14話目、仲間
「サキさん突然すみません、お邪魔します」
「お邪魔しますだなんて他人行儀ね、遠慮せずいつでも帰ってきていいのよ。あなたは私の家族みたいなものなんだから。ところで後ろの方はどなた?」
「初めまして、マールです」
「マールちゃんでいいかな? よろしくね。何もない家だけど、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」
俺とマールはサキさんの家に泊まることにした。サキさんに泊まっても良いか尋ねたところ、快く泊めてくれるようだ。
「ところでムラト達はもう夕ご飯は食べたの?」
「いえ、まだです」
「そう……じゃあ私が作ってあげるね」
「いえそんな、泊めてくれるだけで十分です」
「いいのいいの、遠慮しないで。お腹すいたでしょ」
俺たちは遠慮したのだが、サキさんは晩御飯も作ってくれるらしい。家の奥にある炊事場に向かっていった。そして居間で二人きりになりしばらくたった時、マールが話しかけてきた。
「サキさんは優しそうで良い人だな。ところで聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「ムラトはどうして旅をしているんだ? あれほどの財があり、ここに帰りを待ってくれている人もいる。わざわざ旅なんかしなくてもいいんじゃないのか?」
「マールは魔王について知ってるか?」
「魔王? おとぎ話のあれか? 昔の勇者が倒したという」
「それだ」
「魔王がどうかしたのか? 何年も昔の話だろう?」
「それが、じつは近々復活して世界を滅ぼすとしたらどうする?」
「そんなばかな。大体、ムラトは世界を滅ぼす魔王の復活を何故知っている? 未来でも知っているというのか?」
「ああ、俺は知っている。この世界が滅ぶ未来を、な」
マールは俺の言葉を聞き、驚いたように目を大きく見開いた。そしてしばらく考え込む。数秒の沈黙ののち、マールが言葉を口にする。
「聞いたことがある、どこかに未来を正確に占う一族がいると。ムラトもそうなのか?」
「あー……少し違うが、似たような能力があると思ってくれ」
この世界にゲームなんてないので、ゲームでやったことがあるなんて言っても伝わらないだろうからな。占い師の類と思ってもらった方がわかりやすいだろう。俺には上手く説明できそうにないし。
「マール、一緒に世界を救わないか?」
「私なんかが役に立つのか?」
「ああ、お前じゃなければだめなんだ」
「そうか……わかった、私も戦おう」
「よし決まりだ。魔王を倒すためにも、お前をどんどん強くしてやるからな」
俺はマールと握手した。
マールが仲間になった。
仲間とは、同じ目的を持つものだと俺は思う。目的を共有した俺たちはこれで真の仲間となったのだ。この調子であと二人仲間にしないとな。
「なあ、二人で魔王を倒すのは難しいし仲間を増やしたいんだが、マールはどんな仲間が良いと思う?」
ゲームなら、わざわざマールにどんな奴を仲間にするべきかなんて聞く必要はない。俺が思う最強のメンツを集めればいい。だが、ここは現実だ。マールと折り合いの悪いやつを仲間にすればパーティがぎくしゃくするだろうし、そうなれば連携がうまくいかない可能性もある。先にどんな奴が仲間にふさわしいか聞いておくべきだろう。
「……女がいい」
「なぜだ?」
「あー……やっぱりなんでもない」
「いや、遠慮せず言ってくれ。長い間一緒に戦うんだ、不満がある方が困る」
「……だって、私はビキニアーマーで戦うんだぞ。そんな姿を男に見られたくない」
あ、そういわれればそうか。うーん、もっと普通の見た目の防具にするか?
