7:4 第五殺し合い時間 『開幕』
殺し合い週間が始まるまで残り一時間。赤の果実は新メンバーであるビートとアウラを加えて、Zクラスの教室で先の戦いに向けた会議を行っていた。
「…という配置にする。A型は前衛で攻め、B型はA型とC型の守りに徹し、C型は負傷した仲間の治療だ」
「質問」
「何だ?」
「こっちは十四人で相手も十四人。乱戦が必須になるこの戦いに、最近加わって未熟なビートを前線として出すのは危険だと思う」
レインが手を挙げてノアへとそんな意見を述べる。
「アウラもC型だからいいけどよー? 初戦でSクラスって厳しいと思うぜー」
それに賛同したリベロもまた手を挙げて、追加の意見を述べた。
「既に陣営が決まっているんだ。今更変えられない」
「そういう意味じゃない。配慮はしないのかって話」
「配慮?」
「例えばビートと私の二人一組で手を貸し合って戦う、とか」
レインの提案を聞いたノアは首を横に振り、
「お前はSクラス相手に手を貸し合うほどの余裕があるのか?」
「それは…ない」
「なら自分のことを第一優先に考えろ」
冷たくそう言い放った。
「おいおいー、何でそんなに厳しくなってんだー? なんか嫌なことでもあったのかよー?」
「それは今のこの場では関係のない話だ。それに…お前も気を抜いていると死ぬぞ」
ノアとルナは前日の険悪感を漂わせながらその日を迎えている。その影響のせいかノアはピリピリとし、ルナは口を閉ざしたまま一言も喋らなくなっていた。
「心配すんなって! オレは大丈夫だからさ!」
ビートが緊張に張り詰めた場を明るくしようとレインたちを鼓舞する。それでもあまり元には戻らない嫌な空気。それを感じ取ったメンバーたちは、
「私、ちょっとお手洗いに行ってくるね…」
「あっ、私も行く」
「オレはその辺ちょっと散歩してくるわー」
その場から逃げ出すように、ノアから逃げていくようにして各々どこかへと去っていった。
「……」
ルナもまたそれに便乗して、教室から姿を消す。Zクラスの教室に残されたのはノアただ一人。
「…どいつもこいつも」
赤の果実は最悪な状態…だというのにノアだけは平常運転のまま。
「…俺は勝たないといけないんだ」
そんな台詞を独白し、彼は自身の瞳に初代救世主としての自分を映し出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おっ、来たみたいだぜ!」
「やぁ、遅かったじゃないか。おかげで一曲出来ちゃったよ」
Sクラスは今月の殺し合い週間で増えた新たな場所であるグラウンドで赤の果実を待ち構えていた。グリードとエンヴィはぞろぞろと昇降口から現れるノアたちを見て、歓喜の声を上げているようだ。
「そうか」
ノアは単調な返答を二人へと送り、Sクラスの一同と向かい合うと最前線となるであろう先頭に立った。
「お前たちが俺たちと正面から戦ってくれるなんてな」
「……」
「これはわいも予想外やった」
プリーデたちはノアたちが巧妙な作戦を立てて、自分たちへ攻撃を仕掛けてくると予測していたのだ。一番あり得ないことは今の状態のように「正面から向かってくる」ということ。これにはプリーデもラースも驚かざる負えない。
「どっちでもいいよ。私はお前たちがどんな手を使ってこようが負ける気はしないから」
「血気盛んですわね。けど、わたくしもあなた方には負ける気がしませんわ」
この「負ける気がしない」と思っているのはエンティアとアンティアだけでなく、七つの大罪と七元徳全員だった。その証拠にノアたちよりも何十倍も穏やかな表情を浮かべている。"戦いは日常茶飯事"、とでも言いたげな余裕の構えでノアたちの前に立っているのだ。
「位置につくぞ」
前衛をノア・ルナ・レイン・ビート・ブライト・ヴィルタス・ウィザードで硬め、防御の要となる中衛をリベロ・グラヴィス・ティア・ステラ、後衛はファルサ・ヘイズ・アウラという陣形へと赤の果実は変更する。
「陣形を組んだか」
「何も考えずに戦うやつよりは幾分かマシよ」
スロースが赤黒い剣を、ストリアが銃剣を構えれば他のメンバーたちもそれぞれ自身の獲物を創造して戦闘態勢へと入った。
「…三十」
校舎についた時計の秒針を見て、レインが殺し合い時間が始まるまでの秒数を呟く。
「…二十」
ディザイアたちとはまた違った緊迫感。そこには全力を尽くしても埋まらない実力の差が含まれているようで、レインたちも自信というより、勝機があると自分たちの豪運を信じるしか他ならなかった。
「…十」
残り十秒のカウントダウン。
先頭に立っていたノアとルナが駆け出す。
「…九」
