10話目、聖剣

 本来のFQでは、勇者は復讐のために仇であるガマという魔物を探しに旅に出る。その過程で魔王の事を知り、魔王討伐を目指すことになる。


 だが、村は救われた。ガマは倒されたのだ、もう旅に出る必要はない。しかし、勇者マールは強くなるために、俺と一緒に旅をするつもりらしい。


 ありがたい。このままルディーナ村でのんびり暮らすと言われたらどうしようかと思った。


 ある程度自由に旅をするには強さが必要だ。とりあえずマールの防具は整えたので、次は武器を用意しようと思う。聖剣を抜きに行こう。


 聖剣はルディーナ村からほど近い場所にある王都、アルディアにある。人の多い王都でビキニアーマーだとかわいそうなので、マールには上から黒いローブを着せている。ローブの下がほとんど裸みたいな姿だと思うと、それはそれでめっちゃエロい気もするが、他の人は知る由もないのでたぶん平気だろう。


 とりあえず今後は人のいる場所ではローブを羽織ってもらい、戦闘中は脱いで戦ってもらうことにしようと思う。


 王都に入ると、マールが周りをきょろきょろと見まわしながら言った。


「ここが王都か、にぎやかな場所だ。ところで王都ではなにをするんだ?」

「いくつかやってもらいたいことがあるが……まずは聖剣を抜きに行こう」

「聖剣を抜く? 観光か何か?」


 ああそうか、マールはまだ自分が勇者だと知らないのか。


 聖剣は王都アルディアの観光スポットだ。かつての勇者が大岩に刺したものだとされ、抜いたものは勇者になれると言われている。多くの観光客が抜きにやってきているが、もう100年以上誰も抜けてはいない。今では抜けば国から賞金まででるという。


 まさかそれを、自分が抜けるとは思ってもいないのだろう。


 俺は道を歩いている途中、露店で聖剣そっくりの偽物がお土産として売っていたのでそれを買う。それを見ていたマールがあきれたように言う。


「聖剣の偽物なんて買ってどうする? 本当に観光じゃないんだろうな?」

「これが偽物だとなぜ思う?」

「え?」

「本物かもしれないだろう? 見分けるポイントは?」

「そりゃ、こんな露店で本物が売っているわけがないからだ」

「物を見ただけじゃ、どこで買ったかなんてわからないだろう?」

「それはそうだが……」


 俺が買ったのは、聖剣エクスカリバー・イミテーションだ。攻撃力1の超弱い剣だ。FQでは勇者が聖剣を抜いてしばらくすると、こいつを使って偽勇者が現れるイベントがあったりする。偽勇者ギルガメッシュ、攻撃力1の剣を使ってくるくせにめっちゃ強いんだよな……。


 しばらく王都アルディアを歩いていると、大きな建物にたどり着く。目的地の美術館だ。国は聖剣のある場所に美術館を建て、入場料を取って儲けているのだ。


 もう閉館直前のためか、人はほとんどいない。入場料を払い中に入る。


 中には様々な絵や古そうな剣や鎧、美術品などがケースに厳重に入れられて飾られている。おそらく盗まれないようにするためだろう。目的のものは二階にあるので上に上がる。


 すると、すぐに剣が見つかる。大きな岩が一階から二階まで突き抜けており、そこに突き刺さった剣がある。あれが聖剣だろう。他の美術品が厳重にケースに入っているのに対し、聖剣はあまりにも無防備だった。盗めるもんなら盗んでみろと言わんばかりだ。よほど誰にも盗まれない自信があるのだろう。実際、勇者にしか抜けないしな。


 男児たるもの、誰しも聖剣にはあこがれがあるだろう。もちろん俺もだ。どうせ抜けないとわかってはいるが、俺は早速聖剣に手をかける。ゆっくりと持ち上げてみるがびくともしない。こんどは思いっきり引っ張ってみる。手が震えるほど力を入れるがやはり抜けない。わかっていたが、やはり俺は勇者ではない……か。


「マール、お前も抜いてみろ」

「はあ? こんなの抜けるわけないだろ、勇者じゃないんだから……」


 そういいつつも、興味はあったのだろう。聖剣に近づき、片手で軽く引っ張る。すっと、なんの抵抗もないかのように抜ける。


「ほら、抜けるわけが……はああ!!!?」

「大きな声をだすな!」


 俺は慌ててマールの口を押える。


「だ、だって聖剣が……」

「おちつけ、それは偽物なんだ」

「偽物……?」

「ああ、本物が抜けるわけない、そうだろう?」

「そうか、偽物か。それはそうか」


 俺は聖剣が偽物だということにして、勇者を落ち着かせる。その隙に、手元にあるエクスカリバー・イミテーションを鞘から抜き、そっと聖剣が刺さっていた場所に戻す。そして、偽物の鞘に本物を入れる。


「さあ、偽物をもって帰るぞ。魔法袋にその偽物をしまえ」

「持ち帰る? え? だってそこから抜いた剣を持ち帰ったら窃盗じゃ……?」

「なにを言ってるんだ? それはさっき露店で買った偽物だぞ」

「あれ……? いや、そうか。本物が抜けるわけないし、鞘に入ってるもんな」


 首をかしげながらも、納得したのか剣を魔法袋にしまった。魔法袋は小さい見た目でありながら無限の収納力を持っている。これで聖剣を持っているようには絶対に誰にも見えないだろう。完全犯罪成功だ。




 俺はガマを倒してしまった。なので本来のFQとは全く違うストーリーになるだろう。もう先のことは分からないのだ。だったら好きにやってやる。


 本来のストーリーなら堂々と聖剣を抜き、勇者として王から援助を受ける。だが、援助なんて微々たるものだ。安い宿に一晩泊まるのが精いっぱいのお金と、その辺の兵士よりも弱い装備しかくれない。俺はそれをゲームの序盤だからこんなものかと初回は思ったものだが、実は違う。


 大臣だ。


 大臣は実は魔物だ、魔物が化けているのだ。そして、勇者を影から妨害してくる。その一環として、勇者への援助を思いっきり減らしてくる。そのほか次々と妨害をかけてくる。


 大臣に勇者が誰かばれると面倒だ。なので俺は聖剣を盗むことにした。聖剣を抜いてしまったら、だれが勇者か分かってしまうからな。


 本当ならさっさと大臣を倒しに行きたいが、それをやるとただの殺人者として捕まってしまう。大臣を倒すには魔物であることを暴けるアイテム、真実の鏡を手に入れなければならない。真実の鏡が手に入るまでは、とりあえず誰が勇者なのかを隠して攻略していこうと思う。


 それによって、物語にどんな影響が出るかは分からないが……。


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