9話目、ビキニアーマー
俺の戦いぶりを見たルディーナ村の人々は、村を救った英雄として歓待してくれた。そして同じく戦いぶりを見ていた勇者、マールもついに言った。
「頼む……私を強くしてくれ。私が弱いせいで、大切なものを目の前で失いたくはないんだ」
父親を目の前で殺されかけたのが、よほど堪えたらしい。強くなりたいという気持ちが強くなり、俺の強さを学びたいようだ。
「俺の言うことを何でも聞くのならば、この世界で最強にしてやる」
「……わかった、なんでも聞こう」
ようし、言ったな? これで扱いに困っていたアレをなんとかすることができるぞ。
「おい、私がこれを着たら、本当に強くしてくれるんだろうな?」
「ああ、なんでも聞くんだろう? 強くなりたくないのか?」
「変態め、これで強くなれなかったらぶん殴ってやる」
マールはそう言ってビキニアーマーを持って部屋を出た。着替えに行くのだろう。
なぜわざわざビキニアーマーを俺は持ち歩いていたのかというと、トルース村に置いておくのがなんとなく怖かったからだ。
まるで、エッチな本を部屋に隠したまま学校に行かなければならないかのような恐怖が襲ってきたのだ。家にいない間に母親に部屋を掃除されたらどうしよう、みたいな。サキさんには隠し通路の事はばれてないとは思うんだが、不安でな。
それで、思わずリュックに入れて持ってきてしまったのだが、勇者が女性だったのでいきなり役に立ちそうだ。問題はどうやって着てもらうように頼むかだったが、なんでも言うことを聞くというのでごり押しだ。強くなりたきゃ着ろの一点張りで無理やり説得したのだ。たぶん俺の趣味だと勘違いされてるだろう。
しばらく待つと、恥ずかし気にマールが扉から顔をのぞかせる。そして、恐る恐る部屋へ入ってくる。扉を閉めると、両手で懸命に体を隠す。ビキニアーマーの部分が手で隠れて、全裸に見えるから逆にエロい。
美しい足、引き締まった腹筋、手やビキニアーマーでは隠しきれない胸の膨らみ。それらが丸見えだ。
「……着たぞ、これで本当に強くしてくれるんだろうな?」
「それを着るのは不満か?」
「当たり前だ!」
「そうか……くらえ」
「っ!」
俺は青い指輪から氷の玉を撃ちだす。マールはとっさに手を出して受けようとする。手に当たり、氷の玉が弾ける。
「いきなりなにをする!」
「悪いな、だがなんともないだろう? それは優れた防具なのだ。冷気と炎を防ぎ、高い防御力がある。それより優れた防具があるなら着替えてもいい」
「な……」
「まさか、命を預ける大事な防具を見た目で選んだりはしないだろうな? 俺はお前が強くなりたいというからその防具をくれてやるのだ。強くなるためには優れた防具が必要だ、違うか?」
「クソ! なんでこんな装備が強いんだ! おかしいだろ」
「知らん、文句は作った奴にいえ」
「すぐにこれより優れた防具を手に入れて脱いでやるからな!」
「そうか」
ビキニアーマーは人によってはゲームクリアまで使うような防具なので、それより優れた防具などそうそう手に入らない。優れた防具の基準は人それぞれだ。防御力という意味ではビキニアーマーよりも強い防具はいくつかあるが、そういうのは効果が微妙だったりする。
効果の良し悪しはプレイヤーによって判断基準が異なるが、冷気と炎を防ぐ効果は相当優れた効果だ。たぶん当分先まで防具はビキニアーマーのままじゃないかな。
「これも装備しておけ」
「これはなんの意味があるんだ?」
「秘密だ、だが肌身離さず常につけておけよ」
俺は命の指輪をマールに渡した。俺が装備しておくより、今は低レベルで、何らかの事故で死んでしまう可能性の高い勇者が装備しておいた方がいい。効果を秘密にした理由は無謀な行動を避けるためだ。一撃なら大丈夫だと思えば無茶な行動をしそうだからな。
とある王都の大臣室
コンコンコンとノックする音が響く
「入れ」
「失礼します、報告に参りました」
「ルディーナ村は滅ぼしたんだろうな?」
「それが……ガマがやられました」
「なんだと! 奴は四天王の一人、それがやられたというのか!?」
「はい」
「相手はどんな奴だ?」
「全身黒い服を着た男で、雷を操っていたそうです」
「雷だと……!? それが勇者だ、なんとしても探し出して殺せ」
「はっ」
兵士が部屋から出ていく。
「くそ、勇者め。聖剣がなくてもすでにそれほど強いというのか」
大臣は忌々しそうにつぶやいた。
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