13話目、オーブ

 そういえば、トルース村の隠し通路に持ち切れなかったアイテムが置きっぱなしになっている。せっかく勇者の魔法袋でいくらでもアイテムが持てるのだから、回収しにいこう。






「こんな田舎の村にいったいなんの用だ?」


 トルース村に着いたとき、俺の後をついて歩いていたマールが文句を言う。


「ここは俺が暮らした村だ、貴重なアイテムが置いてあるから持っていこうと思ってな」


 そういって、俺はトルース村の北端にある崖下に向かう。しばらく進み崖下の前にある大きな岩の前にたどり着く。


「こんなところに何があるというんだ?」

「まあ見てろ」


 俺は岩を押す。隠し通路の入り口が現れる。


「な……これは……」

「隠し通路だ、行くぞ」


 隠し通路を進む。奥には二つの大きな宝箱といくつかの棚があり、金貨や貴重なアクセサリー、高価なポーション、それから雑多なアイテムが所せましと置いてある。


「なんだここは!? どこかの貴族の宝物庫か!?」

「俺が数年かけて集めたアイテムたちだ。誰かのということなら、俺の宝物庫ってことになるだろうな」

「これらをすべて自力で集めたというのか!? どうやって!?」

「普通に拾い集めたのさ」


 俺はFQを何周もした。だからどこになんのアイテムがあるのかすべて把握しているし、魔物からどんな貴重な素材が手に入るのかも知っている。数年もあれば、このくらい造作もない。


 俺は棚からオーブをとり、マールに投げる。


「これを使え」

「これは?」

「オーブだ、使うと強くなれる」

「こ、これがオーブなのか!? 偽物ではなく!?」

「使えば偽物かどうか、すぐにわかるだろう」

「使うって、どうやって?」

「胸に押し当てろ」

「うん? なんともないぞ。やはり偽物では?」


 マールが胸にオーブを押し当てるがなにもおこらない。俺はそんなわけないと思い、オーブをマールの胸に当てる。すると、何の抵抗もなくすっと入っていき、そのまま俺の手がマールの胸の膨らみに触れてしまう。おれはとっさに謝ろうとする。


「あ、ごめ______」

「はぅん、っあ」


 突然マールが艶のある声で突然喘ぐ。


 まさか、オーブでも感じてしまうのか!? FQの設定集でも詳しくは書いていなかったが、もしかしたらオーブも魔力を使ってステータスを上昇させているのかもしれない。


「だ、大丈夫か?」

「はぁ……はぁ……はぁ……。大丈夫だ、むしろ力がみなぎる。これが本物のオーブか。す、すごいな」


 すごいとはいったい何に対して言っているのだろうか? 快感はお前の体質だぞ。


 ステータスの上昇に関しては、おそらくマールはレベルが低いからオーブによる恩恵を強く感じるのだろう。もしステータスが100から101になっても上昇率は1%だが、10から11に増えれば上昇率は10%。ステータスが低いほどオーブ1個でステータスが大きく上昇したと感じるはずだ。


「なあ、まだオーブはあるんだろう?」


 マールが棚にあるオーブを見つめながら言った。


「ああ、俊敏のオーブ以外は各ステータス約20個分はある」


 俊敏のオーブは俺自身に使ってしまったから少し減っている。しかしそれ以外の攻撃力、魔攻撃力、防御力、魔防御力のオーブはそれぞれ約20個ほどは集めていた。ちなみにそれ以外のステータスはHPとMPだ。HPとMPにはオーブはない。

 

 俺は棚からオーブを取り出しマールに渡す。マールは再び自分の胸にあてるが、なにも起こらない。彼女はなぜ自分で使えないんだろう?


「やはりだめか……なあ、またオーブを入れてくれないか?」

「ええ? 今日はもうやめておけ。そのうち自分で使えるようになる」

「いや、私は強くなりたい。今入れてくれ」


 そういうと、マールは俺にオーブを渡してくる。そして、オーブを持った俺の手を少し強引に自分の胸に押し当てた。オーブがマールの胸に入り、そのまま俺の手が胸に当たってしまう。思わずおれは手を引っ込めようとするが、マールは俺の手を胸に強く抱きしめる。


「ぅうん、はぅうん、はぁっはぁ、ああ……やっぱりすごい……」


 マールが俺の手を胸に押し付けたまま、恍惚とした表情でつぶやく。手にむにむにとした柔らかい感触が押し付けられている。


「もういいか?」

「はぁはぁはぁ……だめぇ、もっと」

「え?」

「もっと、もっとたくさん入れてぇ」


 彼女は顔を紅潮させ、うるんだ瞳で上目遣いに言う。


 こんな表情じゃなければ入れてもいいんだが、この表情だとなんだかイケナイことをしようとしているみたいで気が引ける。ほ、本当に入れていいのか……?


 悩んでいると、マールが棚からオーブを取り出し、俺に渡してくる。


「ねぇ、入れて? お願い」


 俺は悩んだが、もともとオーブはマールに使うために集めていたことを思い出し、胸に触れないように気を使いゆっくりとオーブを近づける。すると、待ちきれないといわんばかりに、また俺の手をとり強引に自分の胸に押し当てた。


「はうぅん、あぁん、あっ、はぁはぁっ、あっ、なにか、へん、不思議な力が、入ってくる、んっはぁ」

「な、なあ、もういいよな?」

「だめぇ、もっとぉ」

「い、いったい、いくつ入れればいいんだ?」

「ぜんぶぅ、ぜんぶ入れてぇ」

「え、ええー」





 それからマールに一通りオーブを使い、落ち着かせた頃にはすっかり夜になってしまっていた。トルース村には宿屋なんてない。


 サキさんの家にお世話になるしかない、か。

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