強欲ではダメですか?

 

「よっしゃ! この最強のグリードがお前を叩き潰してやるぜ!」


 グリードはステージの上で自身を鼓舞して、その場でシャドーボクシングをする。ブライトは短剣の創造武器アゾットを握りしめて、戦闘態勢に入った。


「行くぞブライト!!」


 叫びながらグリードが接近してきた途端、静けさに包まれていたボクシングの会場が歓声によって湧き上がる。ブライトは周囲を見渡してみれば、そこには様々な特色を持つロボットたちが片腕を上下に揺らし、大声を張り上げていた。


「これがオレとお前のラウンド1だ!」


 ゴングが鳴ると同時にグリードは右腕のストレートをブライトの顔目掛けて放つ。


(速い…!) 


 一瞬で目の前まで迫る拳をブライトはしゃがんで回避する。右ストレートを突き出して引っ込めるまでの秒数、僅か0.1秒。


「おっ! よく避けられたな!」

「そんな簡単には当たらないよ…!」

「そうか! ならどんどん行くぜぇ!」

 

 グリードは次々とフック、フック、ストレートというように間も空けずに攻めまくる。ブライトはその攻撃を半身で避けたり、短剣で受け止めて抵抗していた。


「最初から飛ばしすぎじゃない…!?」

「悪いな! オレは楽しいことには常に全力だからよぉ!」


 体力の配分をまったく考えていない身体の動き。ブライトはグリードが後のことを考えていないのだと予測し、最小限の出来る限り自分の体力を消費しない動きへと変えることにした。


(グリードにもいつか限界が来る…。その時が来たら私が全力で反撃をすれば…)


 それまでの辛抱。

 ブライトはグリードに一切反撃せず、ひたすら耐えることに集中する。


「お前ももっと楽しめよな!」

(おかしい。全然疲れる様子が……)

 

 どれだけ耐え続けてもグリードは汗水一つ垂らさない。逆にブライトの額から汗が滲み出て、ステージの床へと落ちる。どう考えてもグリードの"何か"がおかしかった。

 

「行くぜ行くぜ行くぜぇ!!」

 

 戦いを楽しめば楽しむほどグリードの拳の突き出しと威力が高くなり、ブライトの頬を突風が掠める。


「おらぁ!!」

「かは…っ!?」


 グリードは一瞬の動作にフェイントを巧みに加えブライトに判断ミスをさせると、破壊力抜群の正拳突きを性別お構いなしに彼女の鳩尾へと叩き込んだ。ブライトはリングの柱へと背中を打ち付ける。


「オレは女だからって手加減しないぜ?」

「…最っ低」


 その場でボクシング特有のステップを刻みながら、ブライトが立ち上がるのを待機していた。まだまだ余裕、そう言わんばかりの笑顔。それを見た彼女は血唾をリングの上に吐き捨てて、何とか立ち上がる。

 

「オレの第二キャパシティは底無しの体力インフィニティ―エナジー。お前がもしオレの疲労を狙っているのならそれは無駄な行為だぜ」


 グリードの第二キャパシティ底無しの体力インフィニティ―エナジー

 言葉の通り、創造力が体内にある限り体力が尽きないという能力。疲労を感じずに戦えるということは、いつまでも全力を出していられることを意味する。

 

「どうしてそれを私に教えてくれるの?」

「そっちの方が楽しそうだろ?」

「本当にあなたの感性は…よく分からないね!!」


 ブライトが短剣アゾットに仕込んでいた針をグリードに向けて撃ち出す。グリードは自分に向かってくる無数の針を上半身のみの動きで避けたり、自身の拳で叩き落したりと防衛態勢へと入った。


伝導トランスミッション

「うお!?」


 彼女はそれを見れば、第一キャパシティ伝導トランスミッションを発動し、飛ばした針から更に創造を行ってグリードの周囲に手榴弾をばら撒く。


「起爆…!」


 ブライトの伝導トランスミッションは物質に自身の創造力を宿して飛ばすことで、遠隔で創造を行うことができる能力。それを知らなかったグリードは爆発に巻き込まれてしまう。 


