6話目、旅立ち

「サキさん、俺、必ず帰ってきます!」

「そう……出て行ってしまうのね」

「はい、どうしてもやらなければならないことがあるので。でも必ず帰ってきます、待っててください!」


 そう言って、俺はサキさんの家を出た。ずっとトルース村にいたのではアイテム集めもレベル上げも限界がある。それに勇者がどんな人物なのかも確認しておきたい。心苦しいが出なくては。


 もちろんサキさんと一緒に魔王を倒しに行くというのも考えたが、彼女を危険な目に合わせたくない。それに、サキさんは強力なキャラではあるが、ちょっと使いにくいキャラなのだ。基本的には技を使うことができず、武器も装備できない。素手でひたすら通常攻撃を繰り返すバーサーカーのようなキャラだ。


 そのかわり、攻撃力と俊敏がめちゃめちゃ高い。武器を装備できないが、武器を持った他のキャラと同等以上の攻撃力を発揮できる。覚醒イベントをこなせば一時的に技が使えるようになるし、技が使える状態のサキさんは間違いなく最強クラスの強さだ。


 ただやっぱり、安全に魔王を倒すならもっと安定感のあるキャラの方がいいだろうな。パーティメンバーが4人までという制限がなければもちろん連れて行くんだが……。


 というか、なんで4人までなんだろう? ゲームならそういうもんかと思うところだが、この世界でもなにか理由があるのだろうか? 4人じゃなくてもいいなら、魔王を20人で囲んでぼこぼこにするのもありだったりするのか?


 そこまで考えたが、よく考えたら途中で手に入る乗り物にそんなに何人も乗れそうにないことに気が付いた。空飛ぶ絨毯とか、4人ぐらいしか乗れそうにない。やはり4人で戦うしかないか。


 トルース村を出る前に、隠し通路に寄る。装備を整えるためだ。武器の短刀を腰に差し、防具として宵闇の服を着る。


 宵闇の服は、魔物に発見される確率が下がり攻撃を回避する確率が上がる漆黒の優れた防具だ。着ると黒いもやがかかり体の輪郭がぼやける。仕組みはよくわからない。俺はこの宵闇の服に改造を施した。


 俺は宵闇の服に、黒い布地を当てて大量にポケットを付けた。回復アイテムを入れる為だ。


 俺は最初、リュックに回復アイテムを入れて持ち歩いていたのだが、それだといざという時にすぐに回復アイテムが使えない。攻撃を食らう度にいちいちリュックを下ろして回復アイテムを取り出していたら、その間に殺されてしまう。そこで、服に大量にポケットを付けてすぐに取り出せるようにしたのだ。


 ゲームだとコマンド1つで回復アイテムを使っていたが、どうやって使っていたんだろう?


 普通の黒い布地でポケットをつけまくったから、よく見るとポケットだらけのおかしな服に見える。もやがかかる宵闇の服だから、ぎりぎりそんなに不自然ではないか……? とにかく宵闇の服に大量の回復アイテムを補充する。


 あとは非常食や水など、生活に必要なものをリュックに詰める。本当はもっとたくさん持っていきたいものがあるが、持てる量には限りがある。


 勇者が持っている、アイテムを無限に入れられる魔法の袋がめっちゃほしい。


 さて、準備は整った。勇者に会いに行くぞ。






 女の子なんだから、無理に強くなる必要はない。何度もそう言われた。だが、私には予感があった。私が弱いせいで大切なものを失う、そんな予感が。


 嫌な予感を振り払うように一心不乱に剣を振るう。日が落ちて薄暗くなり、村の喧騒が消え、私の振るう剣が風を切る音だけがあたりに響く。


「何故剣を振るう? なぜ強くなりたい?」

「誰だ!?」


 突然後ろから声が聞こえた。声の方を向くと、怪しい男が立っていた。短刀を腰に下げ、全身黒い服を着ている。不思議なことに、黒いもやのようなものが漂い、どんなによく目を凝らしても男の輪郭がよく見えない。この村では一度も見たことがない、怪しい男だ。


「何故剣を振るう? なぜ強くなりたい?」

「大切なものを守るためだ!」


 再び怪しい男が問いかけてきたとき、思っていたことが口から飛び出してしまった。すると、男は不気味な笑みを浮かべた気がした。


「ならば、俺が大切なものを守るための力をつけさせてやる」

「いや結構、私は自分の力で強くなる」

「え!?」


 怪しい男がくれる力など、絶対にやばいものに違いない。その後男はしつこく何度も私の前に現れたが、私はすべて断った。

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