9:2 ユメノ時間 『開幕』

「…来たんだな、ノア」

「まるで来ることが分かっていたかのような反応だな?」

「風の噂で聞かされたんだ。お前が来ることをな」


 怠惰を象徴するスロースのユメノ世界、そこは真白町の街並みが一望できる学校の屋上。そんな平凡な世界へと眼鏡を掛け直しつつ干渉した者は"ノア"。スロースは赤黒い剣を屋上の床に突き刺し、その戦意を隠すかのように白黒のひょっとこの面を頭に付けた。

 

「何よ? 私はあんたの相手をするのね」

「あはは~! 私が相手だとまずかったの~?」

「そうでもないわ。アホの相手は慣れているから好都合よ」


 勤勉を象徴するストリアのユメノ世界、そこは薄い緑色の芝と心地よい風が吹いている草原の丘。そんなゆったりとした世界へと笑顔で干渉した者は"ルナ"。ストリアは黒色のパーカーを着直して、目立つ金色の髪をフードで覆った。


「やぁ、君もここへ音楽を奏でに来たのかい?」

「違うよ。私は、あなたを倒しに来たの」

「どうしてそんなに気性が荒いなんて…仕方がないなぁ。僕が一曲弾いて落ち着かせてあげよう」


 嫉妬を象徴するエンヴィーのユメノ世界、そこはポツンとある小さな島以外は一面水だらけの世界。そんな歩きづらい世界へと深呼吸をしながら干渉した者は"ヘイズ"。エンヴィーは丸眼鏡をくいっと持ち上げると、くるくるの天然パーマの上に赤色のベレー帽を乗せた。


「おやおや? 弱虫のお出ましかい?」

「僕は、僕は弱虫じゃない! みんなと過ごして、少しずつでも強くなれたんだ!」

「そうかい。じゃあその強さってやつをアタシに見せてみな!」


 堅忍を象徴するマニタスのユメノ世界、そこはどこにでもあるような一般的な空き地があるだけの世界。そんな小さな世界へと自身を鼓舞しながら干渉した者は"グラヴィス"。マニタスは水色の髪のポニーテールのゴムを結び直すと、片手にサバイバルナイフを構えた。


「あなたは…ビートくん、だよね? ゲームをしに来たの?」

「いいや違うぜ。オレはこのゲームを終わらせに来たんだ」

「そうなんだ。終わらせる前に、ちゃんとセーブはした方がいいよ?」

 

 色欲を象徴するラウストのユメノ世界、そこはまさにロールプレイングゲームの世界観が反映されている世界。そんなデータのような世界へと強い意志を持って干渉した者は"ビート"。ラウストは手を掲げ、装飾が派手な槍を創造し、カチューシャを頭に付けた。


「あら? あなた、参拝でもしに来たわけ?」

「私は仏教なんて信じていないの。私の神様は、私しか知らないわ」 

「あっそう。ならその神様とやらに祈って、ここで土に還ることね」


 純潔を象徴するキャスティのユメノ世界、そこは賽銭箱と鳥居が置かれたほんの少し寂れた神社のある世界。そんな神聖な世界へと、神ではなく自分を信じて干渉した者は"アウラ"。キャスティは黒髪のツインテールを揺らしながら、腰に引っ提げている刀を抜刀して彼女へと威嚇をした。


「おっ、どうしたんだこんなところに来て? オレとテニスで勝負したいのか?」

「ううんグリード。私はあなたと命を懸けた試合をしたい」

「…いいぜ! 命を懸けるとなったらオレも手加減は出来ないからな! 全力で行くぜ!!」


 強欲を象徴するグリードのユメノ世界、そこは天井から照明が強く照らし、ボクシングの試合会場を彷彿とさせるステージが置かれた世界。そんな眩しい世界へと、軽く自分の両頬を叩いて干渉した者は"ブライト"。グリードはモジャモジャのロン毛をなびかせながら、ガントレットとブーツを装着して、黒色のキャップを被った。


「あれぇー? あなたの顔は暗いねぇー?」

「あなたが明るすぎるだけだよ。とても燃費が悪そう」

「燃費なんて気にせずキープスマイルー。あなたにも私の笑顔を分けてあげるねー」


 博愛を象徴するアリタスのユメノ世界、そこはふわふわとしたピンク色の雲が漂うメルヘンチックな世界。そんなおとぎ話のような世界へと、片目を押さえながら干渉した者は"ファルサ"。アリタスは銀色の大剣を一振りし、笑顔を保ち続けたまま、長い金髪を揺らしつつメイド喫茶でよく見かける綺麗なお辞儀をした。


