31話目、準決勝

 俺たち3人は武闘大会に参加した。そして次々と勝ち進んだ結果、仲間内でつぶしあうことになってしまった。次の対戦相手がマールだとは。ちなみにサキさんは残念ながら途中で負けてしまったようだ。


 武闘大会は本来、ゲーム通りに進むなら勇者であるマールが優勝するはずだ。だから俺はここで負けてもいいはず。ただ、問題はこの試合が決勝戦ではないということだ。この試合は準決勝。ここで勝っても次の試合がある。


 次の試合をマールに任せられるかどうか。任せられるなら俺はわざと負けてもいいが……。いや、マールはそんなことをしたら怒るだろうな。


 やはりここは全力で戦うべきか。それで負けたら安心して次の試合を任せられるし、勝ったら俺が優勝すればいいだけだ。


 もし俺かマールが次の試合で負けてしまい、優勝を逃してしまったら真実の鏡を優勝者から買い取るという手もある。優勝者が譲ってくれるかどうかわからないから、できれば俺かマールが優勝したいところだが。


 俺とマールは試合場で向かいあう。そこでマールが声をかけてくる。


「ムラト、まさかわざと負けようなんて考えてないだろうな?」

「……そんなことないぞ」

「ならいい。全力でこい、私はそれに打ち勝つ」


 俺たちは武器を構える。そして審判が試合の開始を告げた。


 マールは試合開始の合図と共にいきなり突っ込んできた。あの構えは疾風閃だ。俺は咄嗟に左に避ける。マールは俺がさっきまでいた場所まで高速で突っ込んできた後、そこで動きを止める。武技を使った直後の僅かな硬直だ。その隙を逃さず俺は切りかかり一打与える。


 開幕直後に疾風閃で突っ込んでくるとか、脳筋過ぎる。決まればいいが躱されたら隙だらけになってしまうだろう。そして、俺はその隙を逃さない。


 マールは俺から一打もらった後、一旦離れて立て直しをはかりつつ声をかけてくる。


「今のを躱すか、さすがだな」

「開始直後に突っ込んでくる奴があるか! 躱されることを考えないのか」

「どうせ何をしたって攻撃を読まれてしまう気がしてな。だったら開始直後に突っ込んだ方がまだ勝機はあると踏んだんだ。残念ながら躱されてしまったが」


 マールは今度は走って距離を詰めてきた。武技を使わなくても俊敏が高いのでかなり早い。そしてそのまま切りかかってくる。武技ではなくただの通常攻撃だ。技を使うと隙ができるので、それを嫌ったのだろう。


 俺はその攻撃を武器で真正面から受け止める。最初は競っていたが、ステータスの差で俺は徐々に押される。強くなったな。俺は力比べでは勝てないと思い、一度下がる。


 受け身だと、ステータス差でごり押しされるときついな、どうするか。こちらから果敢に攻めるか、相手がしびれを切らして大技を使ってくるまでじっと耐えるか。どちらがいいだろうか。


 俺が少し逡巡していると、マールが再び突っ込んできた。ひたすら攻撃あるのみって感じの攻め方だな、初心者にありがちだ。ある程度上手くなると、普通はもっと駆け引きを行うものなのだが。


 俺はマールの攻撃を左に避けようとしたところで、構えを見て慌てて足元を転がるように避ける。


 分身斬――攻撃する一瞬、分身して横に三人並んで攻撃してくる技だ。


 分身斬はついこの間、才蔵さんからマールが教わったばかりの技だ。分身が横に並ぶので、横に避けるのは難しい。俺はそれをなんとか避けたあと素早く立ち上がり、振り返り攻撃を当てる。あと一打だ!


 俺はそのまま追撃する。マールは俺の攻撃を受けた後、素早く逃げ回るがそれを俺は巧みに壁際に追い込んでいく。追い込まれたマールが苦し紛れの攻撃を放つが、それをよけて最後の一打を叩きこんだ。


 マールの装備している武闘大会用のアクセサリーが砕け散る。


「くっ! まだ勝てないか。もっと強くならなければ」


 簡単に勝ったように見えるかもしれないが、思っていたよりもかなり苦戦した。分身斬は当たっていてもおかしくなかったし、技を使わす通常攻撃だけで攻めてこられても危なかっただろう。マールはどんどん強くなっているな。この調子なら魔王を倒せるようになる日も近そうだ。さて、決勝戦は誰が相手なのだろうか?




 待合室のような場所で待っていると、ついに俺が呼ばれた。いよいよ決勝戦だ。ここまで来たからには何としても優勝したい。


 試合場に行くと、先に俺の対戦相手が来ていた。そこにいたのは忍び装束の男、才蔵さんだった。


「驚いた、君には才能をまるで感じない。それなのにここまで勝ち進んでくるとは。拙者の目も曇ったかな。いや、そもそも人の才能を拙者ごときがはかろうなど、思い上がりも甚だしいか」

「才蔵さん、どうしてこの武闘大会に?」


 才蔵さんは本来、武闘大会で戦う相手ではない。なにか参加した理由があるように思える。


「なに、拙者の実力が今でもどのくらい通じるのか試したくなった。才能あふれる若者を見てつい血が滾ってな。さて、そんなマール殿を倒した君の実力、見せてもらおうか」


 才蔵さんが木製の短剣のようなものを構える。俺も武器を構えた。そして、試合開始が告げられた。

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