19話目、ネクロマンサー

 シヨンタウンにはお墓が多いが、同時に教会も多く聖職者もたくさんいる。その聖職者たちの目をかいくぐり死者を弄ぶのはかなり難しい。


 町の有力者の協力がないならだが。


 そして、ネクロマンサーに協力しているのが町長というわけだ。


 俺はアークと共に町長の屋敷を訪ねた。この町で一際大きな屋敷だ。訪ねると応接間らしき部屋に通され、ふくよかな男が俺たちの前に座る。彼が町長だろう。


「聖騎士様がこのようなところへいらっしゃるとは、何用ですかな?」

「最近この町では、夜になると死者が町を歩いているという噂がある。なにか知らないか?」

「もちろん私も噂は知っていますが、聖騎士様が知りたがるような情報は何も」

「そうか。だ、そうだが?」


 アークが隣にいる俺に話を振る。俺は話を切り出す。


「ところで最近、娘さんを昼に見かけなくなったと町の人たちが心配しています。なにかご病気ですか?」

「え、ええ。最近体調を崩してましてなあ」

「一目お会いすることはできますか?」

「それは……」

「娘さんの姿を確認したら我々は帰ります。会わせていただけますね?」

「だ、だめだ!」

「何故?」

「ダメなものはダメだ!! 帰れ!!」


 町長は突如怒りだし、俺たちを帰そうとする。


「アーク、町長の娘を探すぞ!」

「何故だ?」

「会えばわかる!」

「やめろぉ!」


 俺は立ち上がり、町長の屋敷を探し回ろうとする。町長は俺を抑えようとするが、押しのけて屋敷を探し回る。その後ろをアークが怪訝な表情をしながらも付いてきた。いくつもの部屋を開けていく。そして、ついにお目当ての部屋を見つけた。


 ぬいぐるみが置いてあるかわいい女の子の部屋だ。その部屋にベッドがあり、女の子が腰かけている。


 女の子の目は赤く、肌は青白い。アンデッドの特徴だ。それを見たアークがつぶやく。


「……そういうことか」

「みつかっちゃった」


 そこへ町長が走りこんできて、娘の前に立ちはだかる。


「聖騎士様、これは……なにかの間違いです! 娘はアンデッドなんかではありません」


 アークは前に進む。


「やめろぉ、やめてくれぇ。娘はなにも悪い事はしてないんだ! お願いします!娘を見逃してくれ!」


 町長がアークの足に縋り付くが、引きずりながら娘の前に立つ。


「父さん、もういいの。今までありがとう」

「そんな……ああぁ……」


 アークが娘の頭に手をかざすと、白い光が辺りを包む。すると、娘はゆっくりとベッドに倒れた。浄化されたのだろう。その後、動くことはなかった。


 その後しばらく町長は泣き崩れていたが、落ち着いたところでアークが話を聞く。


「何故娘がアンデットに?」

「娘は生まれた時から病気がちでした。ある時風邪を引いたのです、その風邪が良くなかった。なかなか治らず、そのまま亡くなってしまった。私は娘の死を受けいられなかった、その時に出会ったのです」

「ネクロマンサーに、か」

「はい、初老の神父でした。彼は魂を神の元から呼び戻すことができると私に言いました。私はその言葉に縋ってしまったのです」

「それで娘がアンデッドになってしまったのか」

「はい……彼は娘を再び失いたくなければ協力しろと……」

「それで、その神父はどこに?」

「……教会です」


 そういうと、町長は古びた教会がある方向を指さした。






 アークは速足で教会へ向かっていった。俺はもうすぐ日が落ちるから念のため明日にした方がいいと言ったのだが、アークは町長の娘を浄化したことはネクロマンサーにはばれている、早く向かわなければ逃げられてしまうと言った。俺は仕方なくアークについていく。まあアークがいれば負けることはないか。


 俺とアークがその教会にたどり着いたとき、太陽は家々の向こう側へと沈んでしまった。今はまだ赤い空も、もうじき黒に染まるだろう。夜が来てしまう。


 中に入ると、初老の神父が出迎えた。


「こんな時間に何用ですかな?」

「とぼけなくていい、あなたがネクロマンサーなのだろう?」

「……わかっていながらこんな時間にやってくるとは。まもなくアンデットの時間ですよ?」


 神父の姿が変わっていき、魔物の姿になってく。そして奥の部屋から武器を持ったアンデッドたちが次々と現れ襲い掛かってくる。


 すると、アークは剣を抜いて掲げた。剣からまばゆい白い光が迸り、アンデッドたちを襲う。アンデッドたちは次々と倒れていった。


「ば、バカな!? これほどの数のアンデットを一撃で浄化するだと!?」


 さすがアーク、めっちゃ強い。


 そのままアークが唯一生き残ったネクロマンサーに近づいていき、剣を胸に突き刺す。すると魔物は消滅した。




 あれ? もしかして俺要らない?




「悪かったね君を犯人扱いして。ありがとう、助かった。君がいなければ僕はネクロマンサーを見つけられなかっただろう」

「いえそんな」

「ところで君の名は?」

「ムラトです」

「ムラト、もしなにかあったら遠慮なく僕を頼ってくれ。僕は貸を作ったままにするのは嫌な方だ」


 そういって、アークは去っていった。おそらく今回の事を上に報告しに行くのだろう。


 さて、目的のネクロマンサーは倒すことができた、次の街に進むか。


 いや、その前にマールたちの様子が気になる。一度確認しに戻るべきか?

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