それを迎え撃つためにスロースとストリアも駆け出す。
「…八」
ウィザードとヴィルタスも創造力で身体能力を向上させ、自身が迎え撃つべき標的を定める。
「…七」
プリーデはルシファーを、ミリタスはメタトロン。
それぞれユメノ使者を呼び出し、戦の前の一呼吸を入れる。
「…六」
中衛のステラも対抗すべく、ユメノ使者であるモルペウスを自身の背後へ呼び出すと、指を差して敵が誰なのかを判別させる。
「…五」
グラトニーは宙に漂う魔導書、ラースは双剣。
自分の獲物を強く握りながら左右へと走り出して、赤の果実を挟み撃ちしようと試みる。
「…四」
薙刀の岩融を握るティアがラースへ、モルペウスを操るステラがグラトニーの方角へと身体の向きを変える。
「…三」
エンヴィがキーボードに指を走らせて上空へ何百本もの水の矢を生成する。
「…二」
それを撃ち落とすべく、後衛のヘイズがアポロンの弓へと指を掛けて暗い夜空へとその矛先を向ける。
「…一」
レインは雨露霜雪で攻撃の型である豪雨へと移行して、地面を強く蹴った。
「……ゼロ」
その瞬間、島全体に響き渡るほどの狂った鐘の音が鳴り、
「消えなさい…!!」
「お前がな…!」
ノアの二丁拳銃とスロースの剣が衝突した。それに続くようにして、ルナの大鎌とストリアの銃剣、水の矢とヘイズの弓矢が丁度同時にぶつかり合う。
「子供は帰って寝た方がいいよ?」
「馬鹿にして…!」
グラトニーに向かって、モルペウスの光のレーザーを放ち、右からの侵攻をステラが食い止め、
「なんや? わいの相手は弱そうやな」
「弱いかどうかは…叩いてみないと分かりませんよ。ラース」
ラースが振るう双剣を、ティアは薙刀で受け流しながら左から侵攻を食い止めていた。
「おらぁ!!」
「きゃっ!?」
腕と足にガントレットとブーツを装着したグリードが上空からブライトの立っている付近へと拳を叩き付け、辺りに大きな地割れを起こす。
「オレが相手してやるよ! 来な!」
「テニスの試合では負けたけど…ここでは負けない!」
ブライトとグリードの攻防が始まれば、今度はラウストが槍を片手にリベロの元まで突っ込んできた。
「おいおい? ゲームっぽいその槍で戦うつもりかー?」
「戦えるよ。ゲームも現実も、同じだから」
「ほー、それなら病院に行くことをオススメするぜ…!」
リベロはそれを迎え撃つために大剣メルムを創造し、槍を正面から受け止める。
「やるじゃないか」
「…ずいぶんと上から目線なのがムカつく」
最前線ではレインのムラサメによる刀の連撃をプリーデは華麗に避けつつ、上から見下ろすような態度で彼女のことを称賛していた。
「それは、お互い様だ!」
「霧雨…!」
白銀の剣による斬撃をレインが回避の型である霧雨で回避する。戦況が有利なのか不利なのか、それを確かめるためにレインは周囲を見渡した。
「制裁の光を」
「うお…っ!?」
ミリタスの相手はまだ戦闘経験が少ないビートが務めている。これは非常にマズイ事態で、このままではいつかは倒されてしまう。誰か援護に迎える者はいないかと中衛側を模索しても、
「貧弱な身体ですわね」
「その皮を被っているような態度…気に食わないわ」
「身体能力だけでお前が私に勝てるはずがない」
「小さい身体のくせして威張るなよ…!」
アンティアとアウラがお互いに挑発をし合いながら交戦し、ヴィルタスとエンティアが細剣と曲剣で攻防を繰り返し火花を散らしている。
(陣形が崩れている…)
後衛にいるはずのアウラと前衛にいるはずのヴィルタスが中衛まで移動してしまったことで、陣形が徐々に崩壊しつつあり、いずれは散り散りとなる。
「う、うわぁぁ!!」
「弱虫が! あたしから逃げるんじゃない!」
「魔力を潜在能力として持つのは結構。でもそれを扱う前に私の刀があなたを斬る」
「速いな…! これじゃあ能力をまともに使え…」
グラヴィスはナイフを持っているマニタスに追いかけられ、ウィザードはキャスティの刀を避けることで精一杯。
「みんな! 位置がバラバラに…」
「は~い、あなたの相手は私がするねー」
ファルサも何とか全員に呼び掛けようと試みるが、その声は届く前にアリタスにより阻止されてしまう。
「仲間のことを心配している場合か?」
「っ…!?」
どうすればいいかと考えていれば、その隙を狙ってプリーデが上空から斬撃を飛ばす。レインはそれをムラサメで受け止めきれず、砂煙と共に吹き飛ばされた。
(間違いない。このままじゃ――)
――私たちは全滅する。
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