(これで多少は手負いになったはず…)


 グリードは四方八方に散らばる手榴弾による爆発の被害を確実に受けている。ブライトは立ち込める黒色の煙を見つめながら、短剣アゾットを構えていれば、


「ヒャッハァァァァ!! オレ様にそんなものは効かないぜェェェ!?」


 グリードの声ではない誰かの叫び声。

 それが周囲に響き渡ることで、黒色の煙があっという間に晴れ、


「さいっこうだよなァ!? このクレイジーでイッちまった戦いはよォォ!!」


 赤色のスカーフを首に巻いた黄色の人型ロボットがグリードの側に浮かんでいた。


「そうだな"マモン"! オレもこんなに高ぶる戦いは久しぶりだぜ!」


 そう、そのロボットはグリードのユメノ使者であるマモン。身体の内から滲み出るその闘争心はグリード以上のものだ。


「…どうしてあれを受けたのに無傷なの?」


 しかしマモンよりも爆発をもろに受けたグリードが無傷でそこに立っていることに対してブライトは目を丸くしてしまう。


「オレが最強で不老不死だからだぜ!」

「理由になってないよ…!」


 最強で不老不死。その言葉はどう考えても嘘だと見破れる。だがあの攻撃で無傷ならばどのようにしてグリードへと損傷を与えればいいのか。ブライトにはそれが思いつかない。


「ヒャッハァーー!! オレ様も楽しませてくれよなァァ!!?」

(…それなら)


 そんなブライトに対して、マモンは背中に付けたブースターのようなものを勢いよく噴出させ、彼女へと右拳を大きく振りかざして殴り掛かろうと突進を仕掛けてくる。

 

「"ヘカトンケイル"!!」

 

 その声に応えるかのようにしてブライトの前に現れる百の腕を持つ巨体"ヘカトンケイル"。


「行くぜェェェ!!?」


 忠実な僕であるユメノ使者であるヘカトンケイルは、マモンが振り下ろした右拳を百の腕の内の一本の右拳で相殺する。拳と拳が衝突したことで空気を揺り動かす衝撃波と鈍い音が辺りに広がっていく。


「いいぜェ、思う存分やってやろうじゃねェかァァ!! フィストォォォブロォォォォウウ!!」


 ヘカトンケイルとマモンの乱打勝負。

 百の腕による乱打と二本の腕に乱打。普通に考えれば腕の数が多いヘカトンケイルが有利だが、マモンはその乱打に追いつくほどの速度で両腕を振るい乱打をしていた。


「いいねぇ! オレも混ぜてくれよマモン!」


 グリードはマモンの手助けというよりも自分が楽しみたいがために、ヘカトンケイルへと飛びかかる。


「あなたの相手は私でしょ…!」

「…ッ!?」


 けれど飛びかかろうとするグリードの真上から、ブライトが身体の回転を利かせた踵落としを彼の頭部へ打ち込んだ。グリードは気を抜いていたのかリングの床へとそのまま前のめりで叩き付けられてしまう。


「…そうだったな! オレの相手はお前だったぜ、ブライト!」


 グリードは黒のキャップを被り直し、頭を押さえながらもすぐに立ち上がる。身体能力を創造力で向上させた踵落としを受けたというのに、グリードは血の一滴すら流していない。


「実はな、オレはお前に対して少し手加減をしていた」

「…常に全力じゃなかったの?」

「テニスの試合みたいにすぐ終わっちまうと思ってな。あまり全力を出さずにいたんだが――」


 彼はお喋りを続けながら、ブライトとの距離を詰めようとその場から走り出す。 

 

(次はどっちから?)  

