Seven Deadly

 色欲に愛は必要ですか?

「先手必勝だ…! 行くぞラウスト!」


 ビートは創造武器であるナックルを両手に装着して、持ち前の高速ステップを刻み、ラウストへと急接近する。


「あなたってゲームやったことある?」

「うおっ…!?」


 ラウストは青色の槍を地面に突き刺して、拳を振りかぶってきたビートの上を軽々と飛び越した。


「私はあるんだけどね? 今の先手を避けられちゃったのは少しヤバいと思うなー」

「何言ってんだ! まだ戦いは始まったばかりだろ!」

 

 背後で微笑むラウストを小馬鹿にしながら、ビートは両手に装着したナックルを黄金色に輝かせ、


「頼むぞ、"バンクラー"!」


 足元に叩き付けると、あっという間に地面を叩き割って周囲に建てられている建物らしきものをすべて崩壊させてしまった。ラウストは飛び退いてそれを回避する。


「うわー…すごい火力だね」

 

 ビートの創造武器はナックル型のバンクラ―と呼ばれるもの。両手に装着したナックルに創造力を溜めに溜め込んでから拳を振るうことで、瞬間的に強大な力を放つことができるという細工がされているのだ。

 

「私の火力とどっちが強いか勝負してみる?」


 そんな高い火力の技を見て興奮したのかラウストは青色の槍を構えて、ビートにそう挑発をする。


「面白い! その挑発に乗ってやる!!」


 ビートは考える間もなく、速攻ラウストへと両拳を強く握りしめながら突っ込み、


「おらぁ!!」

「えい!」


 ナックルと青色の槍がお互いにぶつかり合った。ビートはてっきり簡単に押し切れるかと思っていたが、ラウストの槍による押し込みはかなりのもので全身に創造力を通わせてほぼ互角の実力。

 

「お前…! どこからそんな力が出てるんだよ!?」

「だって――私もあなたと同じ"AA型"だから」


 青色の槍でビートのナックルを左側へと受け流したラウストは、膝蹴りを彼の顔面へと放つ。ビートはすぐさま膝蹴りへと視線を向けようとしたが、


「ぐはぁっ!?」

 

 何故か自然と顔をラウストの顔へと向けてしまった。それのせいで膝蹴りを捉えきれず、顔面に叩き込まれてその辺を歩いている村人諸共近くに建てられた家の壁を突き破ってしまった。


「どこを見てたの?」

(今のは…何だ?)


 まるで無理やり顔を動かされた感覚。ビートは崩れた本棚の下から立ち上がって、ラウストへと視線を改めて向ける。 


「あれの正体を確かめないとな…!!」


 考えても何も分からない、行動あるのみ。

 ビートはナックルを黄金色に輝かせつつ、警戒をしながらラウストへと接近戦を仕掛けた。

 

「それ怖いね。当たったら大ダメージかも」

「それはどうだろうな? 試しに一度受けてみたらどうだ…!」


 創造力をナックルに込めて、創造破壊を試みようと青色の槍へと叩き込む。ラウストはそれを押し込まれつつも槍で何とか受け止めて微笑んだ。


「今のは私でも手が痺れたよ」

「なら――もう一発お見舞いしてやる!」


 再びナックルに創造力を込めて黄金色へと光らせる。その瞬間、ラウストが少々表情を険しくして青色の槍の先でビートの脇腹へと突き刺そうとした。


(――! やっぱり視線が無理やり動かされる!!)


 避けようと槍へと視線を移そうとしても、ラウストの顔から目を離すことが出来なくなってしまう。ビートは創造力を込めた拳を地面へと打ち込んで、辺りに地割れを発生させてそれを回避する。


「おい、視線が無理やり動かされるのはお前の能力か?」

「ふふ…そうだよ? 私の第一キャパシティは"色欲"、近づけば近づくほど私から目を離せなくなるからね」


 ラウストの第一キャパシティ"色欲"。彼女に近づけば近づくほど、視線を惹き付けられてしまい他の場所へと移せなくなってしまう能力だ。


「近接戦しかできないあなたは私から目を離せないよ? どうやって攻略するの?」

「そんなの決まってるだろ。火力でごり押しだ」


 ビートは体内の創造力を一ヵ所へと集中させて、黒色の気を漂わせる。


「ユメノ使者――ポベートール!」


 絹のローブを纏い、骨の羽根を生やした不気味な人物。顔はフードで隠れてしまいよく見えない。分かることと言えば、それがユメノ使者であり夢の神の三柱のうちの一人であることだ。


「…ポベートール、強キャラだね」

 

