暴食は身体に悪いことですか?
「モルペウス、あいつを倒して!」
ステラはユメノ使者であるモルペウスを呼び出して、攻撃を仕掛けるようグラトニーへと指をさす。
「えー? わたしが出る必要ある?」
「もぉー! 少しはやる気を出してよ!」
面倒くさそうに文句を述べるモルペウスへ、ステラはギャーギャーと喚きながらやる気を出すように声を荒げる。モルペウスは冷めた表情のまま溜息をつき、
「はいはい…やればいいんでしょー?」
何本かの光のレーザーをグラトニーへと撃ち出した。
「効かないよ」
しかしグラトニーの前方に数冊の魔導書が召喚され、そのレーザーたちをすべて受け止めてしまう。
「お返しするね」
魔導書の本はグラトニーの周囲を漂いながら一冊一冊ページが高速で捲られ、創造力が凝縮されたエネルギー弾がステラたちに撃ち出された。
「ふーん、なんか飛んできたね」
「なんか飛んできたね…じゃないでしょ! 避けるの!!」
ステラとモルペウスは左右に散らばり、魔導書によるエネルギー弾を回避する。エネルギー弾に触れた樹海の木々たちが消し炭になるのを目の前で見たステラは思わず息を呑んだ。
「まだまだ行くよ?」
「おっ、飛んだねー」
グラトニーは魔導書に飛び乗り、上空からステラたちに向かって空爆のようにエネルギー弾を何百発と撃ち出す。モルペウスも光のレーザーで落ちてくるエネルギー弾を迎え撃とうとするが、
(モルペウスのレーザーよりも…威力が高いかも)
魔導書が放つエネルギー弾の方がモルペウスのレーザーよりも威力が高いのか地上側が劣勢気味。押し負けると考えたステラは煙幕を両手に創造し、周囲の至る所へと投擲した。
「モルペウス…! 正面からはやり合わない方がいいよ!」
「そんなこと言われてもさー?」
辺りが白い煙に包まれ視界が塞がれている状態。
そんな地上にグラトニーは何冊かの魔導書に偵察へ行かせ、
「あっちは正面からやり合いたいみたいだけどー?」
煙の中に立っているステラたちへと再び照準を合わせ、エネルギー弾を連射してきた。
「"シャイン"…!」
ステラは迫りくる攻撃に焦りながらも両手首にバングルを装着して、魔導書のエネルギー弾を光の壁で防ぎきる。
「…最初からそれを使えば良かったのに」
「少しぐらい躊躇わせてよ!」
ステラの創造武器は手首に装着する型の"シャイン"というバングル。これはステラの第一キャパシティである
「そんなことよりも…! あの人とどうやってたたかえばいいの…!?」
「うーん…」
モルペウスは顎に人差し指を当て、唸りながらも考える。
「ねぇ、はやくかんがえてよ!」
ゆっくりと考えているその間にも、ステラがシャインで創り出した光の壁にヒビが入り始めた。ステラはモルペウスに打開策を考えてくれと催促する。
「あの魔導書ってさー。わたしたちにあまり近づいてこないよねー」
「…! たしかにずっと遠くから攻撃してきてるかも…!」
グラトニーの魔導書は決してステラたちのすぐ側まで接近はしてこなかった。最も近くて数メートルの距離を保ちつつ、エネルギー弾を放ってくるのだ。
「遠距離を遠距離で迎え撃つんじゃなくて…近距離で迎え撃てばいいんじゃないー?」
「分かった! わたしがどうにか道を繋げるから、モルペウスはあの魔導書たちをやっつけて!」
ステラはモルペウスの提案に賛成し、第一キャパシティを発動する。
「
能力によって放たれた光のレーザーは、反射させればさせるほど威力と速度が上昇していく。木々を跳ね返り、葉を貫き、魔導書のすぐ側まで接近すれば、
「はいドーン」
