7:2 Zクラスはウィッチに諭される

「戦うのをやめなさいって…」 


 普段から面倒くさそうに授業を行うだけで助言の一つも与えてくれないウィッチ。そんな人物が今日この場で初めて、口出しをしてきたことでノアやルナでさえこの状況が掴めずにいた。


「そのままの意味よ。あなたたちじゃSクラスには勝てないわ。真正面から挑むのはやめなさい」

「ウィッチ先生、急にどうしたんでしょうか? いつもなら私たちがどうなろうと関係ないような態度を取っているというのに…」


 ウィッチはティアに「ええ、そうねぇ…」と考える素振りを見せ、


「とにかく、Sクラスとの戦いにあなたたちは勝てないの。今すぐ逃げるか一週間耐えられる作戦を考えるのよー」


 話を切り上げようとした。

 が、そんなウィッチへついにノアはこんな質問を投げかける。


「ウィッチ先生、あなたたちは何者なんですか?」

「……」   

「ゼルチュの元で働くただの教師がユメノ使者を呼び出せるとは思えない。それにウィッチ先生は上からの指示に従うだけだと前に言っていましたが…Sクラスとの戦いに勝てないから逃げろ、というのも上からの指示だと?」


 ゼルチュは殺し合いを見世物とさせることを望んでいる。ならばSクラスとZクラスとの殺し合いは真正面からぶつかり合うものを理想とするはず。それなのにウィッチはその逆をノアたちへと推奨しているのだ。


「…それは私個人からの忠告よ」

「忠告~?」

「ええ、七元徳と七つの大罪の力にあなたたちじゃ敵わないわ。正々堂々と戦おうなんて考えても無駄」


 やけに強く戦うことを否定するウィッチ。

 ノアとルナはそんな担任に不信感を覚えてしまう。


「Sクラスを密告システムで潰そうと考えることもやめなさい。Bクラスとの戦いが上手くいったから次も上手くいく…なんてこと絶対にありえないわ」

「…じゃあ仮に逃げるとして、どこへ逃げろというんですか? 校舎内はほぼ閉鎖空間、Sクラスのあの人数じゃ逃げたところで回り込まれて終わりです」  

「安心しなさい。今月の殺し合い週間から校舎内だけだった範囲が、"校舎外の敷地"も含まれるようになったから」


 校舎外の敷地。

 それはグラウンド、校舎裏、体育館周りなどが殺し合い週間中に解放されるということ。校舎内と校舎外が範囲となれば、確かに逃げる側としても有利となるが…。


「いくら敷地が広がったところで殺し合い週間は一週間もあるんですよ? そんな長い間逃げ続けるのは無理です」

「だから私が上に直談判して、これからの殺し合い週間を"一日"にしてもらったのよ」

「……!!」

 

 ノアたちは軽々しく重大なことを述べたウィッチを見ながら硬直してしまう。七日間という長い期間で今まで行われていた殺し合い週間がこれからたった一日へと変わること。 


「一日にしたって? それをゼルチュが本当に許してくれたの~?」


 これほどまで大規模までな変更を、あのゼルチュが快く承諾してくれるとは思えない。ルナは真偽を知るためにそのことについて追求した。


「…"条件付き"で許してくれたの。疑っているのならジュエルペイで殺し合い週間の項目を見てみれば?」

 

 殺し合い週間について書かれた項目欄。

 各々自分のジュエルペイの画面を操作して、規則が書かれた文章を読んでみれば、


「ほ、ほんとだ…! 僕たちのジュエルペイに書かれていた文が訂正されてる…!」


 七日間が二十四時間へと変わっていた。付け加え、『殺し合い週間』という文章も『殺し合い時間タイム』へと変更されている。


「これから第三週目の水曜日…今月で例えるなら十月十六日が殺し合い時間タイムとなるわよ。ちゃんと覚えておきなさい」

(二十四時間…そんなに殺し合いをさせる期間を短くすれば、上位クラスが一進一退をひたすらに繰り返す。そうなれば入学当初に決めていた一年間で救世主と教皇なんて絶対に決まらない)

  

 ゼルチュは必ず終わらせると確信をしているからこそウィッチの提案を受け入れたのだろう。そうでなければ残り四ヶ月近く、回数なら四回の殺し合い時間で現在生き残っているSクラス、Aクラス、Zクラスから十人だけ生き残らせることは不可能だ。 


「ほら突っ立ってないで席に着きなさいよー。授業始めるからー」

(…ゼルチュ。あいつは何を考えている?)

  

 ノアは殺し合い週間が殺し合い時間へと変わり、ゼルチュへの不信感をより一層強めながらもウィッチの授業を受けることにした。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「ゼルチュ、本当に良かったのか?」 


 ディザイアとレインたちが死闘を繰り広げた体育館。そこではゼルチュとデコードの二人が横に並び、荒れ放題の体育館内を眺めていた。


「何がかな?」

「ウィッチの提案のことだ。殺し合い週間を七日から一日へ、しかも殺し合いのエリアを校舎外まで広げる。これをどうして承諾した? 私はあまり納得していないぞ」


 体育館の隅にはアニマとペルソナがゼルチュの側近として変わらず佇んでいる。デコードはアニマとペルソナの監視の目を浴びながら、ゼルチュへと問いかけた。


「現在の生存状況はZクラスの生徒十四名、Aクラスの生徒二名、Sクラスの生徒十五名。CクラスとBクラスは全滅という数が少ない状態。このままではすぐに決着がついてしまうだろう」

「…時間稼ぎだな?」

「その通りだよ。それに見ている側もそろそろ大きな変化が欲しい頃のはずだからね」


 デコードはそう語る彼の顔を見て、もう一つあることを尋ねることにした。


「すぐに決着がつく…というのはお前にはこの殺し合いの末に生き残る者たちが見えているのか?」  

「見えているとまではいかないが、"彼女"は必ず生き残ると思っている」


 ゼルチュが指す"彼女"という人物。

 デコードは名を聞かずとも誰の事かすぐに見当が付いた。


「デコード、例の計画は来月には行えるね?」

「ああ、私の計算上では今のところ大きな遅れはないはずだ。ただ…」


 彼女はゼルチュに何かを言いかけて、口を閉ざしてしまう。


「…どうしたんだい?」

「いや、何でもない。計画とは関係ないところで問題が起きているだけだ」

「その問題というのは?」

「ジュエルペイのシステムをハッキングしようとしている生徒がいる。今は人工知能のミラがファイヤーウォール代わりになって防ぎ、逆探知でその生徒の位置は既に掴んでくれた」

 

 タブレットを操作し、不正アクセスを検知した際の画面を表示させ、ゼルチュへとタブレットを見せた。


「…Zクラスのグラヴィス君か」

「彼は自身の部屋からジュエルペイの管理システムへ何度も攻撃を仕掛けてきている。今こそまったくミラを突破できはしないが、後々に面倒なことになるかもしれない」

「ここまでしつこくジュエルペイのシステムを乗っ取ろうとしているってことは、グラヴィス君は何かに気が付いてしまっているようだね」

「どうするんだゼルチュ?」


 デコードのタブレットを見ながらゼルチュは一つ小さな溜息を溢し、


「――問題ないさ。どうせ今月でZクラスは片付くんだ」


 微笑を浮かべ、続けてそう呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る