8:3 リベロと月影村正

「っと…ここが真のユメノ世界って場所かー?」

「う、うん。多分そうだと思う」

「…それにここは」


 真のユメノ世界。そこへ訪れ最初に見た景色は、ごく普通の町並み。リベロたちはその町並みを"紫黒町"だと理解するのに数秒も必要なかった。


「それにしても本当にここが真のユメノ世界なのかしら? 大して現実と変わらない気もするけど」   


 夢心地となるふわふわとした感覚になるかと思っていた一同だったが、あまりにも現実世界で立っているのと変化がないことでその世界が本当に真のユメノ世界かと疑ってしまう。


「まぁそれを確かめるためにも少し捜索しようぜー。どこかにユメノ結晶とやらも転がってるかもしれないだろー?」

「リベロの言う通りだな。動き回ってみないと何も分からない」  


 グラヴィスたちはリベロの提案を呑み、各々その紫黒町の探索を始めることにした。


「紫黒町にしては…少し古臭い店が多いなー」


 リベロは自分の知っている店があまりないことに気が付き、辺りを見渡しながら試しに大型のゲームセンターへと足を運んでみる。


「おいおい、魔法少女カリンって…めちゃくちゃ古いアニメじゃねーかー」


 ゲームセンターのプライズ景品はほぼほぼ古いアニメのフィギュアやお菓子ばかりで埋め尽くされていた。リベロはそれを目にしてここが確かに真のユメノ世界なんだと確信する。


(ルナにとってのユメノ世界だからなのか?)


 ここは一般的に知られるユメノ世界ではなく、その人物が描く理想のユメノ世界。ルナの記憶から構成されているのならこのように時代が古いのは納得が、

  

(…いや、おかしいだろ。ルナはオレたちと同期なんだぜ?)


 ――いかない。

 ルナとリベロは同じ年の同期。それなのにこの時代に流行っている景品などは一つも置かれていない。記憶喪失という状態だとしても、このように何千年も前の古いものばかりが置かれているのはおかしかった。


「こりゃあ、なにか裏があるな」


 リベロはゲームセンター内を一通り歩き回り何もないことを確認して、店の外へ出ていこうとした…。 


 ――ガタッ


「…?」

 

 が、誰もいないはずのゲームセンター内で物音がしたため、リベロは足を止めて背後へと振り返る。 


「景品が落ちたのか…?」


 そこから鳴り響く警報と『景品を取ってください』というアナウンス。リベロは目を凝らしながらその光景をしばらく眺めていると、 


 ガタガタガタガタガタッ――


 景品が次々と落下し、警報とアナウンスが徐々に増え始めた。


『景品を取ってください』

『景品を取ってください』

『けいひんをとってください』 


 不気味に感じたリベロはすぐさまゲームセンターから飛び出して、紫黒町の交差点まで走り出す。未だに背後から聞こえてくるあのアナウンスと警報は頭の中に焼き付くようにいつまでも木霊していた。


(ここは何かヤバいぜ…!)


 交差点まで戻ってくるとグラヴィスたちが彼のことを待ちわびていたようで、手を振りながら「おーい」と呼びかけてくる。


「リベロ君は何か見つけた?」

「いやぁ? 何も見つけられないし、何ならここにはオレたち以外に誰かいるかもなー」

「誰かって…人がいたの?」

「あの騒がしいゲームセンターに行けば分かるぜー」


 ファルサにそう返答するリベロ。そんな彼の背中に小さな箱型のものがぶつかり、嫌な予感がしたリベロは足元に転がっているモノを見る。


「…魔法少女カリンのフィギュア?」


 どうしてこんなところに…と二階にある大型ゲームセンターを見上げてみれば、


「何だ…!? 何か飛んでくるぞ!?」 

 

 小型の箱や袋に包まれたモノが入り口から、リベロたちに向かって飛んできた。


「これってお菓子…?」

「こ、これはフィギュアだよ…!」


 プライズの景品。

 お菓子やフィギュアやオモチャなどが次々と彼らの方へと飛ばされてくる。


「そんなにゲーセンの景品いらねぇよ!」


 リベロはガラス製の壁を前方に創造して、意志を持つかのように飛んでくる景品たちをそこでせき止めた。


「…収まった?」

  

 ある程度の時間防いでいればゲームセンター内の景品すべてを飛ばし尽くしたようで、ある時を境にピタリと止んでしまう。



「これだけじゃ、防犯システムにもならないか」


 

