

「あんなでかぶつは無理だ! ここは逃げて国に騎士団を出してもらった方がいい!」

「大丈夫だ! 俺なら倒せる!」

「どうなっても知らねえぞ!」


 国に騎士団を出してもらうには、いつまで待たなきゃらならないか分からないからな、ここでさっさと倒そう。


 俺は氷の足場を作りながらキングオクトパスに近づく。奴は足を暴れさせていて近づきにくい。しかし、一見ランダムに暴れているように見えて規則性がある。俺は奴の足を右へ左へと華麗に避け、時には切り裂きながらどんどんと頭に近づく。


 俺の動きを見てか、後ろから様々な魔法や矢が飛んでくる。冒険者たちの援護だろう。攻撃力はあまりない俺にとっては、かなりありがたい援護だ。


 キングオクトパスはでかい。そのため、さっきから何度も切りつけてはいるんだが、ただ表面を切っているだけで芯に攻撃が届いている気がしない。


 とはいえダメージは蓄積しているはず。時間をかけるしかないか。油断せずに攻撃を続けよう。油断してミスをしたら一気に崩れる恐れがある。


 奴の頭が少し下がる。これは墨による攻撃の前兆だ。俺は氷の壁を張って防ぐ。それにしてもこの氷の能力は便利だな。これで俺のMPがもっとあればいろいろできそうなんだが。ムラトはMP少ないからな……。


 俺は攻撃を回避しながらキングオクトパスを切り続ける。


 攻撃を続けていると、一際大きな雷が奴を貫く。マールの攻撃魔法のようだ。それを受けると、奴は静かに沈んでいく。やっと倒せたか。やれやれ、ボス戦は時間がかかって疲れるな。それでも冒険者たちと仲間の援護があったから早めに倒すことができたが。


 さて、これでようやく次の大陸、コスターク大陸に渡ることができるぞ。




  俺たちはコスターク大陸の港街、ダーマについた。ここは港街でありながらカジノの街でもある。今は昼だから普通の港街に見えるが、夜はきらびやかな明かりがともされ派手な夜の街となる。とりあえず宿を探そう。そう思い街を歩く。すると、どこかで聞いたことがある声がする。


「そこの彼女、そこの彼女。エルフの君だよ、君」

「ん? なに?」

「なあ、俺と組まないか」

「あなた、強いの?」

「もちろんだ! こっちにきたばかりだから俺の名はまだ知られていないが、向こうじゃドラゴンスレイヤーのノイマンと呼ばれた男だぜ。ここに来る前にも、でかい蛸野郎を退治してきたところだ」

「ふうん。海に落ちて溺れてたんじゃなくて?」

「……えっ!? 誰だそんなことを抜かした野郎は! そんなのデマだ!」

「嘘つき、私には見えてた。目がいいから。どうせ組むなら貴方じゃなくてこの人がいい」


 エルフはそう言うと、たまたま近くを歩いていた俺に抱き着いてくる。それを見てノイマンが苛立つ。


「ああん? 誰だ、人が口説いているときに横から割り込むやつは……あっ。さてと、そろそろ宿に戻らなきゃな。じゃ、俺はこれで……」


 ノイマンは俺の姿を見るなり、そそくさと去っていった。あいつ、いつもああやってナンパしてるのだろうか?


「助かった、じゃあ私もこれで」


 俺に抱き着いていた美しいエルフも去っていく。それにしてもあのエルフ、見たことあるな。もしや深い青ディープブルーか?


 深い青はFQで仲間に出来るキャラのうちの一人だ。彼女は肌が白く、とがった長い耳が特徴の人間に似たエルフという種族で、目がよく、適正のある技なら一度見ただけですべて覚えてしまう強キャラだ。基本は弓で戦うが、その特性のためあらゆる武器を使いこなす。


 こんなところで出会うとは。偶然か?




 さて、とりあえず宿を取ろう。そのあとはカジノ攻略に取り掛かるぞ。

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