10:4 救いと教え 前篇
黒Side
「それじゃあ、作戦の再確認をするね」
ここは現ノ世界を象徴する真白町と、ユメノ世界を象徴する紫黒町が、それぞれ半分ずつ領域を占めている舞台。ルナたちは紫黒町の十字路で作戦の再確認を行っていた。
「まず前衛がレインとブライトちゃんとウィザードくんの三人。そして後衛がステラちゃんとヘイズちゃんとグラヴィスくんの三人。私は中衛を務めて、いつでも援護や指令ができるようにスタンバイしておくね~」
「もしノアが前線に出てきたらどうするんだ?」
「その時は私も前線に出て迎え撃つよ~。ノアの相手は私にしかできないからね~」
彼女たちの作戦は戦力のバランスを整えることに重点を置き、一対一の"個人戦"ではなく仲間が仲間の援護を行って勝利を収める"集団戦"。白色のチームにどうやっても知能戦で上回ることはできない。ならば、あえてシンプルで明確な作戦にしようという結論に至った。
「戦いが始まる合図は、銃声だよね?」
「うん。開始時間になったら銃声を鳴らすって言ってたし~」
相手の白チームの中で警戒するべき人物は、ノアとリベロの二人。逆に黒チームの中で警戒されている人物は、自分とレインの二人だとをルナは予測をしていた。この予測が当たっているのなら、ノアたちは真っ先に自分たちをマークするはずだと。
「――! な、鳴ったよ!」
真白町から聞こえてくる銃声。グラヴィスはそれを耳にすると、カタカタとノートパソコンへ指を走らせた。
「位置はちょうど僕たちが立っている向かい合わせの場所から!」
「つまりここを真っ直ぐ行けば、ノアたちがいるってことだな」
銃声からの位置確認。それをグラヴィスお手製の"集音探知機"で調べ、相手チームの初期位置を事前に情報として仕入れる。これでまずは距離で言うなら半歩ほど、ルナたちが有利な状況となった。
「ねぇ、ここで待ってればでいいんだよね?」
「そうだよステラちゃん。私たちは向こうのチームが紫黒町に足を踏み入れてから、ここから移動を開始するんだよ」
そう尋ねるステラに、ヘイズが返答する。
紫黒町の至る場所に設置してあるものはグラヴィスが作った"創造力探知機"。これは探知機の側を通った者の創造力を図り、その位置を示すものだ。真白町から行動を開始したノアたちが、紫黒町へと一歩でも足を踏み入れれば、グラヴィスのノートパソコンに映し出された街の地図に表示される。
「グラヴィス、反応はどう?」
「まだ紫黒町には来てないみたい。向こうも様子を窺がっているのかな?」
ブライトに対してグラヴィスは眉をひそめながらそう答えていた。ルナがノートパソコンを覗き込んでみれば、街の地図にある反応はグラヴィスたち七人のみで、ノアたちの反応は一切示されていない。かれこれ十分は経過しているというのに。
「まさか」
何かに気が付いたのか、レインはぼそっと呟く。
「レインさん、どうしたの?」
「…時間の経過で不利になるのは、ノエルを連れていく必要のある私たち。ゼルチュはノエルを約束の時間に連れて来なかったら"引き渡さない"を選んだとみなす…と言っていた」
ヘイズに視線を送るレイン。彼女のその発言に全員が一斉に沈黙してしまう。
「じゃあノアたちは、私たちがこのまま待ち続けても攻めては来ないってこと?」
「…俺たちは"不利"ってことか」
白チームが時間経過を狙っているのではないか。そんな仮説がルナたちの脳裏に過り、未だに紫黒町へと攻め込んでこないのでその可能性の信憑性が時間経過で増していくばかり。
(この戦いを提案したのは、自分たちが有利になるから…? ノアは最初からそれを狙っていたの? でもノアがそんな卑怯な戦法を遣うなんて思えない)
ルナは頭が良くないなりに必死になって考える。これからひたすらにこの十字路で相手が攻め込んでくるまで待ち続けること。それはルナがノアを信じているか信じていないかの信頼関係の話になる。だから彼女はノアを信じて、そこで待ちたかったのだが、
「みんな、私たちから攻め込もう~」
時間経過で結果が決まってしまえば、ブライトたちも納得が出来ないままその結末を受け入れなければならない。ルナはそれが最悪のパターンだと考え、本来の作戦を大きく変えて真白町へと進行することにした。
「ルナちゃん、本当に攻め込むの?」
「そだよー! わたしはもう少し待ってた方がいいとおもう!」
「ううん、今からでも私たちで行動を起こした方がいいよ。ノアたちがもしそれを狙っているのなら、時間が経ちすぎる前に奇襲を仕掛けた方が相手の不意を突ける可能性もあるし」
