16話目、ギルガメッシュ
ギルガメッシュ――
俺が彼について知っていることは実はあまり多くない。わかっていることは、彼がとても目立ちたがり屋であるということだ。
目立ちたい、その一心で彼は勇者を目指した。努力もしたらしい。様々な剣豪の弟子になり剣技を学び、神刀流という強力な剣技をマスターした。また、魔法も研究しており、派手で強力な炎の魔法を使う。
だが、彼は努力もむなしく勇者にはなれなかった。
勇者は努力でなるものでもないしな。
ギルガメッシュは別に悪いやつではない。どうしても勇者という目立つ存在を諦めきれず、つい勇者だと名乗ってしまった、それだけなのだ。FQでも、どうしても勇者がこなさなければならないイベントで、目的が被ってしまってしかたなく戦うことになるだけだ。
彼は勇者を名乗っただけで、やっていたことは善行だった。実際に善行をしているという描写もあった。救われた人もたくさんおり、偽勇者だったと知っても慕う人がたくさんいたのだ。だから目的さえ被らなければ、俺としても戦わなくていい相手なんじゃないかと思う。
ギルガメッシュが活動を始めるのは物語の中盤にさしかかってからだ。なのになぜもう活動をしているのか気になったが、どうやら俺のせいらしい。
色々な街で様々な話に聞き耳を立てたところ、ギルガメッシュは俺が偽物にすり替えておいた聖剣を抜いて、勇者として名乗りを上げたらしい。その後王からの報奨金や支援を断り、様々な街の人達を脅かす魔物たちを次々に退治していったそうだ。
ギルガメッシュの評判はうなぎのぼりだ。誰もが口々に彼を素晴らしい勇者だと褒めたたえている。これはもう今更マールが本物の勇者として名乗り出れる雰囲気ではないな、そんな予定はないが。
しかしそうなってくると気になるのは大臣の行動だ。おそらくギルガメッシュは大臣にとってかなり邪魔な存在だろう。もしかしたら排除に動いているかもしれない。ギルガメッシュはFQプレイヤーたちに愛されているキャラだ。俺は彼を助けるために追いかけることにした。
ギルガメッシュは目立つ。追いかけるのは簡単だった。どうやら今は王都アルディアにいるようだ。俺も一度王都に戻ることにした。
キャー、キャー、キャー
王都に入ると黄色い悲鳴が聞こえた。そちらを見ると、赤い髪に派手な鎧、腰に二本の剣を下げた男が若い女性たちに手を振りながら歩いている。ギルガメッシュ、めっちゃ人気者だな。
俺は話しかけるために彼の後を追う。一人になったら話かけようと思ったのだが、いつまでたっても一人にならない。街の人たちに手を振り大通り進んでいく。
しばらく後ろをついて歩いたところ、彼は同じ道を何度も歩いていることに気が付いた。あいつ、ただ声援を受けたいがためだけに目的もなく大通りを歩いているな?
いつまで待っても一人にはならなそうなので、仕方なく話しかける。
「ギルガメッシュさん、今いいですか?」
「なんだ? 我は忙しい」
同じところをぐるぐる回って声援を受けてるだけじゃないか! そう思ったがぐっとこらえて話を続ける。
「あの、本当に少しだけなんで」
「ふむ、少しだけならいいだろう。勇者である我のありがたい言葉を聞かせてやろう」
俺とギルガメッシュは人目をさけ、裏路地に入る。
「ギルガメッシュさん、魔王の手下があなたを狙っています。危険ですので王都から離れて一度姿を隠してください」
「いやだ」
「なぜ!?」
「ようやく楽しくなってきたところだ。それなのに姿を隠せだと? 死んでもごめんだ」
「危険ですよ!?」
「ふ、それがどうした? 多少の危険はものともしない、それが勇者だ。それに魔王の手下が向こうから来てくれるならむしろ好都合、探さなくて済む」
そういうと裏路地から出ていった。だめか、話を聞いてくれない。
しかたなく俺はしばらく王都でギルガメッシュを監視することにした。監視していると、彼は大臣に呼び出されていた。そこで、どうやらドラゴン退治をお願いされたらしい。彼は行く先々で今度はドラゴンを退治しにいくと吹聴していた。
おそらくドラゴン退治は大臣の罠だ。王都で殺すと足が付きそうだから、少し離れたところで殺そうということだろう。そして、死んだらドラゴンに殺されてしまったとでも言うに違いない。
罠と知ってか知らずか、ギルガメッシュは意気揚々と王都から出てドラゴン退治に旅立った。
俺は気が付かれないように距離を置いて後を追う。
意気揚々と草原を歩いていたギルガメッシュだったが、突然うずくまる。彼の足元には五芒星の魔法陣が突然浮かび上がり、周囲に黒いローブを着た魔導士のような魔物が5体現れる。そして、正面に大きな黒い鎧の人物が現れた。ダークナイトか!
「くっくっく、こんなにあっさりと罠にかかるとはな」
「罠とは卑怯な! 我を開放しろ。正々堂々と戦え!」
「魔物相手に正々堂々と戦えとは、笑わせてくれる」
ダークナイトが漆黒の大剣を構える。
「死ねえ!」
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