 ゲームセンターの入り口から聞こえてくる男性の声。

 リベロたちはすぐさま二階を見上げて、その声の主へと視線を注目させる。


「あなたは誰かしら…?」


 そこに立っていたのは前髪で片目が隠れた白髪の髪型に眼鏡を掛け、白衣を纏う男性。酷似している…とまではいかないが、ややリベロの面影があるようにも見える。


「あの人…もしかして…」


 グラヴィスはその男性に見覚えがあるのか、急いでジュエルペイを起動して真実というタイトルの資料を確認する。


「…やっぱり」


 グラヴィスは一定のページでジュエルペイを操作する指を止め、何度もその男性の顔とジュエルペイに写る画面を交互に見て照らし合わせ、強い確信を持つと、


「あの人は――月影村正つきかげむらまさだよ」


 リベロたちへとその男性の名前を伝えた。


「月影村正? それってあの資料に書かれたナイトメアの代表者じゃ…」

「そうか。お前たちは真実となる資料を見つけたんだな」 


 月影村正、彼は二階から飛び降りリベロたちの前へ華麗に着地をする。

 

「ここへ何をしに来た? "コイツ"のユメノ世界を覗くことが目的じゃないんだろう?」 

「ああその通りだ。俺たちはルナを助けるためにユメノ結晶を破壊しに来た」

「…ユメノ結晶、か」


 村正はウィザードから目的を聞くと、溜息をつきながら額を片手で押さえた。どうやらリベロたちがここへやってくること自体に問題があるようで、月影村正という人物は露骨に嫌な顔をしている。


「俺はユメノ結晶がどこにあるのかを知っている」

「ほ、本当ですか!? じゃあその場所を僕たちに教えて――」

「だが教える気はない」


 期待をしたグラヴィスにそう断言した月影村正は、両手に黒と白の剣を創造しその剣先をリベロたちへと向けた。


「どうしてだよー?」

「お前たちにはここで消えてもらうからだ」


 村正はリベロにそう答える。

 彼はその返答を聞いて「じゃあさー」と言葉を続け、


「オレたちがお前に勝ったらユメノ結晶の居場所を教えてくれよなー?」


 創造武器である大剣メルムを片手に握りしめ、お返しだと言わんばかりに剣先を向け返した。


「俺に勝つつもりなのか?」

「さぁなー? "勝てる気はあんまりしない"けどー」


 リベロは言葉巧みに第一キャパシティである嘘吐きライアーの能力を発動しようとしたが、


「嘘吐き、その能力の詳細はよく知っている。今の発言は真実と見せかけた嘘、だ」

「…!」


 彼の第一キャパシティを完全に把握しているのか、すぐに組み込もうとしていた"真実と見せかけた嘘"が見破られてしまう。これにはリベロも目を見開いて驚きを隠せずにいる。


「おいおい、誰だよオレの能力をリークしたやつは?」

「お前のだけじゃない。魔術マジック白霧ホワイトミスト分析アナライズ黒夢ブラックドリーム。俺はお前たちの第一キャパシティをすべて把握している」 


 村正はリベロの能力だけでなく、ウィザードやグラヴィス、そしてファルサとファルスの能力まで知り尽くしていた。全員その場で戸惑いを見せるが、グラヴィスがすぐに「そうか…!」と何かを思いつく。 


「ここはルナさんの記憶だけで形成されたユメノ世界。もしあいつもルナさんの記憶の一部分となる存在なら…僕たちの能力を知っていて当然だよ!」


 真のユメノ世界はその者の記憶と理想の世界。月影村正という男性がルナと関わりがあり記憶の一部に残っている人物なら、彼がルナの知ることを知らないはずがなかった。

 

「…そうだといいな」


 村正は黒と白の剣で構えを取る。


「二刀流かー? アニメの見過ぎだぜー」


 その型は二刀流。

 リベロはそれを鼻で笑って馬鹿にする。


「敵を馬鹿にしても」


 村正は二本の剣を軽く振り回すと、


「得られるものは負けた時の"屈辱"だけだぞ」 

「来るぜ…っ!」


 周囲に強烈な衝撃波を放ち、辺りの建物をすべて崩壊させた。リベロとグラヴィスはB型特有の防御能力で頑丈なコンクリートの壁を創造し、その衝撃波から仲間たちを守る。


「B型は防御能力に特化した型と聞いたが…」

「っ…!?」

 

 衝撃波が止んだ途端、リベロとグラヴィスが創造した壁がバラバラに斬り刻まれ、村正が二刀流を構えて正面から突っ込んできた。


「その割にずいぶんと脆いな」

「ウィザード!」

「分かってる!」


 ウィザードは創造武器であるガンバンテイン、ヴィルタスは細剣を創造して村正を迎え撃つ。


「A型は攻撃能力に特化した型と聞いたが…」

「――!?」


 しかし村正はそれらの武器を二刀流を扱い一瞬で弾き飛ばしてしまった。

 

「その割にずいぶんと弱いな」


 ヴィルタスとウィザードは二刀流による衝撃波で左右にある瓦礫の山まで吹き飛ばされる。それを見たファルサとアウラはすぐに二人を助けようと別々に行動を起こそうとしたのだが、 


「C型は治癒能力に特化した型と聞いたが…」

「おい避けろ!」


 月影村正はあまりにも速すぎた・・・・。ウィザードたちを吹き飛ばしてから、アウラとファルサの元へと接近するのに僅か一秒足らず。それは七代目救世主の小泉翔と変わらぬ速さ。


「その力を見ることもなさそうだ」


 ファルサもアウラも、瞬く間に衝撃波によって宙へと吹き飛んでいく。


「グラヴィス…! ファルサとアウラをどうにかして着地させろ!」

「え、えぇ!? どうにかって…」 

「マットでも何でも下に創造するんだ! オレはアイツの気を引く!」


 グラヴィスに二人の事を任せたリベロは、大剣メルムを片手に構えつつ全力で月影村正の背後へと接近をした。


「創造武器。そんなものも確かに作られていたな」

(こいつ、どんだけ筋力にステ振りしてんだよ…!)