 それを見たラウストもまた青色の槍を両手でくるくると回転させて、体内の創造力を一ヵ所へと集中させる。


「"アスモデウス"」


 七色に輝く男性のシルエット。

 そのユメノ使者は羽を生やしていたが、それすらも七色に輝かせていた。


「ラウスト様。何か御用でしょうか?」

「私の忠実な僕さん。あの厄介なユメノ使者を倒してくれない?」

「承知しました、ラウスト様」

   

 アスモデウスはラウストに命令をされると敬いの言葉を発し、ビートたちの方へと身体の向きを変えて、


「私があなた方を排除します」 


 七色の羽根からレーザーを一斉に放射してきた。


「ポベートール! 突っ切るぞ!!」


 ビートはポベートールと共にそのレーザーを回避しながら、徐々にラウストたちとの距離を詰めていく。


「火力で押し切るために…!」


 ナックルに創造力を込めれば、ポベートールも自身の得物である大鎌を両手に持ち、


「ここでぶち込む!!」

「――っ!!」


 ビートの拳がラウストの槍を粉々にし、ポベートールの大鎌がアスモデウスの両翼を斬り捨てた。


「ポベートール、そいつの相手を任せたぜ!」

「やってくれましたね。これは高くつきますよ」


 アスモデウスはポベートールと交戦を始めたことで、ビートはラウストへと追撃を食らわせようと再び黄金色へと拳を輝かせて、右拳を突き出す。

 

「させない…っ!!」


 しかしラウストは身体を右へと捻らせ、ビートの拳をギリギリで回避した。そして身体を元に戻そうとした瞬間に、


「か"は"…っ!!?」


 避けたはずの右拳が胸のど真ん中に叩き込まれ、そのまま後方へと吹き飛ばされていった。


「…これで立ち上がってくれなきゃいいんだけどな」


 ビートが動くたびにハッキリと見える残像。

 それらを生み出しているのはビートの第二キャパシティである阿修羅あしゅらの力。この力は自分自身の残像を具現化することで、一回の攻撃を何十回にも増やすことが可能となる能力。


「一個の残像でこれだけ創造力を消費するのはキツイな…」


 しかし残像一つにつきそれなりの創造力を消費するため、何十個も重ねるとすぐに創造力が尽きてしまうのが欠点。ビートはすぐに阿修羅を解除して、飛ばされていったラウストの方角を眺める。 


「げほっ…あぁいたかったなぁ…」


 相当堪えているのか微笑みながらもビートの前へと姿を現した。確実に肺は潰したと思い込んでいたビートだったが、ラウストはあの一瞬の状況で創造力をすぐに胸元へと集中させて防ぎ切ったらしい。


回復ヒール

 

 彼女がそう唱えれば身体がほんの僅かだけ緑色に光り、苦しそうにしていた表情が和らいでいく。


「…"魔法剣装備"。詠唱、"風の御加護"」

(あいつは何をしてるんだ?) 


 次にラウストは片手に槍ではなく、ゲームでよく見かけるレイピアと呼ばれるものが握られる。ビートには彼女が何をしているのかが分からず立ち尽くしていると、


「剣技」

「――なっ?」


 空気を吸い込んだ直後に、すぐ目前までラウストが迫っていた。


「"乱れ椿"」


 捉え切れないほどの刺突が高速で繰り出される。

 あまりにも強力な攻めに流石のビートも迎え撃つことなく、距離を保とうと試みた。


(っ…!! はえぇ!!)


 けれど一呼吸入れる前に距離を詰められることで、ビートは退避行動すらさせてもらえない。


(やべぇ…再生が間に合わねぇ!!)


 身体を何十回もレイピアで貫かれ、再生を使用して治療をする。そしてまた身体を何十回もレイピアで貫かれ、再生を使用して治療するの繰り返し。止まることを知らぬラウストの猛攻が終わりを告げた頃には、


「はあっ…はあ…」 


 ビートの身体には再生の代償である疲労が積み重なっていた。

 

「"風の御加護"で二回行動にして、奥義技の"乱れ椿"を二回発動する。これが一番良い組み合わせだと思わない?」

「何だよそれ…ゲームの技か何かか?」

「うん。今のはぜーんぶゲームの技だよ」


 ラウストの第二キャパシティは機械的遊戯プレイシステム。ゲームの中で見た技を扱うことができる能力。それが例え現実で"再現不可能"なものでも創造力を消費すれば、どんな技でも再現できる。


「でも、その分の消費は大きいけどね」


 夢にまで見ていた魔法剣や奥義技を発動することが可能だが、欠点としては発動した技の規模によって創造力を激しく消費することになる。ラウストは先ほどの猛攻によって三分の一は創造力を消費してしまっていた。