光のレーザーからモルペウスが姿を見せ、魔導書を光のナイフで斬り刻んだ。魔導書は特に抵抗も見せることなく、そのまま紙片へと変わってしまう。
「…私の能力の弱点に気づいたんだね」
グラトニーの第二キャパシティ
創造力をエネルギーとして放出し遠距離攻撃が可能となる力。魔導書の上に飛び乗ることも可能で、いろいろと汎用性は高い。だが、近距離戦においての戦闘能力は皆無。
「まだだよ!」
今度は数本の光のレーザーが辺りに散乱する。
「そんなにばら撒いても、私が近づかなければいいだけだよ?」
至る個所に反射し、グラトニーはそれを目で追いながら上空を飛び回ってステラの放つレーザーから距離を取った。
「まっ、わたしが近づくけどね」
「後ろ――!?」
しかしモルペウスはそのレーザーから姿を現すことはない。気づかれないように自分からグラトニーの背後へと忍び寄り、周囲に漂う魔導書をすべて斬り刻むと、
「落ちて、人間さん」
グラトニーの胸に光のナイフを深々と突き刺し、地面へと墜落させた。
「やった! ありがとうモルペウス!」
「…まだ気を抜かない方がいいよ」
感謝を述べるステラにモルペウスは墜落したグラトニーへと視線を向けながらそう返答する。
「その子の言う通り。弱肉強食の世界で気を抜かない方がいいと思うな」
グラトニーは胸に突き刺さった光のナイフを創造破壊し、再生を使用して怪我を治療した。その顔には未だににっこりとした余裕の笑みが浮かんでいる。
「だけど…私も少し気を抜いていたからお相子だね」
「…来る」
モルペウスはグラトニーの体内の創造力が上昇しているのを感じ取り小さな声で呟く。
「今からは気を抜かないから」
手を左から右へと振り抜けば、樹海の木々からあらゆる虫が不快な羽音を立ててグラトニーの背後へと集結し、
「ユメノ使者――ベルゼブブ」
ユメノ使者であるベルゼブブを呼び出した。
その姿は赤色の目玉に巨大な身体を持つ蠅と酷似している。
「ほっほっほ…わしに何のようじゃ?」
「ベルゼブブ、私に力を貸して」
「ほうほう。今度の首はあの子じゃな」
口調は老人。
あまりにものんびりとした声にステラは一瞬だけ肩の力を緩めてしまったが、
「気を抜かない方がいいって言ったはずだよ?」
背後から"カサカサ"と何かが近づいてくる音。それを耳にしたステラとモルペウスは何の音かと振り返ってみれば、
「ム…ムカデだぁぁーー!!!!」
テカテカとぬめらせた身体、ガサガサと動かす無数の足。
その容姿にステラは思わずゾッとし、その場から駆け出した。
「あなたは、ここでその子に食べられてね?」
「気持ち悪いぃぃぃーーー!!!」
後方から物凄い勢いで迫りくる巨大なムカデ。ステラのことを捕食しようと特徴的な奇声を上げながら、無数の足をばたつかせている。
「めんどくさ。さっさと消しちゃっ――」
「ほっほ、そう上手くはいかぬぞ?」
「…ぐっ!?」
モルペウスはムカデへ光のレーザーを放とうとしたが、横からベルゼブブが巨体を活かした突進を仕掛けてきたことで、木々をなぎ倒して吹き飛ばされていく。
「もぉー! 追いかけてこないでよ!」
ステラは光のレーザーを足元に放出して、上空へと飛び上がる。その寸前にムカデの牙が彼女のスカートを掠り、やや破いてしまった。
「ああいうのは…まず身動きを封じればいいんだよね」
両手に光を溜め、ムカデの足元目掛けて両腕を振り下ろす。ステラの手元から生み出されたのは二本の光の刃。それらはムカデの足と身体の繋ぎ目に直撃し、無数の足が次々と綺麗に斬り落とされた。
(身動きが取れなくなったら…頭部にたたきこむ!)
