7話目、始まり
FQでは主人公の性別を選べたことを、俺は勇者の姿を見て思い出した。勝手に勇者は男性だと思っていたが、女性か。
俺はFQを何度もクリアしたので、当然主人公に女性を選んだこともあるのだが、どうもしっくりこなかった。プレイヤーの分身たる主人公の性別が違うと、どうも感情移入ができないのだ。それで、いつも主人公を男性にしていた。そのせいか、すっかり勇者のことを男性だと考えていたのだが……。
勇者が最初にいる村、ルディーナ村についたとき、俺は最初に勇者について情報を集めることにした。もし勇者の人柄に問題がある場合、勇者の力を借りずに魔王を倒す方法か、無力化する方法を考えなくてはいけない。もし人柄に問題がある場合、力をつけさせるのは危険だと考えたからだ。
勇者は最強だ。すべてのステータスが高水準であり、専用の最強の剣を使うことができる。そんな人物が勝手気ままにふるまったらどうなるか。欲望のままに暴れまわる勇者を、人は誰も止めることができない。
ま、そんな可能性は低いとは思っていたが。
ただ、魔王を倒す気がなくて、好き勝手しようと考えているような人物が、俺と同じように転生してきていたら。その可能性が浮かんだ。だから念のため情報を集めることにしたのだ。
そこで、ちょうど道を歩いていた美しいブロンド色の髪の妙齢(若い女性の事)の女性に話しかけたところ、最初はいきなり話しかけた俺の事を警戒していたが、すぐに打ち解け、聞いてもいないのになんでも教えてくれた。
異様に話好きだったらしい。丸一日話を聞かされた。
のちに分かったのだが、この女性、なんと勇者の母親だったらしい。とてもそんな歳には見えなかったので驚いた。FQは主要キャラ以外はグラフィックが用意されてなかったからな、見た目ではわからなかった。それに……この村の住人は、勇者以外はゲーム開始直後に亡くなってしまうからな……。
その勇者の母親によると、勇者の名前はマール。性格は誰に似たのか正義感が強くまじめで、家事は苦手。親のひいき目抜きに美しい少女であること、何やら悩んでいる事、近々村を出ようと思っている事が分かった。
ちなみに娘の事をやたら聞いたせいか、めちゃめちゃ娘とお見合いするよう迫られた。
俺は真面目で正義感の強そうな勇者を知り、これならきっと魔王を一緒に倒せるだろうなと思った。なので力をつけさせようとしたのだが、何故か勇者は少しも話を聞いてくれない。
そして……勇者の説得に時間がかかっているうちに、物語が始まってしまった。
FQの物語の始まりはこうだ。
まず、オープニングムービーで凍てついた死の世界が流れる。そして、その映像を水晶を通して見ていた妖艶な美しい占い師。世界の滅亡の未来を見た占い師は慌てて国王に報告する。
「まもなく世界は滅びます。ですが不安に思うことはありません。世界を救う勇者が現れます」
「なんと! して、その勇者はどこにおるのじゃ?」
「ルディーナ村です」
「わかった。 誰かおらぬかー!? すぐにルディーナ村へ兵をだせ!」
「はっ!」
そしてゲームが始まる。
そのころルディーナ村に住む勇者は、父親に村から出たいと言い出す。すると、村の外には危険な魔物がたくさんいるからと、魔物との戦い方を父親が教えてくれる。チュートリアルだ。
そして、チュートリアルの最後に突如、強力で危険な魔物が現れる。
その魔物との戦いは負けイベントだ。父親が殺され、勇者もまた敗れる。勇者はなんとか一命をとりとめるものの、ルディーナ村は滅ぼされてしまう。
魔物への復讐を果たすため、勇者は旅立つ。
……これがFQの始まりだ。
もちろん俺は、村が滅ぶのを黙って見ていられるほどの冷血漢ではない。最初からルディーナ村を助けるつもりではいた。だが、早すぎる。俺はまだ物語が始まるのはもう1、2年先だと思っていた。油断した。早く勇者とその父親を助けに行かなければ。
勇者の母親から、父と娘が魔物を狩りに行ったと聞き、俺はすぐにチュートリアルの事が思い浮かんだ。急いで追いかける。
頼む、違っていてくれ……。
娘と父が二人で魔物を狩ることなど、ストーリーと関係なく行っていても不思議はないはずだ。それに、物語が始まるにはまだ早いはず。そう自分に言い聞かせるが、不安は消えない。
カンストした俊敏を生かし、風のように駆け抜ける。すると、遠くに魔物の群れが見える。あそこだ!
急いで駆けつけると、そこには泣き崩れる勇者と、地に伏せるその父親がいた。
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