でもビキニアーマーは破格の性能だしな。防具をとるか仲間の性別を縛るか、か。
仲間を女性に限定するとなると、俺が仲間候補と考えていた何人かのキャラが使えなくなる。勇者を除いた場合の最強キャラと名高い聖騎士アークとか、条件を満たせば単体火力最強の忍者才蔵とかは仲間に出来ないということになる。
とくにアークを仲間に出来ないのは結構痛いな。
アークは回復役だ。普通の回復役はうたれ弱く攻撃性能も低い、回復とサポートしかできないキャラが多い。しかしアークは回復役でありながら、高い防御力と攻撃力を有し、サポートもこなせる回復役という名の万能キャラなのだ。
アークを回復役にすればパーティが安定する。パーティが瓦解するのは脆い回復役が真っ先にやられてしまい、回復ができなくなってそのまま全滅するパターンが多い。だが、アークは硬いのでそうそうやられることはない。安心して戦うことができる。回復が必要ない時は攻撃にも参加してくれるし、まさに最優のキャラだ。
もちろん俺はFQを女性キャラ縛りでクリアしたこともあるし、別にアークが絶対必要ってわけでもないんだが……。
とりあえず女性キャラを仲間にしておき、それでうまく行くようならそのまま進み、あんまりうまく行かないようなら、良い防具を手に入れ次第パーティメンバーを入れ替えればいいか。
「ね、それなら私を仲間にするのはどうかな?」
「うわ!」
仲間について考えていたら、サキさんが料理を持ってやってきていた。すっかり考え込んでいて気が付かなかったが、もう料理は完成したらしい。どうやら俺たちの話も聞いていたようだ。
サキさんを仲間に、か。
女性キャラ縛りなら悪くない選択の気もするが、あんまり戦いに巻き込みたくはないな。できれば平穏に過ごしてほしい。そう思い俺は断るためにリュックから青いビキニアーマーを取り出す。
「な、なんだと! その装備はまだあるのか!?」
「サキさん、俺たちの仲間になるならこの装備で戦ってもらいます」
「あ、かわいい。着替えるね」
「え!?」
青いビキニアーマーはビキニアーマーの下位互換だ。少々防御力が落ちる。ただ、これでも十分強い装備ではある。これを着るとなったら嫌がるだろうと思って出したのだが、ノリノリで着替えに行ってしまった。当てが外れてしまった。
「どうかな? かわいくない?」
しばらくするとサキさんが着替えから戻ってきた。グラマラスな体を堂々と見せつけてくる。はちきれんばかりの大きな胸を小さな青い金属がなんとか抑え込んでいるが、今にもはちきれてしまいそうだ。
サキさんは感性がおかしい、これはどう見てもかわいいというよりはエロい。
サキさんがあまりにも堂々と見せつけてくるものだから、俺もつい魅入ってしまった。それを見かねたのか、マールが慌てて俺とサキさんの間に入り体を隠す。
「女性がむやみに体を見せるんじゃない」
「いいじゃない別に、ムラトにだけなんだから」
「よくない!」
「えー」
何はともあれ、こうして俺たち三人は魔王を倒すという同じ目的を持った真の仲間となった。これから先、俺たち三人にはどんな戦いが待っているのやら。
王都、大臣室
大臣の前に一人の兵士がいた。大臣は兵士に尋ねる
「本当にギルガメッシュは勇者なのか? ルディーナ村に行った兵士はなんと言っている?」
「はっ! どうやらギルガメッシュはルディーナ村出身ではあるようです。数年前まで暮らしていたという証言がありました。出身地を天などと言ったのは単なる見栄でしょう」
「占い師の言うこととも矛盾しないか。しかし妙にひっかかる、奴が本当に勇者なのか? ガマと戦ったのは黒い服を着た正体がわからない男ではなかったか?」
「王に謁見するために装備を新調でもしたのでは? 今では民の問題解決や魔物討伐で人気も出始めています。皆、ギルガメッシュは良い勇者だと言っていて疑うものはいませんよ」
その後兵士は一通り報告したのち、大臣室から退室した。大臣はしばらく一人で考え込む。
「ううむ、なにか引っかかるが殺さない理由もないか。ダークナイトよ」
大臣が呼びかけると、部屋の隅の陰から全身黒い鎧の男が現れる。
「ようやく俺の出番か」
「ギルガメッシュを殺してこい」
「任せろ」
「油断するなよ、ガマをやったかもしれない相手だ」
「ふっ、奴は四天王の中でも最弱。真の四天王の強さをお見せしよう」
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