今度は空に向けて光のレーザーを放ち、ムカデの頭部まで急降下する。その最中に巨大な光の金槌を手元に創り出して、再び大きく振りかぶった。
「えぇーい!!!」
周囲に響く鈍い音。
ムカデはその巨体を大きく左右に揺らし、その場に倒れ込んでしまう。
「凄いね。あのムカデを倒しちゃうんだ」
グラトニーは上空で魔導書に乗りながら、離れた場所で拍手をする。
「おじいちゃん、そろそろ引退の時期じゃないの?」
「ほっほっ…わしはまだ若いもんには負けんわい」
それを他所にベルゼブブとモルペウスは力が均衡しているのか未だに激戦を繰り広げていた。蠅を操り攻撃を仕掛けるベルゼブブ、光のレーザーで一気にそれを消し飛ばして戦うモルペウス。どちらも退くに退けない状況。
(モルペウスはあの蠅の相手してる。だからわたしがあの人をやっつけないと…)
ムカデの死体に背を向けて、遠くで眺めているグラトニーへと身体を向ける。
「あなたはわたしがやっつけるんだから…!」
ステラがそんな宣言を高らかにすると、樹海のあらゆる場所にそれなりの大きさの長方形の鏡が何十枚と出現した。
「この鏡は何かな?」
「教えるわけないでしょ!」
優しく尋ねてくるグラトニーにステラは舌を突き出し、地を蹴って駆け出す。
「そんなことをしたら…閻魔様に舌を食べられちゃうよ?」
グラトニーは優しく微笑み、ステラに向かって魔導書からエネルギー弾を撃ち続けた。
「来た…!」
ステラは迎え撃たれた瞬間、すぐさま近くの鏡の元へと向かい、
「食べられないもんね!」
「…!」
その中へと飛び込んだ。
「消えた? …ううん、多分消えてはない。どこかの鏡に通じてるはず」
グラトニーは鏡を一枚一枚凝視してどこから出てくるかを観察する。
「ここだよ!」
飛び出してきた場所はすぐ真下の鏡。グラトニーは死角からの接近により反応が少し遅れてしまい、魔導書の展開が間に合わず、
「近くまでこればわたしが有利になるんでしょ!?」
光のレーザーを真正面からもろに受けてしまった。グラトニーは全身に大火傷を負って、一際目立つ巨木に背を打ち付ける。
「どーだ!」
ステラの第二キャパシティ
周囲の至る場所に鏡を設置することで、鏡から鏡へと道を通ることができるようになる。ただし置かれた鏡を物理技で破壊されてしまえば、その位置へと移動はできない。
(良かった…。わたし一人でも戦えた)
彼女へと食らわせたのはステラの全力。
それを防御態勢を取らずに受ければただじゃ済まない。
「…これで倒せたらいいんだけ――」
そう言いかけた途端、ステラの視界が九十度傾いた状態へと変わる。
「え――」
ワケが分からず何が起きてるのかと自身の身体を見下ろしてみた。何本もの牙が上半身に喰らいつき、ギシギシと骨が嫌な音を立てながら、制服をにじみ出るほどまで流血をしている。
「ステラ!!」
モルペウスに名前を呼ばれてやっと自分がどういう状態でいるのか気が付く。倒したはずの巨大ムカデ、それに噛みつかれていたのだ。
「ヒィッ…!?」
ステラはムカデの頭部から白色の幼虫が飛び出しているのを見てしまい小さな悲鳴を上げる。
「どうしてあのムカデ生きて…」
ムカデが倒れていた場所には眼球が飛び出し、茶色の体を持ち、羽を二枚背中に付けている虫がいた。
「"ネジレバネ"じゃよ。あやつは寄生虫を植え付けるからのう」
その虫の名前は"ネジレバネ"。
見た目は歪なハエとしか見られない。しかしこの虫の真の恐ろしさは"寄生中"を虫に植え付けて主の意思関係なしに操ること。通常、スズメバチやゴキブリの体内に卵を産み付けて繁殖活動をするところが多くみられる。
「あなたがあのハエを忍ばせて…」
「ほっほ。長生きの経験が生きたのぅ」
ベルゼブブはモルペウスと交戦しながらも、自身の主であるグラトニーを援護するためにそのハエをムカデの死体へと忍ばせていた。
「待ってて! 今助け――」
「邪魔をさせてもらうわい」
モルペウスはステラを助けようとするが、ベルゼブブによって阻止されてしまう。