 

 右拳か左拳か。グリードはどちらの拳を突き出してくるのか。ブライトはそこに注目をし、短剣で迎え撃とうと考えていたのだが、 


「お前には全力をぶつけても大丈夫そうだ…!」

「――!?」

 

 放たれたのは右拳でも左拳でもなく、左脚による膝蹴り。ブライトは予想外の技に反応が出来ず、グリードの膝蹴りを正面から顔に受けてしまう。


「わりぃな。オレは足技も使えるんだ」


 グリードは今までボクシングのスタイルで戦っていたが、それは決して"そのスタイルでしか戦えないから"という理由ではない。ただ単に彼が自分を追い詰めるために自ら十字架を背負っていただけ。


(…ちょっとやばいかも)


 グリードの真の戦闘スタイルは足技も加えたもの。それが本来の彼の戦い方。ブライトも慣れた動きで膝蹴りを放ってきたグリードを見て、そのことに気が付き焦り始めていた。 


「さぁラウンド2と行こうぜ!!」


 そこからはブライトの劣勢。

 疲れ知らずの能力のせいで常に全力の攻撃がいつまでも続く。今となっては足技も加わったことで、余計に追い込まれてしまい、彼女の身体の至る個所に青あざがいくつも浮かび上がる。


「そこだぜぇ!!」

「……っぁ!?」


 グリードによるアッパーカット。

 ブライトの顎に入り、身体が一瞬だけ宙に浮かぶと床へと仰向けに倒れた。 


「おいどうしたんだ? オレが全力を出してんだぜ? お前もそんなもんじゃないだろ?」


 意識が大きく揺らぐせいで天井に張り付いている照明をより眩しく感じてしまう。その影響で自身を見下ろすグリードの姿もぼやけて写っていた。

 

(…テニスの試合でも、こんなことがあったっけ)


 中学生の頃、真夏の総合体育大会へ出場していた自分を思い出す。決勝へと繋がる大事な準決勝戦。そこでブライトは試合の途中で熱中症に陥った。本来ならばこの時点で試合を止めるべきだが、負けられないと負けてはいけないと両親や顧問に強く言われていたせいでそれでも無理をして試合を続行し、


『……あれ?』

 

 試合中に視界がぼやけ、ラケットを握ることもおろか、立てなくなり不戦勝という結果になる。テニスの用語で表すのなら『RET』。これは試合中のケガによる試合続行不可やスタミナ切れでの試合続行不可による不戦勝を意味する。


『どうして体調が悪いと言わなかった!?』


 目を覚まし意識がハッキリとした時、顧問はどうして無理をして続けていたのかとブライトのことを叱った。それは至極真っ当な意見だが、そこまで無理をしてしまったのは顧問や両親がプレッシャーを与えてきたからじゃないか。


(私は、テニスを楽しくやりたかっただけなのに…)


 テニスを習い始めたのは単に"楽しかった"から。

 強くなりたくて部活動に入ったわけでもなく、誰かに認められたくて入ったわけでもない。ただ本当に楽しかったから。誰かと打ち合うのが楽しかったから。


(…私は何をしてたんだろ)


 熱中症に陥っていると悟ったとき、自分を大切にしたかったし、試合にも出たくなかった。何故なら勝ちになど興味はなかったから。しかしあの時は周囲のプレッシャーのせいで"その選択"を無理やり選ばされたのだ。


「おーい? オレの声が聞こえてないのか?」

(…でも、この人だけには"勝ちたい"と思った)

  

 このエデンの園に初めて抱く感情。それはグリードとテニスの試合を始めて行って負けたときに込み上げてきた"勝ちたい"という欲求。それは今も同じで戦いで"勝ちたい"と望んでしまった。


「……お?」


 ブライトは意識が薄れている最中、グリードの前で微笑む。

 

「私、思い出したよ」


 このエデンの園に来てからずっと忘れていたこと。それを思い出したブライトは、身体の怪我を再生で治療し、


「ぐぉおっ!?」 


 飛び起きの反動で両足による蹴りをグリードの腹部に打ち込んで吹き飛ばす。


「大切なのは"楽しむこと"。あなたに勝てなかったのは私が"勝利"のことばかり考えているから。それがあなたの能力だよね?」

「…おう、そうだぜ! やっと気が付いたか!」


 グリードの第一キャパシティ"強欲ごうよく"。  

 相手が勝利の欲求を望めば望むほど、勝利を遠ざける能力。この能力を発動するためには事前に相手が自分に対して"勝ちたい"と思わせなければならないため、事前の交流が必要となる。


