4話目、レベル上げ
レベルは高ければ高いほど良い。RPGの常識だ。
アイテム集めに限界を感じ始めた俺は、レベル上げに着手することにした。幸いにして、近くにレベル上げに最適な場所があるから行ってみよう。
トルース村の東にファングボアという魔物が出る森がある。ファングボアは鋭い牙を持った猪のような魔物で、攻撃力と俊敏が高く適正レベルでもHP(生命力)の大半を一撃で持っていく魔物だ。
ゲームに慣れていない初心者はこの魔物に苦戦することもあるそうだが、俺のようなFQ廃人は違う。ファングボアは特殊な攻撃を一切してこない。攻撃方法は突進のみだ。そのため、ある程度のテクニックさえあればノーダメージで倒すことができる。
森の中をしばらく進むと、ようやくファングボアを見つけた。お、大きいな……。
四足歩行でありながら、俺の身長と同じくらいの高さがある。この魔物と今から戦うと思うと、恐怖が湧き上がってくる。思わず逃げたくなる。
やはりゲームと現実では全然違う。こんなに大きくて恐怖を感じる魔物だとは思っていなかった。しかし、この世界で生きる以上は魔物を倒す経験は絶対に必要だ。ここで逃げたら、あとで絶対に魔物を倒さなきゃいけない場面が来た時、上手く戦うことはできないだろう。
大きく静かに深呼吸したあと、ゆっくりと後ろから近づく。しかしそこで、ファングボアが不意に振り返る。
しまった! 見つかった!
先制で先に一撃を当てたかったが、それは出来なくなってしまった。ものすごい勢いで突進してくる。迫りくる鋭い牙の生えた大きな顔に、思わず逃げ出したくなる気持ちをなんとか抑え込みその場に留まる。
大切なのはタイミングだ。早めによけても追跡されるだけだし、遅ければぶつかってしまう。特に恐怖で早めに避けてしまわないように注意しなければ。
ファングボアは俊敏が高ければ高いほど簡単にノーダメージで倒せる。俺は俊敏をカンスト(上限)するまでオーブを使った。ゲームだったなら楽勝なはずだ。
すぐにでも避けてしまいたくなる気持ちを抑えながら、当たる寸前までファングボアを引き付ける。
ここだ!
もう接触するのではないかと思うほどギリギリのタイミングで、避けると同時に短刀で首のあたりを切り裂く。浅い、血がわずかに噴き出したが、大したダメージは与えられていないだろう。
回避に全力を出したため勢い余って地面を転がる。素早く起き上がると、再び旋回したファングボアがこちらに狙いをつけている。休む間もなく再び突進をしてくるだろう。
こうやって突進の度に避けて切りつければノーダメージで倒せるわけだが、想像よりもしんどい。俺はレベルが低いうえにステータスの低い最弱キャラなので、かなり時間がかかりそうだ。
本当は回避→攻撃ではなく、攻撃→回避→攻撃の方がいい。突進が当たる寸前に攻撃しても回避が間に合うはずなのだ。タイミングはよりシビアになるが。
ゲームならしょっちゅうやっていたんだが、やはり現実では難しいか。安全に倒した方がいいだろうし。回避前に攻撃できれば一度の突進で2回攻撃でき、倍の速さで倒せるんだが。
そのあともひたすら突進を避けては切り続けた。結局ファングボアを狩るのに丸一日かかった。つ、疲れた……。
しかしそのおかげで、高レベルの魔物を倒したことによりレベルが一気に上がったはずだ。残念ながらレベルがどのくらい上がったのか確認するすべは無いが。
それから俺は毎日東の森へ通い、ファングボアを倒し続けた。
はじめは一日に一匹が限界だったが、それが数日後には二匹狩れるようになり、三匹、四匹と増えていき、三年後にはついに一撃で狩れるようになった。
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