「はなせはなせはなせぇぇ……!!」
寄生虫によって操られているムカデの身体。
そんな身体に光のレーザー撃ち込んだところで何の意味も持たない。この巨大ムカデを完全に沈静化させるには、寄生虫本体である白色の幼虫を殺さねばならないのだ。
「痛い…痛いよぉ…っっ!!」
痛みと恐怖によって感情を抑えられないステラは冷静な判断を下せない。巨大なムカデの上顎と下顎による圧力によって、創造力で強化している身体も限界を迎える。
「うぁああああああっっっ!! たすけてモルペウスぅぅぅぅ!!!」
「邪魔だ! そこをどけジジイ!!」
「年寄りは敬うもんじゃぞ?」
ムカデの上顎と下顎に生えた牙はステラの体内の臓器まで到達した。創造力の源である肝臓が少しでも傷つけば、間違いなくステラの上半身と下半身は噛み千切られるだろう。
「ああぁああ嗚呼――」
「―――!!」
ムカデの頭部を寄生している白色の幼虫がエネルギー弾によって突然弾け飛ぶ。ステラはムカデの上顎の力が緩んだタイミングで身体を無理矢理動かして地面へとわざと墜落させた。
「お主は…何をしてるんじゃ?」
エネルギー弾を飛ばしたのはグラトニー。ベルゼブブにそう問いかけれた彼女自身も、誤作動でも起きたかのように自分の右手を見つめている。
「再生…再生…再生…」
ステラは地面を這いずり回りながらも再生を強くイメージして身体の傷を癒す。
「はぁ、はぁっ…」
死ぬ寸前だったことでステラは自分の胸を両手で押さえ、確かなる生を感じ取る。
「…どうして私は、あの子を助けたの?」
火傷を負った状態でグラトニーは頭を抱えた。
そこから何度も自問自答を繰り返し、自分を落ち着かせる。
「ベルゼブブ!」
彼女は巨木の前に立ち上がり、ベルゼブブを自分の元へと呼び寄せた。
「あれを…使うよ」
「了解、あれじゃな」
ベルゼブブの巨体が光り出し、グラトニーの身体へと吸収されていく。モルペウスは今のうちにと両膝を地面に付けているステラの側まで急いで駆け寄る。
「大丈夫?」
「…うん」
「じゃあ――まだ戦える?」
ステラはそれを聞かれてすぐに答えられなかった。先ほど死にかけたせいで戦いに対する恐怖心を植え付けられてしまったからだ。
「…戦わないとダメだよ。ヘイズと、ヘイズと約束したもん」
この戦いが始まる前。
ステラはヘイズに「絶対に生きて帰ってきてね」と言われていた。彼女の中で約束は必ず守るモノ。だからこそステラはその恐怖心を自ら抑え込んで、自分の足で立ち上がる。
「――合理化」
ベルゼブブと一体化したグラトニーの姿は花柄模様の和服だった。体内から溢れ出る創造力。そして彼女の周囲を漂うのは魔導書と虫たち。
「あなたの声を聴いていると頭がおかしくなりそうだから、早く平らげないとね…!」
魔導書がエネルギー弾を放ち、虫たちがステラたちを取り囲むように襲い掛かる。
「っ…!」
虫たちはステラのモルペウスの肌に付着して自身の口元に付いた針を突き刺した。そこから血ではなく何かを吸い上げ始める。
「うっとうしいよ!」
モルペウスが虫たちを光のレーザーで一網打尽にし消滅させるが、二人ともどこか身体に気だるさを覚えた。逆にグラトニーの創造力はどんどん向上していく。
「…気を付けて、あの虫は創造力を吸い取るみたいだよ」
「創造力を…?」
グラトニーの第三キャパシティ、"カースドグール"。
虫たちを指揮し、相手の創造力を喰らいつくす力。虫たちが喰らった創造力を自分自身に与えることも可能で、長期戦に有利となる能力だ。
「あなたたちの創造力を私が喰らいつくしてあげる」
とめどなく上がり続けるグラトニーの創造力。
それは第一キャパシティである
「ステラ! わたしたちの周囲に光の壁を!」
「わかった!」
ステラはエネルギー弾と虫たちを防ぐためにドーム状の光の壁を創り出したが、
「その壁は創造力が通っているでしょ。だから虫たちの餌に過ぎない」
「ダメ! わたしの創造力がぜんぶ吸われちゃうよ!」
