第5話 ユメと信頼
真っ白な空間。
自分は気が付けば、そこに立っていた。
「ようこそ、あなたのユメへ」
天から響き渡る声。思い返してみれば、ベッドの上で眠りについたことが最後の記憶。それを踏まえて今いる世界がユメの中だと悟る。
「…"ようこそ"じゃなくて"おかえり"の方が正しいのかな?」
その天から聞こえてくる声はとても中性的。
男性か女性かをはっきりと区別はできない。
「キミは大きな宿命を背負っている。だからここへ呼んだんだ」
宿命を背負っている。天の声にそんなことを言われれば、真っ白な空間の中に黒色の影が姿を現した。
「いずれキミは世界の為に戦わなければならなくなる。とても強大で、とても恐ろしい敵たちとね」
黒色の影がこちらへゆっくりゆっくりと歩み寄る。不思議とそれに対して恐怖は感じない。むしろ自分と同じような存在感を放っているおけげで安心できる。
「キミが強大で恐ろしい敵たちと戦っていくためには人と人との関係に表れる――
その黒色の影が自分と重なり合ったとき、いつの間にか右手に拳銃、左手にナイフを握っていた。
「
同じクラスメイトである神凪カエデや、つい最近転校してきたばかりの雨宮サユリ。確かに様々な人たちと一度は話をしたがそれっきり。特に深い関わりを持てている人物はいない。
「キミはその住人たちと一人ずつ交流をし、関係を深めなければならないよ。関係を深めれば深めるほど、
能力、虚栄ノ夢。
何のことかサッパリだ。
「今は理解できないと思う。でもその時が来ればこの能力の意味を理解するはずだ」
天の声がこちらにそう告げれば、今度は真っ白な空間が真っ黒な空間へと移り変わる。
「そしてもう一つの能力がある」
今度浮かび上がってきたのは人型をした白色の光。再び同じようにこちらへとゆっくり歩み寄り、身体が重なり合った。
「それは
それを聞いてナイフと拳銃を無意識のうちに構えてしまう。自分ではどんな格好となっているのかは不明だが、それなりに様になっているのではないだろうか。
「
あの女が指しているのはおそらく雨氷シズクのこと。口に出さずとも自分はそれを理解していた。理解していたからこそ、従姉弟があの女呼ばわりをされて露骨に嫌な表情を浮かべてしまう。
「とにかく、戦いの日は近い。キミが無事に世界を"救える"ことを祈っている」
天の声はこちらが不機嫌になっていることには触れず、そのままさらに上へ上へと遠ざかっていく。
「
遠ざかっていくのは天の声ではなく自分の意識。
それに気が付いた頃には、その夢の中で自分は意識を失ってしまっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おはよ~…ってなんか元気ないね~?」
昨晩の夢のことを考えて登校をしていれば、背後から雨宮紗友里へと声を掛けられる。彼女の髪がやや跳ねていることから、寝癖を直す暇もないほどギリギリに起きて、急いで家を飛び出してきたに違いない。試しに「もしかして寝坊したの?」と尋ねてみる。
「あはは…バレちゃった~? 昨日スマートフォンで『Itube』見て夜更かししてたからさ~」
"
「あれ知ってる~? "都会放映"って集団が上げてる"ミニ四駆にフルマラソン走らせたら非常事態が!"…って動画」
そのItubeには
「面白かったんだよね~! まさか途中でミニ四駆が壊れたせいで自分の愛車を使って走るんだもん~! 企画倒れしてるのにちゃんと動画のオチをつける辺りが凄いと思うな~」
彼女はどうやらよくItubeを見ているらしい。ならばと試しに『ガヤガヤ動画』というものを知っているかを聞いてみる。
「うん知ってるよ~! コメントが沢山流れるやつでしょ~?」
Itubeともう一つ栄えている動画サイトがガヤガヤ動画と呼ばれるもの。特徴的なのは動画に対して打ち込んだコメントが右から左へと流れていくこと。自分はそこでよく"ゲーム実況"というジャンルの動画を見ていると彼女に話した。
「ゲーム実況かぁ…。私の好きなゲーム実況者はファンに手を出したせいで、炎上してそのまま引退しちゃったからなぁ~…」
ゲーム実況もItuberも別に特別鍛えられた人たちのみが活動をしているわけじゃない。動画サイトのドンは有名になる前はただの一般人が大半。海とも言えるネット上で名を上げるためにひたすらに動画投稿を続けてきたのだ。
「誰かオススメとかいるの~?」
そんな自分が溢れかえっているゲーム実況者の中でお気に入りなのは、多弁が特徴的なピエロと、いつも笑ってばかりいるゲラで実況をする
「あっはははは~! 面白いねこの人たち~!」
どうやらドツボにはまったようで歩きながら腹を抱えて爆笑する。見せたのはその二人組が『大激闘アタックシスターズ』という対戦アクションゲームを実況している動画。奇声とゲラで視聴者たちを笑わせてくれる。
「あなたのせいで今日もまた夜更かししちゃうよ~!」
雨宮サユリはその実況者を気に入ったらしい。動画サイトという共通の話題を見つけ、彼女との距離が少しだけ近づいた気がする。
『汝、宿命へ挑む力――"能力"の
脳内にそんな声が響き渡る。どこから聞こえてきたのかと辺りを見渡しても紗友里には聞こえていないのか、自分のスマホで薩長同盟について検索を掛けていた。
「あったあった~♪ この人たちだよね~」
スマホの画面へふと視線を移してみると『能力』と記載されたメッセージが表示されている。そのメッセージを恐る恐るタッチしてみれば、入れた覚えのないアプリが起動した。
『能力』
ランク1 理想を成長させる。
ランク2 ―――
ランク3 ―――
ランク4 ―――
ランク5 ―――
そこに表示されたのは空白によって埋められた項目欄に『能力』という文字とランク表示。現在のランクは1で"理想"と呼ばれるものを成長させるらしい。ランクの横に何も書かれていないのは未獲得という意味だろうか。
「あ、そうだ。私とPINEを交換しようよ~」
誰もが連絡する手段として使用しているSNSサービス『PINE』。そういえばこの学校に来てから誰とも交換していなかったと、雨宮紗友里に自身のPINEのQRコードを提示して連絡先を交換する。
「暇なときは夜に通話かけるね~!」
雨宮紗友里はかなりの夜型。自分からすれば生活習慣を崩したくはないため「一緒に夜更かしは勘弁してくれ」と彼女へと苦笑交じりに伝える。
「心配しなくても大丈夫だって~! 寝落ちしちゃっても私は怒らないからさ~」
そういう問題じゃない。そう心の中で独白しながら表面で溜息をつき、雨宮紗友里と共に遅刻しないよう足早に真白高等学校へと向かった。
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