「よっしゃ、これでオレもついに本気を出せるってわけだ! 戻ってこいマモン!」


 能力の正体に気が付かれたというのにグリードはとても嬉しそうな表情を浮かべ、マモンを自分の元へと呼び寄せた。


「アレをやるんだなァァ!?」

「おう! こっからが本番だぜ!」


 ブライトも何が来るかは大体見当が付いている。そんな彼女に見せつけるようにしてマモンとグリードがお互いの拳を合わせると、


「「合理化!!」」 

 

 マモンが黒色の光となってグリードへと吸収され始める。合理化、ブライトは事前に雨氷雫から聞いていた情報通りだとヘカトンケイルと共に姿を変えていくグリードを眺めていた。


「やっぱこれだよなぁ!」


 グリードは黒と紫を基調とした服装へと変わっている。印象としては音楽のジャンルで言う"ロック調"が一番近しいだろう。


「ブライト!」

「…?」

「オレがお前を楽しませてやる! だから――お前もオレを楽しませてくれよ!」


 眩しいばかりの笑顔をブライトに向けたグリードは、黄色の闘気を身体から放ち始める。


「――マーベリック」


 ブライトはグリードの体内の創造力が激しく向上していることに気が付き、何も言えないままそこで突っ立っていれば、


「ぼーっとすんじゃねぇぞ!」

「…!」

 

 グリードの拳がすぐ目前まで迫ってきていたため、ブライトは短剣アゾットでそれを受け止めようとしたのだが、


「…重っ!?」

 

 そのまま力技で押し切られ、リング外へと吹き飛ばされてしまう。


「ヘカトンケイル!」

 

 ブライトはすぐにヘカトンケイルの名を叫び、自身の右足を掴ませて遠心力でグリードの元へと飛んでいく。


「全力で、全力で楽しむからね!」


 その最中、体内の創造力を消費して身体能力を全強化する。


「こっからラウンド3だぜ! 来いブライトぉ!!」


 お互いに楽しみながら殺し合う。

 傍から見れば狂っているとしか思えない光景。しかしブライトとグリードからすれば、この程度はテニスの試合をしているのを何ら変わりなかった。


「…うお! お前、どんだけ創造力があるんだよ!」 

「それが、私の能力だから…!」


 ブライトの第二キャパシティ創造領域クリエイトエリア。伝導で創造力を込めた物質の側にいることで、自陣の創造力を徐々に回復させる能力。


「そうか! 最初に飛ばしてきた針が…!」

「今更気が付いても遅いよ!」


 ただし自身の身体に触れている物質の近くでは効果を発揮しないため手放す必要がある。この欠点を補うためにブライトはグリードに針を飛ばしたと見せかけて、何本かをリングの隅に突き刺しておいたのだ。


「やっぱり…お前は面白いな!」

「あなたこそ! どんどん強くなってない!?」

「おう、それがオレの第三キャパシティ、マーベリックだからよぉ!」


 グリードの第三キャパシティ"マーベリック"。

 戦えば戦うほど自身の身体能力と創造力を向上させることができる力。


「オレの身体が朽ち果てるまで…お前には付き合ってもらうぜ!!」

「……!!」


 欠点は向上していく力に自身の身体が耐えられなくなる時が来れば、跡形もなく肉体が崩壊してしまうこと。ブライトはグリードの"身体が朽ち果てるまで"という言葉でその欠点に察しが付く。


「うおらうおらうおらぁぁ!!」

「ぅ…っ!?」


 戦えば戦うほどグリードの力は上がる。

 グリードの拳が少しだけ肩を掠めただけでも、その破壊力のあまり脱臼をしてしまう。


「ごほっ…!?」


 しかしだからといって不利なのがブライトというわけではない。グリードの身体にも限界があるようで、とある機会を境に自ら吐血をした。 


「へへっ…! そろそろ決着を付ける頃合いみたいだな!」

「グリード、その身体は…!」

  

