15話目、地下遺跡
俺はマールの為の武器と防具を手に入れた。
アイテムも揃えたし仲間も増やした。
あとはレベルだ。
仲間のレベルを上げよう。
FQではパワーレベリングはほぼできない。パワーレベリングとは、レベルの高いキャラがレベルの低いキャラを連れて強い魔物を倒し、レベルの低いキャラを一気に高レベルに引き上げる行為だ。
FQでは魔物を倒した時、近くに高レベルのキャラがいると、その高レベルのキャラにほとんど経験値が渡ってしまい、低レベルのキャラにはあまり経験値が入らないようになっている。
つまり、レベルを一気に上げるような裏技は無いということだ。レベルを上げるにはマール自身に頑張ってもらうしかない。
俺たちはトルース村の南東にある地下遺跡に向かった。地下遺跡がマールたちのレベル上げに最適だと思ったからだ。それほど離れていない場所にあったので、すぐについた。
そこには、朽ちた石の柱がいくつも立っていた。倒れている石の柱も多数ある。その中心に、下へ降りていける階段がある。あれが地下遺跡への入り口だろう。
階段は脆く崩れやすそうだったが、下に降りると天井が高く広大な空間が広がり、壁もしっかりしている。崩れて生き埋めになることはなさそうだ。
太陽の光が少しも入らない地下空間ではあるが、天井には電球のようなものがあり、空間を隅々まで照らす。視界は良好だ。それにしてもあの電球のようなものは一体なんだろう? まさか本当に電球なわけないし。
広大な地下空間を俺たち三人は慎重に進む。すると、なにやら地面が震えだす。
地震だ。
ズドン、ズドン、ズドン。
地面が規則的に揺れる。そして揺れに合わせて大きな足音のようなものが聞こえる。
「きゃ!」
「な、なんだ!? この揺れは!?」
サキさんが小さく悲鳴を上げ、マールも動揺したように大きな声を上げる。
ズドンズドンと音のするほうを見ると曲がり角があり、角の先から大きな影が見える。影はどんどん大きくなり、それにあわせてズドンズドンと地面も揺れる。そして、ついに角からその姿を現す。
それは、いびつな鉄の塊だ。鉄の塊が、偶然人の形に見えるようにくっついた、そんな見た目をしていた。その人型の鉄の塊は、高い天井に頭が付きそうなほど大きい。どうやらこいつが俺の目当ての魔物、メタルゴーレムのようだ。
俺は少し下がり、サキさんにも下がるように手で合図する。
「マール、お前が戦え!」
「え!? 私だけか!?」
「私はいいの?」
「サキさんはとりあえず下がっていてください。マール、お前なら倒せるはずだ」
「うそだろ!? あのでかぶつを私だけでか!?」
「危なくなったら助ける、まずはやってみろ」
「死んだら恨むからな!」
そう言って、マールは果敢にメタルゴーレムに挑む。その魔物は一見強そうに見えるが、実はそれほど強くはない。いや、強いは強いんだが、勇者にとっては大したことがない。
メタルゴーレムは硬さに特化した魔物だ。俊敏や攻撃力は大したことはない。オーブでステータスを底上げし、ビキニアーマーを装備しているマールがやられることはほぼないはず。
そして硬さについてだが、マールの使う聖剣なら問題なく切れる。さすが最強の剣だ。それだけじゃない、実はメタルゴーレムは魔法にも強いんだが、勇者が得意とする雷魔法だけはよく効く。
メタルゴーレムはそれなりの強さの魔物だが、勇者だけは苦手なのだ。
魔物がマールに腕のようなもので殴りかかる。マールは剣で受け止めようとする。剣と腕が当たり、甲高い金属同士のぶつかる音がする。そして魔物の腕が切られて落ちる。
「なっ、き、切れた」
偽物のはずの聖剣で、簡単に切れたことにマールは驚いたようだった。
「だから言ったろ、倒せるはずだって。ぼんやりしてないで早く倒せ」
「あ、ああ」
マールはオーブによって底上げした俊敏で悠々と魔物の攻撃をかわし、聖剣で切り裂いていく。そして何度かの攻防ののち、メタルゴーレムは大きな音を立てて倒れこむ。重さで地面が大きく揺れる。
「た、倒せた……のか?」
「ああ、問題なく倒せるようだな。この調子で頑張ってくれ、俺は街に行ってくる」
「え?」
「俺は街を救ってくるから、お前はレベル上げしてろ」
「え!?」
ステータスは低いのに無駄に高レベルの俺が、レベル上げをしているマールと一緒に居ると俺ばっかり経験値を得てしまい効率が悪い。なので勇者が戦えることを確認したら、俺は物語を一人で進めるだけ進めようと思っていた。
俺が街を救い、その間に勇者はレベルを上げる。これが一番効率的だ。
「どういうことだ!?」
「魔王はまだ復活していないが、魔王の手下はもう活動を始めている。俺は魔王の手下に襲われている街を救って来ようと思っている」
「私も行く!」
「足手まといだ、ここで実力をつけろ。ある程度実力が付いたら一緒に戦おう。今はまだ実力が足りていない」
「そんな!?」
「ムラト、私は?」
「サキさんはマールのサポートをお願いします」
サキさんはソロで長く冒険者をしている。経験も豊富だし無茶はしないだろう。ダンジョン攻略のイロハも知っているだろうし、二人なら安全にレベルを上げ、この地下遺跡を攻略できるはずだ。
「いいか、無理だけはするなよ。下へ降りるときは、その階の魔物が何体現れても安全に倒せるようになってからだ。慎重に進め」
地下遺跡は下に降りれば降りるほど敵が強くなるダンジョンだ。地下一階は問題なく倒せるようだが、先に進めばどうなるかわからない。本当は何レベルになってから下の階に降りろと指示したいが、レベルを確認する術がないからな。まあサキさんが一緒なら無理はしないと思うが。
「サキさん、マールをお願いします」
「うん、ムラトも無理しないでね」
「はい、一人では勝てそうにないと思ったらすぐに二人を迎えに来ます」
そう言って、俺は地下遺跡を後にした。
そして街を救おうと思ったのだが、救おうと思っていた街はみんなギルガメッシュにすでに救われていることを知るのだった。
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