11話目、魔法
FQには主に4種類の技がある。武技と魔法と魔武技、それから聖魔法だ。武技は魔力を使わない体を使った技で、魔法は魔力を使う技、そして両方を使うのが魔武技。聖魔法は回復や補助を重視した技だ。
技は基本的にはレベルアップによって自分で編み出すが、それ以外にも技を覚える方法がある。イベントをこなし、人から教わる。あるいは魔導書を手に入れて使用する。これによって覚えることができる。
ただ、魔法を覚えるには例外もあるが、基本的に最初に魔力覚醒イベントをこなさなければならない。
俺は最弱キャラなので、魔法などという高尚な技は一切覚えられない。なのでやらずにいたが、勇者は違う。勇者の魔法は強力無比な技が目白押しだ。魔法は絶対に必要だ。なので勇者の魔力覚醒イベントをこなす為に、王都にいる魔法使いのエロじじいに会いに行こう。
その店は王都の端にあった。入り組んだ路地を歩いた先に、小さな家がある。一見するとただの民家だが、俺は知っている。あれが魔法使いの店だ。本来なら街の住人達から話を聞いて、情報を集めてやっとたどり着くところだが、俺は場所を知っているので、いちいちそんな面倒なことはしない。まっすぐたどり着く。
店の中には古めかしい本や謎の液体の入った瓶、何らかの粉末などが乱雑に置かれていて、その奥で小柄なじいさんが背中を丸めて本を読んでいる。
「こんな時間に誰じゃ? もう店は閉めているぞ」
「魔力覚醒の儀を頼みたい」
「魔力覚醒の儀じゃと……? 誰に聞いた?」
そういうと、読んでいた本から目を離し、こちらに振り返る。
「怪しい男め、お前なんぞに誰がやってやるか。それに、おぬしはやっても無駄じゃ」
なんだか俺はいつも初対面の人に警戒されがちだな。それにしても、一目見ただけで俺に魔法の才能がないことを見抜くとは。さすが大魔導士。
「俺じゃない、こいつを頼む」
俺は後からついてきているマールを差す。じいさんはその時初めて後ろにいるマールに気が付いたらしい。マールの顔を見るや、にやりといやらしい笑みを浮かべる。
「ほほう……ほうほう……」
「おいムラト、このじいさんすごく目つきがいやらしい。ほ、本当に頼むのか……?」
「腕はいいから信じろ」
じじいはマールの周りをうろうろしながらじろじろ眺める。マールが美しい少女だから気に入ったのだろう。
「できるか?」
「ダメじゃ、できん」
「何故だ?」
「やってやりたいが、必要な薬が切れておってな」
「何が必要だ? あればやってくれるんだな?」
「月のしずくじゃ、あればやってやるが、手に入れるのはむずかしいぞ」
やはり月のしずくが必要か。FQで本来訪れるタイミングよりも早く来たから、薬がまだ切れてない可能性もあるのではないかと思っていたのだが。
月のしずくを手に入れるには、お使いクエストをこなす必要がある。
街で話を聞いて情報を集め、誰々が持っているという話を聞く。誰々はどこどこにいると話を聞いて、会いに行くといなくて、どこどこへ行ったと話を聞き、やっと会えたと思ったらそいつも持ってなくて、どこどこで採れるという話を聞く。そうやってあっちこっち歩き回ってようやく手に入るというわけだ。
このお使いクエスト、RPGだとよくあることなのだが、無駄にあっちこっちにたらいまわしにされて非常に無駄が多い。が、しかし俺はもう最終的にどこで手に入れるか知っている。この魔力覚醒イベントで必要になることも知っていた。いつもたらいまわしにされて面倒だったので、すでに持ってきている。
俺はじじいに月のしずくを渡す。
「これでやってくれるな?」
「なんじゃと!? 月のしずくがすでにあるじゃと!? ……しかしこれで薬が調合できるわ」
