12話目、戦闘技術
俺は倒れたマールを宿屋まで運んだ。
マールが目を覚ましたのは翌日になってからだ。その後体調を聞いたが、なんともないらしい。
それにしても、昨日のあれはいったいなんだったのだろう? ゲームでは魔力覚醒の儀を行って、あんな風になったことはなかったが……。
魔力を感じやすい体質? 聞いたことないぞ。しかしとりあえず確認するべきことがある。マールが魔法を使えるようになったのかどうか、だ。
「マール、魔法を使うことはできるか?」
「ああ、いまなら使えそうだ」
マールは天に手を掲げる。そのまましばらく目をつぶり集中すると、稲妻が手から立ち上っていった。よかった、魔法を使えるようにはなったらしい。魔力覚醒の儀は上手くいったということか? ならなんで昨日はあんなことになったんだ? よくわからないな。
わからないことを考えていても仕方ないか。とりあえず、早速使えるようになった魔法を試させよう。
王都周辺は魔物が弱い。魔法を試すには最適だ。レベルが低いであろうマールでも安全に戦える場所だからだ。俺たちは王都から出て、すぐそばにある森を歩く。ここら辺の弱い魔物で魔法を試そう。
魔物を見つけた。白いうさぎのような魔物で、小さな角がある。一角うさぎだ。マールが魔法の準備に入る。目を瞑り集中する。そこへ、一角うさぎがとびかかった。マールは押し倒され、俺はマールに当たった一角うさぎを切りつける。
「いたた」
「魔物の前で棒立ちの奴がいるか! ちゃんとよけろ」
「そんなこと言ったって、魔法は時間がかかるんだ! どうしろっていうんだ?」
「はあ、見本を見せてやる」
俺は武器をしまう。いくらムラトが最弱キャラとはいえ、さすがに武器を使ったら見本も何もない。レベルが高いので一撃で倒してしまう。
次の一角うさぎが現れる。俺は素手で構えた。飛び掛かってくるが、俺は動じず、よけて殴り掛かる。
武技の一つ、カウンターだ。
さらに、殴り飛ばされた一角うさぎに氷のかたまりを飛ばす。氷が刺さり、魔物は動かなくなる。
「こうやるんだよ」
「す、すごい……」
「基本だろう、こんなもの」
FQでは、武技と魔法は独立した技だ。魔法を使っている最中に別の魔法を、とか、武技を使っている間に別の武技を、とかはできないが、武技を使ってる最中に魔法の準備や発動はできるし、魔法の準備をしながら武技を使うこともできる。
これを利用して魔法によって生じる隙を武技で、武技によって生じる隙を魔法で補う。FQでの基礎的なプレイングだ。まあプレイヤーが操作するキャラ以外は、こういうことをやってはくれないんだが。
もっとも、ムラトは魔法が使えないから道具で再現するしかないんだが。
ちなみに魔武技はこういうことができない。魔法と武技の両方を同時に使うようなものだからだ。隙をカバーするには、仲間と連携するしかない。その分威力が高く強力だ。
マールの練習のため、次の一角うさぎを探すとすぐに見つかった。俺は少し下がって観戦する。
今度はいきなり棒立ちになるようなことはなかった。一角うさぎに切りかかる。当たらず避けられ、体当たりを食らう。その後、攻撃を外したり当てたり、よけたりよけられなかったりを繰り返しながら剣で切り倒した。っておい!
「おい! 魔法はどうした!?」
「だ、だって戦いながら魔法は使えないよ……」
「……」
下手くそめ……。
FQを始めたばかりの初心者だってもう少し上手いぞ。というか、一角うさぎごときの攻撃に当たるなよな。あと攻撃外すな。この勇者大丈夫か……?
とりあえず勇者が怪我をしたので回復することにした。ビキニアーマーは優れた防具なのでかすり傷程度しかダメージを受けてなさそうだが、常に万全の状態を整えておく。これもFQの常識だ。
かすり傷程度に回復アイテムを使うのはもったいないので、俺は装備している指輪を青い指輪から白い指輪に切り替える。初歩的な、回復魔法が使えるようになるものだ。
「回復魔法を使うから少し触るぞ」
「ん? ああ頼む」
俺はわき腹にかすり傷を見つけたので、そこに手を当て、回復魔法を使う。
「ぅん、はぁ」
「まさか……。おい、どうした?」
「なんか変な感じ、んぅうはぅん」
マールが顔を真っ赤にしながら喘ぐ。汗をかいているのか、わき腹に触れた手がわずかな湿り気を感じ始める。
おいまさか、回復魔法でもこうなってしまうのか!?
その後、王都に帰って魔法使いのエロじじいに話したところ、やはりマールは魔力で感じやすい体質ではないかということだった。その体質だと回復魔法や補助魔法でも感じまくってしまうらしい。対策は、何度も魔力を感じて快感になれるしかないとか。
今はまだ回復魔法や補助魔法を使う仲間がいないからいいが、今後仲間になったらマールの今の状態では非常に問題がある。回復役抜きのパーティーはあり得ないし、早く克服させねば。
戦闘も下手だし、回復や補助魔法を受け付けない体質とか、ほんとにこの勇者で魔王倒せるか? なんだか不安になってきた……。
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