(ラウストも創造力を消費しているが…俺はこれ以上再生を使えない)


 だが不利なのは再生を使えなくなったビート。後はラウストが長期戦に持ち込んでじりじりと攻めればビートの敗北となる。


「アスモデウス、戻ってきて」

「承知しました」


 ポベートールと空中戦を繰り広げていたアスモデウスがラウストの元まで戻れば、彼女の隣で指示を待つため静かに佇み始めた。


「ねぇ、火力勝負しようよ」

「…火力勝負だって?」

「そう。あなたと私の火力、どちらが高いか競うの」


 ラウストは隣に佇むアスモデウスの身体に手を触れる。

 その途端、それぞれ察知できていた二つの力がガタガタと左右に揺れた。


「私も出し惜しみせずにあなたに最大火力をぶつけてあげる」


 アスモデウスの身体が点滅し、ラウストの身体の中へと吸い込まれていく。その最中に周囲を照らす七色の光、ビートは眩しさのあまり目を閉じてしまった。


「だからあなたも、私に最大火力をぶつけてみてよ」


 少しずつ七色の光がラウストの身体へと収縮していく。


「――"合理化"」


 そんな声と共に目を開ければ、そこにいたのは白と桃色のローブを纏ったラウスト。両肩を露出させたその姿を見たビートは、先ほどとは桁違いの創造力に目を丸くした。


「…合理化。これがあいつの言っていた技か」


 ラウストが発動したのは"合理化"。

 自身のユメノ使者と一体になることで膨大な力を得られることができる技。ビートは雫から"DDOが起こる前に自分が創り出した技"と言われており、七つの大罪は全員がそれを使えると聞いていたのだ。


「合理化を知ってるの?」

「知ってるぞ。その姿はお前にとっての"なりたい自分"なんだろ?」

「…そうかもね。私はゲームの世界の主人公になりたいのかも」


 ラウストが七色に変化させた片目をビートへと向ける。

 

「ゲームなんかよりも、現実でみんなと過ごした方が楽しいに決まってる」

「あなたには分からないよ。私とあなたは"住む世界"が違うんだから」


 ビートに対して彼女はそう吐き捨てると、宙に浮かび上がり七色の片目をより一層光らせた。


「ここは私のユメノ世界。あなたはこの世界にとっての"モブキャラ"」


 それを合図に辺りからぞろぞろと村人やスライム状のモンスター、アラビアンドレスを纏った女型のモンスター、小型のナイフを構えた青年らしき人物が現れる。


「あなたたちで…このモブキャラを倒しちゃえ」

「来るぞポベートール!」


 ラウストが手を下せば、一斉にそれらがビートたちを襲い始めた。どうにか一匹一人ずつ片付けていくが、あらゆる方向から溢れんばかりに増殖する村人やモンスターたちをすべて捌き切るのに、苦戦を強いられる。


(さっきまでこいつらは襲い掛かってこなかったのにどうして…!?)

 

 そんな疑問を抱いていれば、ビートの脳裏に七色に光るラウストの瞳が浮かび上がった。


(そうか、あいつのあの目で操ってるんだな…!)


 ラウストの第三キャパシティ虚眼きょがん。この能力は相手を思いのままに操れる力。一度彼女の瞳を見た者たちは瞬く間に洗脳されて、思うがままに操られてしまう。


「くっそぉお! 数でごり押ししてこようとしやがる!!」 

 

 一対一でならば余裕で倒せる相手が、何十・何百と束になって迫ってくることでビートとポベートールは背中合わせで村の真ん中へと押し詰められてしまう。


「ぐぅぅぁ!!?」

    

 ビートの身体に鎌やらナイフやら突き刺さり、表情を苦痛で歪ませる。


「ざんねん、あなたの冒険はここで終わってしまった――」


 ポベートールもついには光の塵となって消えてしまう。これで残ったのはビート一人。多勢に無勢という言葉はまさしくこの戦況に相応しい言葉だろう。ビートが村人やモンスターやらに囲まれて姿が見えなくなっていく。それを上から眺めていたラウストは微笑みながら勝ちを確信した瞬間、


「――これは仕方ないよな」


 ビートを取り囲んでいた村人やモンスターたちが跡形もなく木っ端微塵に斬り刻まれた。 


「……え?」


 状況が理解できず、ラウストは腑抜けた声を上げてしまう。


「本当ならお前を"ビート"のまま倒したかったけどさ。やっぱり強すぎて無理だったよ」

 