じじいは月のしずくを手に取り、店にある様々な液体や粉を手に店の奥へ進む、しかし足が止まる。
「しまった、星の花も切れておったか。これでは無理じゃな」
「……」
俺は初めてFQをやった時、さすがにこれにはイラっとした。あれほど苦労して月のしずくを採ってきたのに、まだ他に必要なものがあるのか、と。しかし俺はもう何周もしたのだ。とっくになにも感じない。無言ですっと星の花を差し出す。
「おお、星の花も持っておったか。おぬし何者じゃ?」
「ただの村人さ、魔法の才能もない、な」
じじいはやや怪訝な表情を浮かべたが、星の花を受け取ると、店の奥で薬の調合を始めた。これでようやく魔力覚醒できる。
しばらく待つと、じじいが出てきた。手には薬を持っている。
「これを飲みなさい」
「これは?」
「魔力感応薬じゃ、飲むと魔力を感じやすくなる。これを飲んだ状態で魔力を感じることで、魔法を使えるようになることもある。それが魔力覚醒の儀じゃ」
「本当に魔法を? いままでいくら練習しても覚えられなかったのに」
「さてな、魔法は本来、修練の果てに身に着けるものじゃ。魔力覚醒の儀はその過程を一部すっ飛ばす。わかってないことも多く、危険かもしれん。本当にやるかどうかは自分で決めるのじゃ」
「やる、やるよ。私は強くなりたいんだ」
「そうか」
マールは薬を飲んだ。じじいはしばらくそれを見ていたが、そのあといやらしい笑みを浮かべてマールの胸に手を伸ばす。俺は慌てて手をつかむ。
「おい! キサマ、今何をしようとしていた?」
「ま、魔力を流そうと思ったのじゃ。魔力覚醒の儀の為じゃ」
「本当だろうな? 嘘だったらキサマのこの手を切り落とすが?」
「ま、魔力は触れずに流しても良いんじゃったかな? と、歳のせいでやり方をわ、忘れておったの」
じじいは挙動不審になりながらも手を引っ込める。全く、油断も隙もない。そのあとじじいは目をつぶり集中し始める。今度こそ本当に魔力覚醒の儀をしてくれるようだ。すると、マールが体をくねれせ始める。
「く、はぁ、あっ……っ!」
「おいどうした?」
「なんか、へんな感じがして……あっ、はぁあんっ、う」
マールが妙に艶のある声で喘ぎ始める。
「おいじじい、まさか、なにかエロい魔法でも使ってるんじゃないだろうな!?」
「し、しらん、そんな魔法はないわ! あったらとっくに研究しておる。残念ながらどこにもそんな魔法はなかったわ」
「はあぁ、あ、うんっ……っ」
「じゃあこれはなんだ!?」
「わ、わからん。おそらく、この娘が魔力を感じやすすぎるとしか考えられん」
マールは地べたに座り込む。額に汗をかき、赤くなった顔に髪が張り付く。
「はあああああああぁぁぁぁぁんっ」
マールは一段と高い声で喘ぐと、気を失って地面に倒れこんだ。
王城、玉座の間
「なに? 聖剣を抜いたものが現れたじゃと?」
「は、はい、その者が王に謁見に来ております」
「本物か?」
「おそらくは……何人もの方が抜いたところを見たそうですので」
すると、玉座の間へ派手な鎧を着た赤い髪の男が現れる
「勇者であるこの我を、いつまで待たせる気だ!」
城の兵士が止めようとするが、押しのけてずんずん入ってくる。王が尋ねる
「おぬし、名前は何という?」
「勇者ギルガメッシュだ、覚えておけ」
「聖剣を抜いたというのか?」
「ああ、毎朝毎朝、朝一番に美術館に通い、ようやく今日聖剣に認められたのだ。我こそ勇者だ、この剣を見よ」
ギルガメッシュは剣を掲げる
「あの……出身地はどちらで?」
「……天だ。勇者である我は、天からこの地上に舞い降りたのだ」
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