「おん、なんやお前? わいが誰だか分かっててこの世界に来とるんか?」

「ええ、分かっていますよ。あなたが両親の仇だってことぐらい」

「おおおん!? 何も分かってへんやないか!! わいに戦いを挑んだことの意味…分からせたるわぁ!!」


 憤怒を象徴するラースのユメノ世界、そこはぽつりと寂しく建てられている学校の敷地周囲を燃え盛る炎が囲んでいる世界。そんな暑苦しい世界へと、狐の面に手を掛けながら干渉した者は"ティア"。ラースは両手首にリストバンドを装着すると、キノコヘアーを荒ぶらせて双剣の素振りを見せつけティアを挑発した。


「ふん、雑魚がこの世界に迷い込んでるなんてね。私に消されたいのか?」

「雑魚か…。俺はこれでも細剣の腕には自信があるんだ。消される心配をするのはそっちの方じゃないか?」

「良いことを教えてやるクソガキ。私に強さを証明したいのなら、人の生首五つは持ってこい」


 慈悲を象徴するエンティアのユメノ世界、そこは真っ赤な夕陽が差し込む町の裏路地がある世界。そんな赤に染まる世界へと、自信満々に干渉した者は"ヴィルタス"。エンティアは長い白髪をかき上げ曲剣を二本創り出すと、刃と刃を擦りつけて金属音を鳴らした。


「ダメだよ? 小さな子がこんなところに迷い込んじゃ…」

「またわたしを子供扱いして…! これぐらい平気だもん!」

「小さい子のお肉ってね。普通の人の何倍も柔らかいんだ。だから…気を付けた方がいいよ?」


 暴食を象徴するグラトニーのユメノ世界、そこは周囲一帯が木々に囲まれたジャングルのような世界。そんな自然にあふれた世界へと、頬を膨らませながら干渉した者は"ステラ"。グラトニーは長い茶髪の前髪におにぎりの付いた髪飾りを付けると、自身の周囲に魔導書を浮かばせてステラに笑顔を向けた。


「こんばんは。こちらに来て、一緒に紅茶でも啜りませんこと?」

「…悪いな、俺は紅茶も本もあまり得意じゃないんだ」

「あら、そうでしたの…。ならあなたはわたくしのティータイムの邪魔をするだけの存在、ここで消えてもらいますわ」


 節制を象徴するアンティアのユメノ世界、そこは何百、何千と本が置かれた棚のある大図書館のような世界。そんな紙にあふれた世界へと、妹のことを脳裏に思い浮かべながら干渉した者は"ウィザード"。アンティアは長い黒髪を自分自身の手で触れ、紅茶のティーカップをその場に落として、二丁拳銃を構えた。


「やっと来たか。ここで待っていたぞ、レイン」

「…あなたは上から見下ろすのが好きなの? 馬鹿は高いところが好きってよく言うけど?」

「見上げるよりも見下ろした方が気分が良いだろう。それにもし俺がその言葉通りの馬鹿なら…お前に手加減はできないかもな」


 傲慢を象徴するプリーデのユメノ世界、そこは空に輝かしい天界が映し出されているのにも関わらず足元には骸がいくつも転がる血の池地獄の世界。そんな血に塗れた世界へと、無表情のまま干渉した者は"レイン"。プリーデは片翼のネックレスを首にかけて、白銀の剣を振りかざしながら骸の山から飛び降りた。


「お前は偽りに包まれた悪だ。俺がお前を制裁してやる」

「おいおい? 優しい嘘ってのもあるんだぜー? 悪と判断するのは早いだろー」

「優しい嘘というのはその場しのぎに過ぎないものであり、その人間を真実から背けさせ迷わせてしまう許せない行為。よって――悪だ」


 正義を象徴するミリタスのユメノ世界、そこは雲の上に立つ宮殿や神殿が立っている天界のような世界。そんな輝かしい世界へと、ヘラヘラした態度で干渉した者は"リベロ"。ミリタスは制服の上着を脱ぎ捨て、手の平をリベロに向けてかざした。



 赤の果実とSクラス。

 いや、正しくは"託された者たち"と"過去の英雄たち"。白金昴のノエルプロジェクトと雨氷雫と月影村正のドロッププロジェクト。その戦いが今ユメの中で、



 ――火蓋を切った。


 

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