 そこに立っていたのはナックルではなく紅の刀の鞘を持つビート。武器が変わっていたことでラウストは更に動揺してしまい、


「ど、どうしてあなたが刀を使ってるの!? 創造武器はナックルだったのに!」


 声を荒げてそう"ビート"に訴えた。


「ああそれは…"俺"の第一キャパシティが存在抹消ザインデリートとでもいえば分かるんじゃないか?」

存在抹消ザインデリート…?」

「この能力は自分の存在をいつまでも抹消することができるんだ。存在濃薄ザインテイストを極めた先の能力とでもいえばいいのかもな」


 ビートの第一キャパシティ存在抹消ザインデリート

 存在濃薄ザインテイストの更に一段階上の能力。自身の存在を永遠に消すことが可能となり、様々な別の存在へと成りすますことができる。発動条件などはなく、いかなる状況でもこの能力を打ち破ることが不可能。


「ビートくんに…そんな強力な能力があるはず…」

「あれ、まだ気づいていないのか? 俺はビートじゃないぞ」


 ビートじゃないと主張する彼は刀を一度だけ抜刀させると、周囲の建物を一瞬で斬り崩す。


「――俺は朧 絢おぼろ あやだ」


 その名を聞いてラウストは突如記憶が朧絢という人物の記憶が蘇った。


「あなた、まさか今までずっと存在を隠して…!!」

「ま、そういうことだ」


 朧絢。

 彼は初代救世主を支える四色の蓮として務めていた一人。ゼルチュの企みを止めるために今までありとあらゆる自分の存在を消して、"ビート"という存在にすり替わっていたのだ。

 

「ノアたちには言えないからさ。お前と俺の秘密にしてくれ」

「っ…! あなたをここで生かしてはおけないよ!」


 ラウストは青色の槍を何十本も朧絢へと投擲をする。


「俺は、"本物のお前"に負けたことがないんだ」


 朧絢は向かってくる青い槍を一閃で斬り刻んで、ラウストへと距離を詰めていく。


「みんな! あいつを殺して!」


 周囲のモンスターや村人たちを虚眼で操り、朧絢へと襲わせても、


「この程度じゃ止まらないぞ」


 煤を払うように刀の一振りで片付けてしまう。


「"魔法剣"、"風の御加護"、奥義"二重螺旋"」


 ラウストは機械的遊戯プレイシステムで朧絢を迎え撃つため、魔法剣を乱雑に振るい怒涛の十連撃を斬り刻もうとした。


「がふ…っ!?」


 しかしその十連撃を朧絢はすべて華麗に受け流し、紅の刀をラウストの腹部に突き刺す。


「ゲームは大半必ず人間がクリアできるように調整されている。お前はもう少し無理ゲーをプレイして、その技を能力で使った方が強かったと思うぜ」


 絢は最後に助言を耳元で呟きながら、突き刺した刀を引き抜き、


「――じゃあな」

 

 ラウストの身体をバツ印で斜めに二度斬り裂いた。


「…私が…負ける…?」


 地面に背中を打ち付け墜落をしたラウストは、仰向けのまま必死に手を動かして何かを求める。


鈴見優菜すずみゆうなのクローンか。相変わらず質が悪いなゼルチュ」


 その手を朧絢は強く握りしめて、鈴見優菜の近くにしゃがみ込んだ。


「…絢先輩、ごめんなさい」

「気にすんな、お前は何も悪くないさ。悪いのは全部ゼルチュだ」

 

 鈴見優菜は絢の手を強く握りしめて、身体から光を放つ。


「この力を絢先輩に…託して…」

「……ああ、しっかりと受け取ったぜ」


 絢は優菜から力を受け取り、彼女の手を強く握り返す。


「リベロくんに…」 

「…リベロがどうした?」

「リベロくんに…私の勝ち越しだねって…伝えて…おいて…ほしい…なぁ…」

  

 弱まっていく鈴見優菜の声。それを絢は最後まで聞き届け立ち上がり、光の塵となって消えていく彼女のその身体を見下ろした。そこに残ったものは鈴見優菜が頭に付けていたカチューシャのみ。彼はそれを拾い上げて強く握りしめる。


「…存在抹消ザインデリート

   

 そこにいた彼の存在は消え、ビートだけがそこにいる。


「雫、村正…俺が必ず助け出してやるからな」


 そしてビートは目の前にあるユメノ結晶を右拳に装着したナックルで叩き割った。




Beatビート

Toruトオル

Panishパニッシュ

Russelラッセル

Harryハリー

 →BTPRH

 →PBTHR

 →ポベートール

 

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