 村正は左手に持つ白色の剣で大剣メルムによる斬り上げを受け止める。どれだけ押し上げようと力を込めても、村正の剣はピクリとも動かない。


「お前はどう思う?」

「何がだよー?」

「ルナについてだ。あいつは本当に"ルナ"として生きていけると思うか?」

「はー? お前が何を言っているのかオレには理解が出来ないぜ…!」

 

 リベロはメルムに第二キャパシティ火輪紅炎ソルプロミネンスで炎を纏わせて、辺りに火炎の渦をいくつか作り出す。それらはすべて村正の元まで徐々に徐々にと近づき始めた。リベロはグラヴィスがファルサとアウラを上手く救出できているのを横目に、次はどのような手を打つかを考える。


「…懐かしいな」

「懐かしい? こんな炎に懐かしみを感じているのかよー?」

「あぁ、まだ俺が目を覚ましていない頃にな。こういう状況になったことがあった」


 村正は炎の渦に囲まれても焦らず、ただ懐かしむように辺りを見渡し、

 

「その時は――こうやって乗り越えた」


 今までのとは比べ物にならないほど、強大で大規模な衝撃波を周囲に放ち辺りの炎の渦を跡形もなくかき消してしまう。


「…マジかよ」

本気マジだ」


 頬を引きつるリベロを村正は鼻で笑った。ディザイアと同等、もしくはそれ以上の実力を月影村正は隠し持っている。リベロはそう薄々と勘付いていたが、

 

(…何が目的なんだ?)


 いつまで経っても全力で殺しに来ない村正に疑問を抱いていた。ディザイアと対峙した際は言葉にせずとも明らかな殺意が感じられたというのに、村正と対峙していても殺意というものはまったく感じられないのだ。


「もう一度聞く。お前はルナがルナとして生きていけると思うか?」

「…意味が分からないぜー? ルナはルナだろー?」

「そうか。お前たちはルナの正体を知らないんだな」

 

 村正は何かに納得し、リベロたちへと聴こえる鮮明な声で、ハッキリとこう述べた。


「――ルナは初代教皇の生まれ変わりだ」

「……は?」


 突然告げられた真実。

 リベロたちはその場で呆然としてしまう。 


「俺は既にアイツがお前たちへ打ち明けていると思っていたよ」

「ルナちゃんが初代教皇の生まれ変わり…って」

「数千年前の初代教皇がこの時代に、今のルナとして生まれ変わったんだ」


 すぐには信用が出来なかった。いや、出来るはずもない。あの無邪気で天然なルナが過去に残酷非道だと謳われていた初代教皇という真実など。


「初代教皇は憎しみに、殺意に、復讐に溺れている。そんなアイツは初代救世主のノアを殺すことしか考えていない」

「お、おい待ってくれ! ノアが初代救世主と言ったのか!?」 

「本当に…あの二人は何も話していないんだな」 

 

 村正はリベロたちにすべてを語った。

 ノアもまた初代救世主の生まれ変わりで、最大の敵である初代教皇のルナと同様にこの時代へとやってきたと。そしてお互いに復讐心に溺れていたと。それを聞いたリベロたちは口を開けたまま、その場で愕然としてしまう。


「それを踏まえてもう一度答えろ。初代教皇はルナとして生きていけると思うか?」 

「……」

「初代教皇としてのアイツ、ルナとしてのアイツ。今では初代教皇が勝っている。このままだとアイツは初代救世主に復讐するだけの鬼になるぞ」


 各々、頭の中でルナの顔が思い浮かぶ。どれもが綺麗で忘れられない思い出。それらはルナだったのか、それとも初代教皇だったのか。リベロたちは分からなくなってしまった。

 

「俺はそうなる前にアイツを止められるようここにいるんだ」

「だからルナさんをユメ人に?」

「正確には"初代教皇を"、だ」

「…そんじゃあさー? オレたちをこうやって止めているのも全部――」

 

 ――ルナの為だった。

 リベロがそう言いかけた時、


「アッハハ!!」


 高笑いと共に近くの瓦礫が塵となってしまう。


「…ルナちゃん?」


 そこにいたのはルナ。

 誰もが最初はそんな印象を抱いたが、


「――初代教皇」


 月影村正は"ソレ"をルナとしてではなく初代教皇・・・・と呼んだ。

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