25話目、港町

 FQには大きな大陸が5つある。俺たちがいるのはアトラス大陸という大陸だ。この大陸で今できることはもうあまりない。そろそろ次の大陸に進もうと思う。


 俺たちは次の大陸へ行く船が出る港町、シーベルへとやってきた。まあすぐには次の大陸へ行けないんだが。ここでもひと悶着あるからな。


 とりあえず船着き場まで行く。もしかしたら船を出してくれるかもしれないし。


 船の上でなにやら作業をしている屈強な海の男に大きな声で話しかける。


「すみませーん! 船って出ますか!?」

「ああん!? 出るわけねえだろ!! 知らねえのか!?」

「どうして出ないんですか!?」

「魔物だ!! 強い海の魔物が出るから出せねえんだ!!」

「あの! それなら俺たちが魔物を倒します!」

「お前らが!? おいおい、冗談はよせ! 倒せるわけねえだろ!!」


 あれ? おかしいな。


 俺の知っている物語なら、ここで俺たちが海の魔物の討伐を請け負うことになるはずなんだが。ギルガメッシュが勇者ということになっているからか? 勇者でもない知らない人に、危険な海の魔物の討伐を任せたりはしないか。


 海の魔物を倒すには、船乗りたちに船を出してもらわなければならない。俺たちを乗せた船乗りたちは、俺たちがやられたら一緒に海の藻屑になってしまう。実力もわからない知らない人物に討伐を任せたりはしない、か。


「近々冒険者たちによる討伐作戦が行われる予定だ! それまでおとなしく待ってるんだな!」


 冒険者による討伐作戦か、なるほど。ゲームの時は海の魔物は勇者が倒したが、この世界の勇者は姿を隠している。その代わりに冒険者を集めて倒そうということなのだろう。いつまでも海を魔物に封鎖されていては、物流も止まるし漁も行えない。何としても倒したいんだろう。


 冒険者による討伐作戦か、俺たちも入れてもらえないだろうか?




 冒険者とは、 個人または少数で魔物を狩ることを生業にしている者たちを指す。魔物による大きな被害が出れば国が騎士団を動かすが、小さな被害では動いてくれない。そこで個人的に魔物を狩る人々が現れた。それが冒険者の始まりだという。


 彼らは最初、各々好き勝手に活動していたのだが、依頼人と冒険者は幾度となくトラブルを起こした。そこで間に入る組織が作られた。それがギルドだ。


 サキさんはそのギルドにコネがあるようだった。俺たちを海の魔物を討伐するメンバーに入れてくれるように話をつけてくれたらしい。


 海の魔物の討伐作戦に参加するため、ギルドの前で待つ。少し早く来すぎたせいか、まだ人はあまりいない。

 

「そこの彼女、そこの彼女。黒いローブを着ている君、君だよ」

「……ん?」


 マールが金髪の若く筋肉質な男に声を掛けられた。


「マール、知り合いか?」

「いや、知らん」

「おいおい、俺を知らないのか? ここのギルドで一番の有名人、ドラゴンスレイヤーのノイマンとは俺の事だぜ?」

「聞いたことあるか?」

「いや、ないな」


 誰だ? こんな男FQで見たことないぞ。この世界にはたくさんの人がいる。その中でゲームに出てくる人物はごくわずかだ。俺が知らない人がいても当然ではあるんだが。とりあえず、ストーリーに関わる重要な人物ではないのは間違いない。


「で、そのノイマンとやら。何の用だ?」

「俺と組まないか? そこの怪しい男と組んでいるより俺と組んだ方がよっぽど有意義だぜ?」


 まさかマールの素質を見抜いたのか? それでパーティに誘っているのだろうか? だとしたらこのノイマンって男は結構すごい奴かもしれん。


 ……単にマールの見た目が好みという可能性も捨てきれないが。


 マールは興味を持ったのか、ノイマンに話の続きを聞く。


「ほう、あんたは強いのか?」

「俺はドラゴンスレイヤーだぜ? 強いに決まっている」


 ドラゴンといってもピンからキリまでいる。強いドラゴンが有名だから、ドラゴンと言えば強いと思っている人も多いが、弱いドラゴンも結構いるのだ。


 コモンドラゴンとかなら、割と序盤で出てきたりする。まあこれだけ自信たっぷりに言うのだから、強い有名なドラゴンを倒したんだとは思うが、それだけじゃ実力はわからないな。マールもそう思ったのか、手合わせを願い出た。


「ならば手合わせ願おう」

「……女を痛めつける趣味はない。あんたらも海の魔物の討伐に参加するんだろう? そこで見せてやるよ、俺の実力をな」




 複数の冒険者たちと俺たちは、複数の船で海の魔物討伐に出た。俺たちは急遽参加したせいか、後方の船だ。あのノイマンという男は最前列の船に乗っている。


 海をしばらく進む。快調な航海が続く。このまま魔物なんて出ないのではないか? そう思った矢先、それは現れた。


 突然海が盛り上がる。どんどん大きく盛り上がり、まるで山のようになる。そして、海面から頭を現した。金の王冠を被った巨大な蛸のような魔物、キングオクトパスだ。


 俺たちの船は後方にある。すぐには戦いに参加できない。前列にいるあのノイマンという男がこの魔物にどう戦うのか、見物させてもらおう。倒してくれるなら楽ができる。


 まずはキングオクトパスが一番前線にあるノイマンの船を複数の足でつかみ、揺さぶる。前線の船に乗っているノイマンたちは必至で船の柵にしがみつく。そこへ、さらにもう一本の足で甲板を薙ぎ払う。


 ノイマンたちは海へ落ちていった。


 ……ん?


 い、いや、ここからだ。あれだけ自信だっぷりに俺の実力を見せてやるなんて言っていたんだ、これで終わりなわけがない。そう思って海に落ちたノイマンを探す。


 船から少し離れた場所でノイマンを見つけた。彼は手で海面をばちゃばちゃと激しく叩いている。


 あれ、もしかして溺れてないか……?

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