虫たちはその光の壁に針を刺して、一気に吸い上げる。ステラは体内から創造力が抜けていく脱力感を覚え、光の壁をすぐに解除した。仕方なく光のレーザで虫を駆除しても、二倍三倍と次々湧き出てくることで創造力が削られるだけの不利な戦況。
「…ステラ! わたしに考えがある!」
「えっ?」
モルペウスはステラに自身の作戦を伝えた。ステラはそれを聞いて少しだけ躊躇をしていたが、頼れるモルペウスの言葉を信じたいと思い、その作戦を実行することに対し強く頷く。
「…全力で行くよ!」
モルペウスとステラが持てるだけの創造力をすべて引き出し、虫たちを自分たちの元へ一斉に呼び寄せる。
「それは自殺行為だよ。餌が張り切ったところで捕食者を喜ばせるだけ」
ステラたちはすぐに虫たちへと取り囲まれ、姿が覆い隠されてしまう。グラトニーは目の前で起きている惨状を見下ろしながら、決着がついたと思い込む。
「――!!?」
その瞬間、ステラたちの立っていた場所で真っ白な爆発が巻き起こった。自身の元まで吹き荒れる衝撃波によってグラトニーはバランスを崩す。
「あれは、自爆?」
二人そろっての自害。体内の創造力を増幅させて、わざと暴発をさせることで起こした爆発。それを見たグラトニーは、溜息をつく。
「食べられるくらいなら、自分で消滅した方がマシってことかな?」
何とも呆気の無い最後。
グラトニーはつまらなかったとやるせない気持ちでユメノ世界から覚めようとしたとき、
「――え?」
頭部の頂点に誰かの手が置かれた。
「まさか…あなたは…」
上からグラトニーの頭部に手を置いていたのはステラ。
それよりもさらに上には一枚の鏡が宙を飛んでいる最中だった。
「ありがとう。あなたが気を抜いてくれたおかげでモルペウスの作戦が上手くいったよ」
そう、自爆したのはモルペウスただ一人。
虫たちが集まる瞬間にモルペウスはステラへとある程度の創造力を託した。そして鏡の中へと入るよう指示し、虫たちへと創造力を吸われながらも一枚の鏡を宙へと放り投げて自爆行為を行う。これにより爆風でグラトニーの更に上まで鏡が飛ばされたのだ。
「だから――"褒めてあげる"!」
ステラはグラトニーの頭部を両手で押さえながら、モルペウスが託してくれた分と自分の体内に残った分をすべて凝縮させて、巨大な光のレーザーを撃ち出した。
「きゃぁあああーーっっ!!?」
その力に耐え切れず、ステラの両手首に付いていた創造武器のバングルが砕け散る。自身の限界を超えた創造力を持っていたグラトニーの身体にさえ被害は甚大なものだろう。
「いっけぇぇぇぇ!!」
ステラの身体から創造力を出し切った時、地面に大きなクレーターが空いていた。グラトニーはボロボロな和服から何ヵ所も白色の肌を覗かせながら、仰向けで力尽きている。
「…ありがとうモルペウス。あなたのおかげで勝てたよ」
ふらふらになりながらも地上に着地をして、ステラはグラトニーの元まで歩み寄った。
「…私ね、小学校の先生になりたかったの」
グラトニーは近づくステラに対して急にそんなことを語りだす。
「だから…あなたが苦しむ姿を見て一瞬だけ本物の私、
彼女は内宮智花の偽物だと悟る。
ステラはそんな彼女の側に座り込み、右手を握りしめた。
「私を…許してほしいな」
「……」
「もう、迷惑をかけたみんなに謝れないし…会えないけど…せめて…あの人だけ…には会いたかった」
彼女の意識が薄れていく。
「ステラちゃん…。私の力をあなたに託して…」
その最中、彼女はステラへと自身の力を渡す。
「あーあ、もっとみんなと…美味しいもの…食べれば…良かっ…た…」
内宮智花は光の塵となって消えていく。そこに残ったものは内宮智花が髪に付けていたおにぎりの髪留めのみ。ステラがそれを拾い上げれば、大きなクレーターの中央にユメノ結晶が現れる。
「バイバイ、優しいお姉ちゃん」
ステラはそう小さな声で呟き、弱々しい光のレーザーでユメノ結晶を破壊した。
→SRPMU
→MRPUS
→モルペウス
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