2話目、同居
FQは勇者が魔王を倒す王道のRPGだ。
総勢20名にも及ぶ個性豊かなキャラクターの中から、好きなキャラクターを自由に仲間に出来る。その仲間に出来るキャラクターの中で誰もが認める最弱キャラが今の俺、村人のムラトだ。
なぜ俺はムラトになってしまったのか? この世界はいったいなんなのか? 気になることは多いが、FQに似たこの世界に来たからにはやるべきことが一つある。
魔王を倒す。
別にFQに似たこの世界で、ゲームのように魔王討伐を楽しもうってわけじゃない。ちゃんと理由がある。魔王は放っておくと世界が滅びてしまうのだ。魔王討伐なんて勇者に任せればいいという考えもあるが、勇者がどんな人物かわからない。
FQはRPGの中ではそれなりに難易度が高めのゲームだった。もちろん装備を整えてレベルを上げればクリア自体はできるとは思うが、この世界の勇者がそれをちゃんとやるかどうかは不明だ。
それにこれは現実だ。少なくとも俺はここが現実だと感じる。
画面越しに見ていた世界とは明らかに違う。のどかな景色、草木のにおい、風の感触、五感のすべてがここが現実だと突き付けてくる。
ゲームならリセットボタンを押せば済むかもしれないが、ここでの勇者の失敗は世界の滅亡を意味する。世界が滅亡すれば俺も死ぬだろう。そんな大事なことをよく知らない人間に丸投げする気にはなれない。勇者なら死んでも復活するだろうなんて楽観視して、それで世界が滅びたらたまったもんじゃない。
俺は魔王を全力で倒す。
最強の装備と最強のパーティーを用意し、万全の状態で安全に倒す。
正直そこまでしなくても魔王に勝つことは難しくはないが、ここが俺の知っているFQの世界と全く同じとも限らない、安全策でいく。
ただ魔王を倒すには、勇者が絶対に必要という設定があったのが気がかりではあるが……。
寝て目覚めたら元の世界に戻っているのではないかと思ったが、そんなこともなくこの世界に来てから3日が過ぎた。
ここでの生活もわかってきたし、考えもまとまった。行動を起こす時だ。
「サキさん、助けていただいただけでなく、今日までお世話していただきありがとうございました」
「いいのいいの、気にしないで」
「あとでお礼をさせていただきますね、ではまた……」
ずいぶんお世話になったし、また後でお礼にこよう。サキさんが喜びそうな装備品とか、お金になるようなアイテムを後で用意しておこう。そう思いながら家を出ようとする。
「ちょ、ちょっとまって!!」
「はい?」
「出ていくの? なんで?」
「えっと、いつまでもお世話になっているわけにはいきませんし」
「行く当てはあるの?」
「ないですけど」
「ダメ!!」
サキさんが突然前から抱きしめてきた。身長差でちょうど顔が胸に埋まる。うわめっちゃ柔らけえ。
サキさんとムラトの年齢差はFQの設定集によれば4歳差だ。ムラトがまだ二次成長期が来てないからの身長差だろう。今ほどムラトに転生してよかったと思った瞬間はない。
「行く当てもないのに出て行っちゃダメよ、死んじゃうよ」
「いや、なんとかなるかなあと」
「ならない! もう! 遠慮なんてしないでずっと一緒に暮らそう、ね?」
うーん抗いがたい。
お金を稼ぐ知識もあるし、魔物を避けるテクニックも知ってるから一人でもなんとかなるんだけどな。
まあ今の俺は10歳~11歳くらいに見える。FQのムラトはたしか15歳だったから、ゲーム開始時期まで4~5年はあるから焦ることもないか。
「えっと、しばらくお世話になります」
「うん、よしよし」
サキさんは嬉しそうに言うと、俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
そういやゲームのムラトもサキさんと一緒に暮らしていたが、こうやって引き止められて暮らすようになったのだろうか? ゲームじゃそのへんの事は一切書いてなかったな。
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