 肉体が力に耐えられなくなる予兆として、グリードの身体の内側からボコボコと何かが浮き出ている。その正体は抑えられない力。それが外へ出ようと暴れ回っているのだ。

  

「心配すんなって! オレはまだ力を出せるからよぉ!!」


 グリードは腰を落として、左腕へとすべての力を集中させる。


「…っ! ヘカトンケイル、私に力を貸して!」


 ブライトもその姿を見ると、少しだけ歯を食いしばりヘカトンケイルの創造力をすべて自身の元へと集中させた。


「フィストォォォ…」


 観客の湧き上がる声が静まり、辺りに静けさがやってくる。


「――ブロォォォウゥゥ!!!」


 その静けさを破壊するようにグリードが助走を付けて、渾身の左拳を突き出した。


「うおらぁぁあああ!!!」 


 ブライトも短剣アゾットにすべての創造力を込め、渾身の突きを繰り出す。


「う"お"お"ぉ"ぉ"お"お"ぉ"ぉ"ーーー!!」

「う"お"ら"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"ーーー!!」


 あまりにも強大な力と力のぶつかり合いに会場が崩壊し始めた。観客は消失し、照明がその場に落下し、天井や壁すらも大穴が空いて形無きものへと変わり果てていく。二人を包み込むのは真っ白な光。


「「――っ!?」」


 そして起こりうるは創造力のぶつかり合いによる爆発。

 二人はそれに巻き込まれてしまう。

 

「……うぅ」 


 ブライトは気が付けば瓦礫の上に倒れていた。創造武器アゾットを握っていた右腕は肩から下を失っており、創造武器も完全に消滅してしまったようだ。


「…グリードは」


 彼女は片腕を失ったまま、身体を起こしてふと隣を見てみれば、


「――」


 一瞬だけ呼吸が出来なくなった。

 何故なら、身体の至る個所にぽっかりと穴を空けたグリードが横たわっていたからだ。


「…おう、生きてたか」

 

 爆発の影響か全身に火傷を負っている。そして体内の骨や臓器が見えてしまうほど空いている穴から溢れ出る真っ赤な血液のせいで、火傷を負った肌の部分がひどく荒れているようだ。


「…ねぇ」

「……何だ?」

「…どうして私を助けたの」 


 グリードは真っ白な光に包まれる直前、敵であるブライトを爆発から身を挺して守っていた。彼女が火傷を負わずに片腕を失っただけで済んでいたのは、グリードが庇っていてくれたおかげ。


「お前が死んだら楽しくない…からだぜ」

「あなたは、私に勝たせようとしてたんじゃないの? あんなに"楽しい"って言葉を言い続けていたのだって、自分の第一キャパシティの正体を知らせようとしていたからで…」

「…オレには、分からんな」

 

 ブライトの憶測に対してグリードはそう返答する。


「…ただよぉ、本物のオレだったら…本物の白澤来しらさわらいだったら…こうしてたんだろうと思ってな」


 白澤来のクローンである彼はそんなことを途切れ途切れに話しながら、ブライトに左拳を軽く突き出した。


「わりぃな、ブライト…。オレは…お前に後のことを託しちまう」


 ブライトも左拳を突き出して、白澤来と拳を合わせれば、力の継承が始まる。


「楽しかったぜ…お前とのテニスは…めちゃくちゃ…楽しかっ――」


 グリードが目を閉じれば、身体が光の塵となって消えていく。その場に残されたものは黒色のキャップ。ブライトはそれを片腕で拾い上げて、強く握りしめた。


「楽しかった…かぁ」


 そんな彼女を他所に、ユメノ結晶は輝きを放ちながら出現する。


「グリード。私は…ちょっと、ちょっとだけ悲しいかな?」 


 彼女は頬に粒を流しながら、短剣をユメノ結晶へと突き刺した。

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