不安そうなヘイズと反論するステラ。ルナはその二人に対して自分の意見を述べて、どうにか動かそうと試みる。
「…何もしないより、何かをした方がマシ。私はあなたのその意見に賛成する」
「俺もだ。準備しておいた作戦が使えなくなるのは不安だが、このまま待っていても何も変わらない」
「私もウィザードがそれでいいなら…」
レインとウィザードとブライトは彼女の意見に賛同してくれた。それに続くかのようにノートパソコンの画面を見つめていたグラヴィスも、
「何かあっても、もう一度ここに戻ってこれば本来の作戦が使えるから…。僕は様子見をするだけなら賛成だよ」
やや賛成側寄りの意見を上げる。
ヘイズとステラも渋々それを了承して、全員の選択を一致させた。
「本当なら全員が固まって動きたかったけど、囲まれたときに危険だからウィザードくんとブライトちゃんに頼んでもいい~?」
「あぁ分かった。行くぞブライト」
「オッケー」
「何かあったらジュエルコネクトで連絡するか、すぐに戻ってきてね~? 絶対だよ~?」
ルナはそう二人に念押しする。あくまでも役目は様子見。変に交戦をして、数で押されてしまえば勝ちようがない。ルナは小型無線機のスイッチを入れて、ブライトとウィザードに呼び掛けてみる。
「ブライトちゃん、ウィザードくん…聞こえる?」
『ああ』
『うん、聞こえてるよ』
「り~! 何かあったら連絡よろしくね~」
回線には何の支障もない。ルナが二人と連絡が取れることを確認していれば、グラヴィスがまだ眉をひそめながらノートパソコンの画面を見つめていた。
「グラヴィスくんどうしたの~? 反応はないんでしょ~?」
「そうだけど、何かおかしいような気がして…」
グラヴィスは"創造力探知機"を管理する画面を開いて、接続状態を見始める。
「探知機の接続は全部緑色っぽいけど~」
「緑色が良好、黄色が不安定、赤色が切断っていう見方で…一号機から全部緑色ってことは回線状態は至って良好」
それでもグラヴィスは小首を傾げながら「う~ん?」と唸り続けていた。
「ルナは創造力の感知が出来るんだよね?」
「できるよ~」
「その感知できる範囲って?」
「"半径五十メートル"ぐらいかな~…?」
彼女の返答を聞いて、更にグラヴィスは首を傾げる角度が大きくなる。ルナが「何がそんなに気になるの~?」と彼に聞いてみれば、
「あの探知機って、半径二百メートル内の創造力を感知できるんだ。ノア君たちが動いていないのなら反応しなくても納得できるんだけど…」
「…けど?」
「もし仮に動いていたのなら"どうやってこの探知機を潜り抜けるんだろ"って思ってね」
という別の視点の考えを述べた。
半径二百メートルまで感知できる探知機が、紫黒町の至る所に何十機、何百機と設置されている。もしその探知機に一切引っ掛かることなく、ルナたちの元まで辿り着くにはどうすればいいのか。
「あれ、待てよ?」
グラヴィスは何かを思いつき、手元に創造力探知機を一つだけ創造する。
「どうしたの~?」
「一つだけ、試したいことがあって…」
彼は何を考えているのか、それを思い切り自分の真上へと投擲した。創造力で腕力を向上させていることで、創造力探知機はかなり上空へと飛んでいく。
「まさか、ね」
ノートパソコンで上空へと飛ばした創造探知機を起動させ、接続をした途端、
「――」
グラヴィスの表情が一変した。
「…グラヴィスくん?」
ルナは心配をして声を掛けるが、グラヴィスは目を何度も擦ってノートパソコンの画面を見る。
「み、みんな!! 今すぐここから移動を――」
そして慌てふためきながらも、大声を上げてその場を離れようとしたが、
「――雑魚ダウン!!」
そんな声と共にグラヴィスがコンクリートの地面に顔面から叩きつけられた。
「ファルス…!」
そこに立っていたのはオッドアイに瞳を変化させたファルス。その片手にはグラヴィスの持っていた黒色のビー玉を摘み、
「
一瞬にして光の塵に変えてしまった。
「おー…痛そうだなー」
「これでまずは一人目ですね」
「あんなにマジで叩きつけるかよ普通」
上空からティア、リベロ、ビートの三人が次々と地面へ綺麗に着地する。
「そうか…! 創造力探知機が反応しなかったのは――」
「そう、俺たちはその探知機とやらの範囲外の"空"から攻めることにしたんだ」
最後に降り立ったのはノア。
彼は鋭い目つきで、ルナのことを睨みつけた。
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